「独立系研究者」ってなんだ?!(8終)

「独立系研究者」ってなんだ?!(8終)

Science Talks LIVE、第1回のトークゲストは独立系研究者の小松正氏。大学の研究者でもなく、理系企業の研究開発ポストでもない、研究機関と直接個人契約を結んで研究に参画する「独立系」という第3の働き方とは? 独立の経緯から実際の研究の進め方、成果まで詳しくお話を伺いました。

フロアディスカッション その3

質問者G 面白いお話をありがとうございました。お話を伺うとどちらかというと解析のお仕事の方が多いイメージなんですが、実験をされる機会があるのか気になります。
小松 実験をやっている時間の方がむしろ長いくらいなんですよ。例えばさっきの、人の行動を判別する離床センサーの話ですと、人間を相手にしてデータを取る必要がありますから、実際に研究協力者を集めてきて、実験システムの前で色々アクションをしてもらっています。データ収集の作業自体は補助員の人に頼むこともありますが、実験計画は私が立てて、計画を確立するまでの試行錯誤はずっと現場で一緒にやっています。
センサー開発の問題の1つに、人間を検知したいのに、人間ではないものを間違えて検知することがあります。台所にセキュリティのための人感センサーをつけたとして、台所の棚を走ったネズミを間違って検知したというようなことです。セキュリティ会社に通報が行って、ガードマンが派遣されてしまうと、1度の派遣につき1万円くらいの損失になるんですよね。だからセキュリティ会社としては、より誤報の少ないセンサーを開発してくれたら導入したいという話になる。日本全国で導入できれば相当の経費節減になりますから。一方で誤報対策のためには人間ではないもののデータも必要になるんですが、人間以外のデータを取るのは人間以上に大変なのでなかなかデータがないんです。ネズミとか、虫とか、途方にくれました。そういう生き物を連れてきてデータを取るのも、私が自分でやっていました。
データを取った後の解析の部分は、論文の題目などにも表現されたりするので目につくかもしれませんが、生き物を相手にリアルな現状でデータも取りますし、新しい手法を使って仮説を検証したいんです。ヒトも含めて生き物に関して、検証されていない色々な仮説があるんですよ。仮説というのは分野によっては、仮説そのものを議論するばかりで終わるところも中にはあるんですけど、自然科学としては仮説を作ったらデータで検証しないといけない。そしてその検証のために、色々な手法を使うわけです。だから自分としては、論文の結論に書く、『こういった方法、手法で、この仮説がこのように検証されました』というところが大事だと思っていて、今日の話では解析の部分が強調されていたかもしれませんが、仮説検証それ自体や、データ取得の現場も重視しています。
質問者G ありがとうございます。
質問者H 2点ありますが1つずつ失礼します。独立系研究者として仕事をしていくときに、必要なリソースが自分の持っているものの中になくて、交渉が必要になったという場合、独立系の方だと現状ではまだ障壁が高いのではないかと思いますが、そこをどうクリアされますか。
小松 小松研究事務所という個人の名前だけでそれなりの実験設備を借りるというのは確かに難しいこともありそうなので、クライアントの会社の名前を使ったり、国の助成金が入るものなら公のプロジェクトの一環だという形にして、なるべく公的な存在をうまく活用して実験設備や機材の管理者、協力者の方を説得するしかないです。離床センサーを開発したときは実際の福祉施設で、本物の入所者の方に取り付けさせていただいて、更に行動と判別結果が実際合っているかを検証するために入所者の方のご家族の同意を頂いて24時間ずっとビデオで動画を撮らせていただくような、そういうこともやりました。福祉施設の方々にご協力を依頼したときには、これは総務省の助成金を頂いたものだったので、総務省の助成に基づいていますということを掲げていくと、福祉施設の方は行政の方々とのやり取りが元々多いので信頼していただきやすかったということはありました。
質問者H もう1点は、バイオ系の研究の世界を長くご覧になっていると、挫折して辞めて行かれる方も良くいらっしゃると思うんですが。
小松 はい、結構います。
質問者H そういう方がもう1度チャレンジしたいと思われた時、多分かなり難しいんじゃないかと思うんですよね。昔ポスドクをやっていたけど、いじめられて辞めた、辛くなって辞めたというような人がいたとして、当時はかなり激しいことがあったと思うんですけど、今オープンサイエンスの時代になって、もう1度やってみたいという方も多分可能性としては出て来る。そういう時に、自分のやる気とは別に、何があったらもう1度勝ち組に戻れそうでしょうか。
小松 研究者が辞める理由、背景はいろいろあると思うんですが、比較的若いうちに辞めるっていうのは、その研究室の中でいじめられて辞めるとか、研究室の人間関係が嫌になって辞めるというのは実際にありますよね。私も実際に見たことがありますが、そういう時って研究室や大学や、その人たちが深くつながっている学会にはもう行きたくないと思うじゃないですか。でも全く別のところで、そういう人とは独立した形で仕事を作っていくこと、以前自分が関わっていた人とは縁を断ち切って新しいところでやり直すということは、独立の場合は比較的やりやすいんじゃないかと思いますね。1度挫折してしまった人がもう1回トライするときに、独立研究という方法は、選択肢としてはあり得るんじゃないかと思います。
質問者H そうなったときにやっぱり、他のリソースに行くときの敷居の高さの問題が多分出て来る。そういう時に重要になってくるのは、コネの開拓とか、そういうことになると思うんですが。
小松 リソースというのは、例えば人的なリソースネットワークのことでしょうか。
質問者H 人的リソースにしても、研究のリソースにしてもです。例えば研究のリソースを持っている人は、人的なリソースも多分セットで持っている。そういう人とのコネクションの開拓が難しいのではないか、それをどうすればいいか、ということです。
小松 なるほど、分かりました。北大で講義をしたときに、独立系研究者と科学技術コミュニケーションという形でお話をさせていただいたことがあります。今の人的リソースの話ともつながると思うんですが、同業者の間ではもちろん、特に同業ではない人、経営者のようにお金を出す立場の人や、場合によっては市民の方々と話す上でのコミュニケーションが、仕事を取ってくる上では重要なんじゃないかという話をしました。そういうときに適切なコミュニケーションが取れると、結果として少なくとも、人的リソースは増えるんじゃないかと思います。ただそれがどうやったらうまく行くのかということについては、私も必ずしも意識的に、計画的にやっているというわけではなくて、結果としてそれなりに何とかなっているというところです。研究者というのはわけの分からない難しいことを、相手のことも気にせずにひたすらしゃべっているというようなイメージがあるので、そうではないよということを相手の人に納得させるようにしたい。だから先に相手の人の興味、関心などの情報を収集して、例えば相手の人の仕事に関連付けるような形で話すんですよ。そうするとその人は、私の話を否定すると自分の仕事も否定されるということになるので、否定しようがないんですね。あとは相手の興味関心と関連付けて話すと、相手の方の質問しやすくなるじゃないですか。相手に質問させることができれば、こっちから説明できるんですよ。相手の質問に合わせて、質問にかこつけながら、自分の言いたいことを言うだけ言って情報を伝えるというのも、コミュニケーションとしては1つの方法かなという感じがします。自分でやっていることを後で振り返ると、多分こういうことをしているんじゃないかなと思います。
小山田 ありがとうございました。時間も迫ってきましたのでまとめさせていただきたいと思います。今日お話を伺って本当に小松さんはグッドコミュニケーターだなと思ったんですが、特に最後のお話がとても重要で、もやもやを抱えてやって来る企業さんと、彼らの問題の中にこういう科学の要素があるんだということを入れ込んで、研究プロジェクトまで仕上げていくところ、そのアートというかある種のテクニックが本当に凄い。最後に伺いたいんですが、そのスキルをどうやって身につけられたのか、私には本当に不思議でしょうがないんですが。
小松 自分としては自覚的に、計画的に身につけるように投資をしたわけでも必ずしもないんですが、子どものころ育った環境はもしかしたら関係あったかもしれません。よく誤解されるのは親が研究者だったんじゃないかとか、学術的な環境が周りにあったんじゃないかということなんですが、実はそうではなくて、生まれた家にも親戚にも、研究関係の人は誰もいないんですね。どちらかと言えばサイエンスとは逆方向で、例えば何が正しくて何が間違っているかというようなことについて、話の内容が事実に一致しているかどうか、話の筋道が論理的に通っているかどうか、サイエンスで言えば論理的整合性とか経験的妥当性とか言われるものですが、そういうものを重視しないような環境で、生まれ育ったりしてたんですね。要は発言者の発言の中身が正しいかどうかが、発言者の年齢や所属組織、性別によって評価されるような環境を目の当たりにする機会があって、関係の深い人物の中にそういう人が存在していて、自分と折り合いが悪いなと子どものときから感じていた。そうじゃない世界に行きたいなと、それが結果として研究の世界に入ったんですけどね。だから、人とやり取りをするときはなるべく事実に基づいてしゃべろうと思っていますし、相手になるべく同意してもらうようにしゃべるには、相手の情報を収集するしかないんですよ。仮に例えばエネルギー関連の会社にいた人だと、その会社ってもう70年代ぐらいから、省エネって必ず言っているんですよ。そうするとその人は、省エネに関連づけてしゃべられると否定できなくなるんです。そういう相手の事情、相手の情報を収集して、話の中で活用するということは確かに子どものころからやっていたりしました。もしかするとそれが今になって、役に立っているところがあるのかなという感じがします。
小山田 ありがとうございました。丸々2時間お話しいただきましたので、一旦ここで締めたいと思います。色々ご質問、お話されたい方はこの後の懇親会でお願いします。
湯浅(事務局) 本日はどうもありがとうございました。このようなトークイベントは、今後毎月開催したいと思っております。次回のトピックが決まりましたらまたご案内したいと思いますが、こういうことをやっている人の話が聴きたいとか、こういう人がいるというような情報があれば是非教えていただきたいと思います。やはり聴衆の方が聴きたい内容でイベントを開催したいと思いますので、よろしくお願いいたします。ありがとうございました。(了)

このテーマの記事一覧

  1. 研究相談からアドバイザー契約へ、「独立系」へ至る道
  2. 必要なものは“人脈”、魅力は自由度の高さ
  3. クロストーク その1:依頼から成果発表まで、企業と研究者の相利共生
  4. クロストーク その2:独立系研究者に向く人、向かない人
  5. クロストーク その3:一見関係ないテーマ、でも…? テーマと自分の興味を“繋ぐ”
  6. フロアディスカッション その1
  7. フロアディスカッション その2
  8. フロアディスカッション その3(終)

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