研究者による情報発信をもっとアクティブに!
【吉澤剛氏にインタビュー】市民や企業をまきこんで、科学をもっとおもしろくさせよう!
- インタビュー日本語記事
- August 5, 2014
大阪大学大学院准教授の吉澤剛さんにインタビュー!
「政策のための科学」に関わり、政策デザインワークショップを主催する吉澤さん。テクノロジーアセスメント、知識政策がご専門で、大阪大学の「医の倫理と公共政策学」にて准教授をつとめられる傍ら、2007年よりNPO市民科学研究室の理事もされています。
科学にもっと市民や企業が参加し、もっと面白くするための様々なアイディアや実践を語っていただきました。
吉澤剛/GO YOSHIZAWA
大阪大学大学院医学研究科 准教授
<プロフィール>
慶應義塾大学理工学部物理学科卒業後、東京大学大学院(科学史)修了。民間シンクタンクに2年半勤務した後、2002年よりイギリスサセックス大学にて科学技術政策を研究。2008年にPhDを取得し、東京大学公共政策大学院・科学技術と公共政策研究ユニット(SciTePP)に加わる。2011年より現職。専門はテクノロジーアセスメント、知識政策など。
第2回 研究者による情報発信をもっとアクティブに!
湯浅 今は、主にどういう研究をご専門にされているんですか?
吉澤 主に遺伝情報などの個人情報の法的、社会的、倫理的な扱いを研究しています。人の髪の毛からガンになりやすい家系がわかるというような時代が来つつありますよね。その時、遺伝子情報のどこまでを個人情報として守るべきかは明確になっていません。
逆に研究者は、そういった情報がないと研究が進まないので、あらゆる情報を集めますし、データを共有します。でも遺伝子解析をされた個人は、自分の情報をどこまで預けていいのか、という問題になると、全然ポリシーが整備されていないんです。それを変えていきたいですね。
湯浅 吉澤さんのご専門には「テクノロジー・アセスメント」というキーワードが出てきますが、これは具体的には何をするんでしょうか?
吉澤 簡単に言うと、新しい技術が社会に入っていくときに、どんな現象が起こるのかを見る。これから新しいシーケンサーなり、遺伝子解析技術が発展していったとして、例えば、それが5年後、10年後、社会にどういう影響をもたらすのかを分析するという、実践的なアプローチです。
湯浅 吉澤さんが関わっている「市民科学研究室」は、科学を一般市民に分かりやすく伝えていく活動だと理解していますが、これはどういうった経緯で始められたのでしょうか?
吉澤 「市民科学研究室」は、通称「市民研」って呼ばれているのですが、その中に、当時、科学技術評価プロジェクトみたいなものがありまして。国の大きな研究開発プログラムを市民の視点で評価しようというもので、それはおもしろそうだなと参加したのがきっかけですね。
湯浅 なるほど。「市民研」は、おそらく、科学を身近に感じていない市民の方たちに対して情報を発信をしていく、または市民の方たちからフィードバックを頂くということになりますね。
サイエンストークスではこれまで科学者と科学政策関係者を含む様々な科学のステークホルダーのためのコミュニケーション・プラットホームを目標としていますが、実際に科学政策に携わっている方としては、科学者と科学政策の関係はどういう風に見えるのでしょうか?外から見ると、そこのコミュニケーションが本当にできているのか、相互理解がなされているのかという疑問はあります。
吉澤 私の所属する大阪大学の医学部ではまわりが研究者ばかりなのですが、それを見ていますとやはり研究と政策は遠いという感じがしますね。
欧米と違い、日本の社会は均一的な部分があるので研究者と政策実務家は、対話をすれば分かる部分もあるのかなと思ったのですが、そこで本当の議論ができるかと言えば、なかなかそれが難しい。少し政策びいきになってしまうかもしれませんが、研究者がもっと政策のほうに理解がないといけないのかもしれませんね。
湯浅 それはどういうところで感じられたのでしょうか?
吉澤 やはり、自分の研究分野の大事さを信じて疑わないというところですかね。大事なのは分かりますが、他の分野に比べてどうなのか。例えば、年金問題と比べてどうなのかとか、そういった全く違うものと比較して訴える力が必要ですよね。それは政治、政策そのものなのですが、そこに訴える思いがないと感じています。
その部分は政策側からみると受け入れられないんだろうなと思います。しっかりと自分で訴えていくことが必要なのだと思います。
湯浅 では、それをどのようにおこなったらいいのでしょうか?
吉澤 第5期科学技術基本計画につながってくると思うのですが、1つはもう少し、研究者自身が自分で情報発信するという機会を設けるべきなんですよね。それは、科学コミュニケーションしましょうというレベルじゃなくて、それがないと、自分たちの研究費が降りてこないくらいの勢いでやらないといけない。
極端な話、科研費のプロポーザルを書くときに、その研究はなぜ違うのか、他の研究と比べてどうなのかを書くべきだと思います。
日本の今の実情まで書く必要はないのですが、公的資金、すなわち税金を使ってまでその研究をやる意味は何なのか。イギリスでは研究プロポーザルのフォーマットに、「一般市民に説明するために、あなたの研究を非常に分かりやすい言葉で書いてください」という欄があります。そういうのを事前にやらないと、研究者は社会を意識しないですよね。
プロポーザルを書いているときには研究者は科研費を獲得することが全てで、獲れてしまえばあとは研究すればいいだけとなってしまいがちです。その後で、「科学コミュニケーションをしましょう」と言っても、なかなか難しい。
湯浅 市民科学研究室の活動は、簡単にいえば、市民から科学に参加してどういう科学が社会にとっていいか悪いかを話し合うという活動になるのでしょうか。
吉澤 「市民科学」を掲げているので、市民が科学者コミュニティとは違った立場で科学する、という活動です。
湯浅 市民としての科学。
吉澤 そう、市民としての科学。
湯浅 私も科学者ではなく市民なので、市民の立場でよく感じるのは、大学の先生イコールすごい人で、何をおっしゃっているのか難しくてわからないけど、この人がそう話しているから、わからなくてもいいかなっていう部分もあるかと思います。大学の先生は専門家という位置付けという風になってしまっている可能性があると思います。
話が変わりますが、最近話題になっていますが、個人の研究者が研究費をクラウドファンディングで集めることができる「アカデミスト」というサービスが立ち上がりました。このサイトのやり方がまさに、研究者の人が一般の人からお金をいただくには、市民に研究の面白さと意義をコミュニケートしていくことが必要であるというモデルになっています。
今後はやはり、市民に向けて科学をどうコミュニケートするのかという部分は、確かに研究者にとって重要になってくると思います。
逆に、科学政策の側からが研究者に向けて直接的にこの点についてサポートできるようなことはありますか?
吉澤 それを考えていたんです。国がそういうクラウドファンディングを奨励するのも、なんか違いますよね。うまくいかない気がします。
だから、研究者をプロモートするとしたら、直接的にはファンディング・システムを変えないといけないというのは、まずあると思います。本当に行うのであれば、学会や大学というものの自立性を高めるようにしないといけない。どちらも今、基本計画に欠けていますよね。
例えば学会に、その分野で彼らなりの科学技術基本計画を出してもらって、向こう5ヵ年、この分野はこれだけ社会にとって重要、これだけお金が政府から必要です、と説明する。さらに「その成果は5年後にこういった形で評価します」とを書いた基本計画を政府に送る。
こういう具体的な計画がたくさんの学会、大学から出てくれば、それをもとに政策を作ればいいと思います。お金はそれにしたがって配分したらいいですよね。一般市民を交えて、「この学会はおもしろいけどこの学会はそうでもないな」という議論や評価をやってもいいと思います。
科学政策は必ずしも政策実務家の鉛筆だけで決めるのではなくて、市民にちゃんとそのような体制を作ってもらうのが、非常に難しいですが、理想的な形だと思いますね。
(聞き手 湯浅誠)
科学を一般市民にわかりやすく伝えていく「市民科学研究室」というプロジェクトの活動経験がある吉澤さんは、一研究者の立場として、多くの研究者は自分の研究の重要さを訴える力がないのではないかと話されておりました。そこで、研究者は自分たちの研究をもっともっと情報発信して、「市民としての科学」を確立し、国の政策面では、大学や学会の自主性を高め、国が現行の研究費システムを変えていかなければならないのではないかと、研究者と国の両方による変革の必要性について言及されていました。
第3回の記事では、将来の研究費のあり方について、色々な視点から語って頂きました。(※この対談は5回に分けてお送りします)
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