「“共同利用機関”は日本の学術文化である 」
中部大学理事長・飯吉厚夫氏インタビュー(3)
- 日本語記事インタビュー日本の研究ファンディングを考える
- September 12, 2013
特定の分野に的を絞って各大学の研究者が共に研究を推進できる日本の共同利用機関。英知集結型のこれら機関は日本独自のものであり、大切にすべきであると飯吉先生は訴えます。
【飯吉】 私は、日本の大学の「共同利用研究」、特に共同利用機関は、日本の学術の1つの文化だと思って評価しています。いろいろな人がある装置をつくっても、そのグループだけじゃなくて、全国のそれに関連した先生方が入れ替わり、立ち代わり入ってきて、それを使って共同研究する。
これは全国に散らばった英知をある意味では一箇所に集結できるようにした研究スタイルですし、ビッグ・プロジェクトはやっぱり共同でやらなければいけない。一人でなんて、とてもじゃないけどできませんよ。
【湯浅】 そうですよね、確かに。
【飯吉】 ドイツにマックス・プランク研究所というのがありますが、あそこは天文もあれば、プラズマもあれば、いろいろな研究所があります。彼らからよく「日本は羨ましい」ということを言われた。
それは独自の大学院を持っているからです。マックス・プランクには、大学院生たちがほかのいろいろな大学から教授と一緒に研究しにくるわけです。一方で日本には総合研究大学院大学というのがあります。
【湯浅】 はい。
【飯吉】 総合研究大学院大学は共同利用機関のための大学院で、その中に核融合専攻というのがあります。それは自分たちの大学院なのです。だから、共同利用の研究所であると同時に、後継者の養成もできるという。そういう仕組みを持った研究所というのは日本だけなのです。だから、これは大事にしなきゃいけないと思います。
大学共同利用機関としての核融合科学研究所ができてからもう20年以上になるけど、その後全然似たような研究所ができていないでしょう? これは大変残念なことです。例えば今話題のiPS細胞の研究なんかは、共同利用機関をつくってやるべき仕事かもしれない。山中伸弥先生はノーベル賞を取ったけれども、それなのに今一番心配しているのはお金と人材確保の問題なのですよね(笑)。
【湯浅】 そうですね。
【飯吉】 山中先生の研究グループには下にとても多くの研究スタッフがいるでしょうけど、大部分の人が5年ぐらいの非正規雇用だと思います。共同利用機関では普通、正規雇用ですからね。だから、やはりiPS研究に関しても全国共同利用機関を作れば、金のことや、スタッフの雇用のことなんか心配しないで研究に集中できますよね。だから、この共同利用機関という文化は大事にしなければいけないのに、新しい共同利用機関は出来ていません。
【湯浅】 できない原因がなにかあるんでしょうか?
【飯吉】 1つ考えられる理由はあります。共同利用機関は、自然科学系でいうと、まず高エネルギー物理の「加速器」ですよね。それから、天文の「すばる」。核融合の「大型ヘリカル」。これらはみんな大きな仕掛けをまずつくって、そこにそれを使って研究したい人が集まってくるという、そういうスタイルでしょう。
ところが、今のiPS細胞はこういう大きな仕掛けが要らない。ただ研究者が大勢必要で、そういう新しいタイプの共同研究なのです。実は最近、必ずしも大型施設を持たなくても、大規模研究組織の必要な研究であれば共同利用機関がつくられるような制度設計になりました。
私は今年の1月末まで学術分科会の下にある共同利用・共同研究拠点に関する作業部会の主査をしていました。その作業部会で決まったことです。バイオや環境をやっている先生方は必ずしも大きな装置が必要ないから。そのせいか共同利用機関になじまないと思っていらっしゃるのか、残念ながら今のところ新しいタイプの共同利用機関の立ち上げは実現していません。
【湯浅】 実際そういった共同利用研究所をつくる場合、誰が言いだしっぺで、どこに働きかけて「作ろう!」という動きになるんでしょうか?。
【飯吉】 それは研究者側からすべきです。昔は共同利用機関をつくるために文科省学術審議会のもとに特別委員会や部会がありました。今は先程の学術分科会の下に共同利用・共同研究拠点に関する作業部会ともう一つ、学術研究の大型プロジェクトに関する作業部会があり、そこに応募することが出来ます。
【湯浅】 なるほど。
【飯吉】 新しいスタイルの研究所を作らないとね。その辺が日本は遅れているって言われる1つの理由かもしれませんよ。
【湯浅】 先生ご自身もまさにそのビッグプロジェクトに携われた方ということで、今回のシンポジウムでお話しをいただきたいと思っています。
【飯吉】 私の著書、「ビッグプロジェクト―その成功と失敗の研究―」中に書いていますが、ビッグ・プロジェクトを成功させるには、まずテーマが若い人たちをひきつけるものじゃなきゃだめなんです。それから、2番目はリーダーがしっかりした志があって、命をかけるぐらいでなければ駄目です。それから、研究者・技術者陣がしっかりしてないといけないでしょう。