「サイエンストークス版 第5期科学技術基本計画への提案」できちゃいました
- 日本語記事お知らせ勝手に『第5期科学技術基本計画』
- February 14, 2015
2014年3月からサイエンストークスがみなさんとともに議論してきた「勝手に『第5期科学技術基本計画』みんなで作っちゃいました!」プロジェクト。日本の科学技術の未来の方向性を決める基本計画に、これからの研究の未来を担う現場の若手研究者や科学政策立案者をはじめ、そしてサイエンスを愛する個人の草の根的な意見やアイディアを盛り込んでほしいという思いから、科学技術をめぐるさまざまな議論を行ってきました。
本サイトへのアイディア投稿やディスカッション・イベントに参加していただいたみなさんのアイディアから委員会メンバー有志がドラフトとなる提言案を作成し、10月に東京大学で行われたオープンフォーラムで公開。イベントに参加していただいたパネリスト・参加者のみなさんからのアイディアや提案の付け足しや反論を盛り込んで、2015年2月4日、ついに「サイエンストークス版 第5期科学技術基本計画への提案」をリリースしました。
「サイエンストークス版 第5期科学技術基本計画への提案」≫
なぜ「作っちゃいました!」だったのか
昨年の2月、サイエンストークス委員会のシンポジウムの反省会。副委員長・湯浅誠氏が疑問を投げかけました。「第1回シンポジウムは今の科学技術の問題が浮き彫りになる興味深い議論となったが、科学政策を立案し予算を出す政府 vs. 大学・研究者という対立構造でお互い一方的な立場から議論しあっているだけでは何も変わらないことがわかった。討論はやり尽くしている。その先に何があるのか」。
委員会のひとこま)
そこに小山田和仁氏が鶴の一声。「来年度は2016年から施行される『第5期科学技術基本計画」の検討が政府内で始まる。科学技術の5ヶ年計画である基本計画は、今の日本のサイエンスの現状を変えたいと思っている我々にとって一番間近に迫った最大にして最後のチャンス。サイエンスの当事者として今意見を言わなければ、次のチャンスは5年後にしか巡ってこない。第5期科学技術基本計画に向けて、個人の草の根的な意見を集約して提言を作ってみてはどうだろう?」
(左:小山田氏 右:湯浅氏 サイエンスアゴラ賞授賞式にて)
議論するだけでは変化は生まれない。それが「作っちゃいました!」プロジェクトの趣旨でした。今の科学政策への文句や不満を口にするだけでなく、現場がこうあるべきだと思うヴィジョンを掲げて、実現可能なアイディアや意見の形にまとめてみようではないか。そんなわけで「勝手に第5期」プロジェクトが始まりました。
草の根的アイディア収集のための旅
編集部は2014年3月に、まず手始めにサイエンストークスのウェブサイトを一新。インタビュー記事が中心だったウェブサイトにアイディア投稿機能を導入して、今の研究のあり方や仕組みをこう変えたい!という思いをユーザーのみなさんに誰でも好きなように投稿できるようなシステムにしました。ツイッターでも科学技術や研究について意見をお持ちのユーザーの方々に積極的にアプローチして意見をうかがうなどの活動を行いました。また、すでにディープな議論が巻き起こっていた先駆的サイト「日本の科学を考える ガチ議論」で取り上げられている問題意識や意見を参考にしながらアイディアを追加していきました。
(大阪大学 中之島センターでの若手研究者セッション)
また、研究に関連する多業種の人々を集めたイベントを複数開催。第5期科学技術基本計画についての基礎知識を解説した上で、参加者のみなさんとグループディスカッションを行ったり、若手研究者の人々が集まるイベントでワールドカフェ形式のディスカッション・セッションを行っていくうちに、少しずつ現場の若手の人々が関心を持っている問題やテーマがしぼられ、アイディアが集まってきました。
(東京・丸の内「第5期科学技術基本計画についてもっと知ろう、もっと語ろう」セッション)
(アイディアを発表するテーブルリーダー)
拡散したアイディアを収束させる
しかし拡散したアイディアをまとめなければ提案の形には落とせません。企画開始時にご相談した文科省の方からも「出てきた議論やアイディアをそのまま書類にしたら、分厚くて使えない電話帳になってしまう。2つか3つでもいいから、これさえやれば現状はこう良くなるという具体的な提案をしなければ意味がないよ」とアドバイスを頂き、なんとか具体的な形にしなければならないと委員会メンバーは頭を悩ませていました。
そこで白羽の矢が立ったのが、今回の編集長をつとめていただいた委員の嶋田和義氏。嶋田氏を中心にして委員と編集部員が緊急のブレスト会議を開き、巨大な模造紙にこれまで出たアイディアやテーマを落とし込んだポストイットをはりつけてカテゴリー分けすると、現場に関心の高い5つのテーマが浮き彫りになってきました。
嶋田編集長の方針 「事例をもってして語れ」
アイディアを提案に落とすにあたり、嶋田編集長がテーマリーダーにお願いしたこと。それは提案をただ主張するのではなく、すでに国内外で行われている事例をたくさん取り上げて、それを根拠として使うことでした。繰り返し行ってきた議論を通じて、嶋田氏を含め委員会メンバーは、ただ「政府の方針のここを変えてほしい」と一方的に訴えるだけでは意味がないことに気づいていました。
研究の当事者であり主役はあくまで現場。誰かに文句を言ったり、なんとかしてと頼むだけでは主体性がない。今の研究システムの中でも、工夫すれば個人の情熱やアイディアによって現場で実現できることがあるはず。そんな実践事例をたくさん集めて、よい事例をもっと全国に広めるために現場でさらに何ができるか?そこに政府がサポートできることがあるとしたら何か?という視点から提案書をまとめることが決まりました。
(右:嶋田氏)
委員会はメンバーの中から各テーマに関心の高いリーダーが 各テーマに対するヴィジョンを作成。テーマリーダーは、奈良先端科学技術大学院大学の駒井章氏『Empowerment – 個人が活躍できる組織づくり』、広島大学の隠岐さや香氏『Diversity – オモシロイ人材を集め・活かす』、藤田保健衛生大学の宮川剛氏『Competition & Collaboration – 競争と共創を両⽴させる評価システム』、大阪大学の中村征樹氏『Trust – 社会との協働を通じて研究コミュニティの信頼と支持を獲得する』の4名。そしてその4つのテーマをまとめ、東北大学の長神風二氏が『Mission & Passion – 学術的・社会的に熱意のこもった研究をめざして』という大きな提案のテーマについてプレゼンターをつとめました。
各テーマリーダーが若⼿研究者グループ内でのブレストセッションや意⾒募集アンケート、事例の当事者にインタビューや取材を行うといった活動を経て、提案のドラフトをまとめました。提案の原案は2014年10月に東京大学で開催されたオープンフォーラムで各リーダー発表し、フィッシュボール式のディスカッションを通じて会場のパネリスト、参加者とともに追加事例を加え、提案をブラッシュアップするための議論を⾏いました。
(フィッシュボールという新しいディスカッション手法を採用)
ソフトウエア時代の新しい提案書のかたち
今回リリースした「サイエンストークス版 第5期科学技術基本計画への提案」は、オープンフォーラムで出た議論を⼊れ込んだバージョンです。2014年2月4日にバージョン1.0をリリース。そこに各リーダーがさらに加筆・修正したものを翌日5日にバージョン1.1として再リリースしています。 この提案書の議論の中で取り上げた テーマと提案は、研究に関わるひとと環境に重点を 置いたものとなっています。また、テーマの選定に当たっては、これまでの政府の科学技術基本計 画の検討プロセスにみられるテーマ⽴てとは⼀線を画して、当事者としての視点からを特に強調 するよう努めました。なるべく具体的な提案になるよう、すでに実践されている事例を集め てそれを提案の根拠としつつ、ヴィジョンを達成するための提案を、ボトムアップで現場からできる こととトップダウンで政府から支援してほしいことに分けて書かれています。
(提案書は科学技術・イノベーション会議の事務局・委員の方々に郵送作業中)
バージョン1.1はまだまだ始まりにすぎません。事例に基づいた「こんないい事例があるよ。僕らもやってみようよ」という形の提案は、さらに面白い事例を追加して、事例から学び、それを広げていくことによって成功事例が増えて、提案の根拠が強まるという性質を持っています。「もっといい事例があるよ」「ここに載っている事例を見て同じことをやってみたよ」というみなさんからの更なるアイディアや実践報告を集めるため、編集部は可能な限りこの提案書をサイト上でクラウド化して膨らませていけるようなシステムにすることを模索中です。 この提案にはどなたでも参加できます。みなさんからの更なるアイディア、「やってみた」報告、お待ちしています。
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