研究機器や装置があっても、操作する人がいなければ意味がない 〜「研究の職人道」を語る座談会(第4回)

研究機器や装置があっても、操作する人がいなければ意味がない 〜「研究の職人道」を語る座談会(第4回)

研究者も技術者も、新しい技術を学ばなければ生き残れない時代。技術員のスキルアップのためには組織間の人材の流動化が必要ですが、システムが全く存在しない現状があります。研究装置と研究技術者、両輪のリソースを最適化するためにはどんな仕組みがあり得るのでしょうか。

「研究の『職人道』を考える座談会」シリーズでは、文部科学省 科学技術・学術政策局研究開発基盤課の中川尚志(なかがわ・たかし)氏と、北海道大学URAステーションのシニアURA、江端新吾(えばた・しんご)氏、藤田保険衛生大学・教授、サイエンストークス委員の宮川剛(みやかわ・つよし)氏をお招きして、文科省、URA、研究者の視点から研究技術者のキャリアはどうあるべきか?を語り合いました。司会はサイエンストークスの湯浅誠(ゆあさ・まこと)氏です。

第4回 研究機器や装置があっても、操作する人がいなければ意味がない

江端 僕らはそれに似た一つの試みをしています。 具体的な事例として、北大にはグローバルファシリティセンター構想があります。この構想の中で、まさに技術職員のコンソを作れたらいいなというのを1つのゴールとして考えてます。
IMG_6114
宮川先生もおっしゃったように、教員の大学間の移動は当たり前ですし、事務職員も研修制度などで横に動いたり学内で移動するシステムができてるのですが、技術職員にはそれがない。現在では、各部局で雇っているその技術者を別の部局に移動させるなんてのは非常に困難と言わざるを得ません。それを解決するための戦略として、今まさに、グローバルファシリティセンター構想の実現に向けてシステム改革をやってます。
中川 コンソーシアムを組む理由には人材の共有だけじゃなく、研究に必要な機器や装置の共同利用の問題もあります。文科省の中では大学共同利用機関に関しては、学術機関課というところが担当していて、附置研とか共同利用・共同研究拠点、略して「共共拠点」と呼んでるあの制度も、もともと国立大学の附置研に制度を立てて示してるので、それも学術機関課の所管でやっていますね。
あの制度の目的は、国立大学同士でみんなで研究リソースをシェアしていきましょうというもの。たとえば電子顕微鏡が必要な大学や研究室が1個ずつ買っていたら大変だから、電顕が使いたい人は名古屋大学に行きましょう、そのための旅費はだしますよ、という仕組みだと思います。あれはあれで国立大学の範囲内ではいい制度だと思いますが、日本の研究インフラ全体はカバーできていない。もっと広く、私立大学や産業界にも利用を広げる必要がある。その全体の政策を研究インフラを担当する私の課でまさにやっていて、今進めようとしているんですよ。
IMG_6165
この背景に、1つは大学内ではなかなか設備の更新ができないという問題があります。私立大学に行くと「今年は施設を新しくするための補助金がまったく降りてこなかった」と先生方に諦めに近い悲しい顔をされてしまいまして。国立大学でも同じですよね。まだ国立大学には施設設備交付金があるけど、基本的には新しい機器は買えなくて補正ばっかり。これって危機的状況です。それぞれの大学が補正予算を待ってるだけじゃなくて、みんなでこの危機感を共有しないといけないんじゃないかと思います。
今はみなさん競争的資金で機器を買っていますよね。ダブルPIみたいな、大型の拠点経費の経営経費で我慢してなんとかやってる。だからせっかくそうやって買った機器をちゃんとうまく使えるようにすること、定期的に機器のリプレイスメントが行われて、結果として日本の研究基盤が維持されるようにすること。それを今私たちがやろうとしているわけですが、話は戻るけれどそれはハード面の話でして、せっかく設備が整っても「誰がその機器を操作してくれるのか」というソフト面の人材の問題が解決しないと結局は上手く回らない。
宮川 アメリカだと、学内にコアファシリティやコアラボみたいなものがあって、機器のオペレーターの人件費も含めて予算が組まれることが多いですよね。日本はそうなってないですからね。
中川 なってないんですよね。昔、日本もまだ予算に余裕があった時は、施設整備を入れたら何年間分の補修管理費がついていました。今はそうなってないですから、装置を扱う人材をどうやって確保するかが課題です。
宮川 機器が大学にぼんと置いてあって、スペースをとってて、技術者がいないから使われずに場所だけとってるというのが実に多いんですよ。その機器やスペースがもったいないなと。それで、使われないからまた補正予算がついたら、使ってないし古いから新しいのに変えましょうみたいな話になる。
江端 だから補正予算も無駄に。
宮川 すごい無駄なんです。税金なのに。
IMG_6143
江端 国からの補正予算って、突然つくものですよね。大学としてはもちろん必要な機器のための予算申請をしているので、いきなり予算がついたらその時点で機器を買いますが、操作する技術者がセットとして雇用できないからすぐにフルで使えないわけです。だからこそ、大学内に技術者がいる共用拠点があって、新しい装置は研究室ではなくそこに入れられるような仕組みを作らないといけないと思っています。
宮川 機器があっても、設備のオペレーションをしてくれる人材がいないとダメですからね。
江端 かといって、共用拠点にいる技術者が新しい機器の使い方がわからないんじゃ意味ない。大事なのは技術者のプールがあって、その人たちが一貫して教育を受けられる仕組みが中になければいけない。
中川 ただ、技術者プールを中央雇用で持つというのは、行政的には非常に難しい。日本学術振興会(学振)に技術者人材のプールを作ってもらうとなるとかなりの大改革です。学振は今、特別研究員制度や科研費も扱っているので、さらに研究技術者プールを管理するとなると…。
あと、技術者人材確保の問題もあります。たとえ行政側でやりたいと思っても、民間を巻き込んでやらないと、人材のパイ自体が小さくなってしまう。そもそもの問題として、今の人口減少の中でどれだけの人が理系に進むのかという問題があります。研究機器のメンテも今はメーカーさんにお任せというところもあるし。
だから今やりたいのは、技術者人材のプラットフォームを作ったらどうかと。ある種の人材プールを作って研修なんかをすることで、「自分はJAXAの職員だけれど、○○大学の機器もメンテできるよ」という人が出てくる。それぞれの機関で一人ずつ技術者を雇うのは大変だと思うし、逆に完全に中央雇用による派遣にするのは難しいと思うんですが、技術を共有する人材のプラットフォームがあれば共有し合えるかもしれない。
 
[kanren postid=”5422,5451,5467,5474,5483,5495″]

Related post

チベットの研究を通して見えてきたもの

チベットの研究を通して見えてきたもの

自分自身のしたいことを貫いて進んできた井内先生だからこそ見える世界、今後、チベットの研究をより多くの方に知っていただく活動にもたくさん力を入れていくそうです。これまで歴史の研究について、そして、チベットのことあまり知らないという人にもぜひとも見ていただきたい内容です。
チベット史の空白を明らかにしたい 日本のチベット研究者

チベット史の空白を明らかにしたい 日本のチベット研究者

0世紀から13世紀頃までのチベットでは、サンスクリット語からチベット語に膨大な数の経典が翻訳され、様々なチベット独自の宗派が成立したことから「チベットのルネッサンス」と呼ばれますが、この時代について書かれている同時代史料がほとんどありません。この「チベット史の空白」を明らかにしようと、日々研究されている京都大学白眉センター特定准教授の井内真帆先生にお話を伺っていきます。
自由な環境を追い求め『閃』が切り開いた研究人生

自由な環境を追い求め『閃』が切り開いた研究人生

後編では、黒田先生がどうして研究者になったのか?どのような思いを持ち、日々研究されているのか?などの研究への愛について語ってもらっています。自由な研究環境を追い求め、自由な発想をされる黒田先生だからこそ、生まれる発見がそこにはありました。

Leave a Reply

Your email address will not be published. Required fields are marked *