「言いっ放しじゃない、新しいタイプの科学技術政策提言が作りたかった」〜勝手に「第5期科学技術基本計画」編集部反省会(第2話)〜

「言いっ放しじゃない、新しいタイプの科学技術政策提言が作りたかった」〜勝手に「第5期科学技術基本計画」編集部反省会(第2話)〜


2016年1月22日に閣議決定され、すでに施行が開始された政府の第5期科学技術基本計画。当然気になるのが、「僕らの提案、少しは盛り込んでくれてるのか?」という疑問。そこで、サイエンストークスの小山田和仁さん、嶋田一義さん、湯浅誠さんの3名が集結。政府の答申案をサイエンストークスの提案内容と比較しながら、日本の科学技術の今のこれからについてじっくり語りました。

(収録は2016年1月、政府の答申案を資料として利用しています。)

言いっ放しじゃない、新しいタイプの科学技術政策提言が作りたかった

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湯浅 嶋田さんは、今回の「勝手に『第5期』」では編集長という立場で全体のコンセプトと構成をまとめていただきましたが、いかがでしたか?
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[voice icon=”https://sciencetalks.org/wp-content/uploads/2016/05/shimada.jpg” name=”嶋田” type=”l”]
嶋田 うーん、「勝手に『第5期科学技術基本計画』みんなで作っちゃいました!」がそもそもどこから出てきたのかって、今ちゃんと思い出そうとしているんですけれど、2013年に「日本の研究力を考えるシンポジウム」を開催した時は、政府に向けた提案書を作ろうなんて思っていましたっけ??
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[voice icon=”https://sciencetalks.org/wp-content/uploads/2016/05/oyamada1.jpg” name=”小山田” type=”l”]
小山田 ぜんぜん、ですね(笑)
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湯浅 ぜんぜん、ですね(笑)
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[voice icon=”https://sciencetalks.org/wp-content/uploads/2016/05/shimada.jpg” name=”嶋田” type=”l”]
嶋田 そうですよね(笑)。なんで政府に提言しようなんてモチベーションが出てきたんでしたっけ?
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湯浅 僕の中でそのモチベーションが生まれたのは、2013年のシンポジウムの時に、財務省の神田さん、当時文科省の菱山さんの政府の立場から研究者に向けたスピーチを聞いたところですね。
科学政策に関わる政府の方々は、実際一生懸命に国のため研究者のために尽力していて、研究者がこうしてほしいというものをやってあげているのに、と言う。なのに、現場の研究者の人たちは「国の科学政策がだめだ」と言う。議論をしてもかみ合わないところが非常に多いんです。
だったら研究現場が望んでいることを伝えて、それを実現して貰えばいいじゃないかと。
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小山田 で、ただ単に政府に文句を言うだけじゃなくて、研究現場にいる自分たちのほうからもできること、こうすべきだということを提言していくべきだよね、と。
ただし、科学政策でよくあるいわゆる「審議会方式」で功なり名のある先生が 持論を展開するってやり方じゃなくて、幅広くコミュニティの中で議論して提案にまとめていくという作業をやらないと、いざ政策とかプログラムを作った時に結局うまく回らないでしょということがあって。
「なんでこんな政策にしちゃったの?」という話になるわけで、自分たちで現場から作っていく過程が大事だよねと。
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湯浅 そこでまさに、「勝手に『第5期科学技術基本計画』みんなで作っちゃいました!」という企画タイトルが出てきたんですよね。第5期科学技術基本計画に狙いをつけた理由は…。
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[voice icon=”https://sciencetalks.org/wp-content/uploads/2016/05/oyamada1.jpg” name=”小山田” type=”l”]
小山田 科学政策って言っても何をターゲットに提言するかと考えたときに、第5期科学技術基本計画が適切だろうと。科学技術基本計画は5年という比較的長いスパンの大きな方針です。
普通の政策って1年や数ヶ月という短いサイクルでわーっと決まっちゃうところがあるから、いきなりそのスピード感で科学政策のプロの世界に現場から投げ込みをするのは かなり難しいところがある。
国の科学技術の基本的方針の中に自分たちの意見を反映させてみようというのがもともとの立ち上げのときの思いでした。
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湯浅 サイエンストークスの「勝手に『第5期』〜」提言書は、サイエンストークスの委員をしていただいている若手・中堅の研究者の皆さんがそれぞれに各章を担当していただいて、コミュニティから集めた意見を含めてまとめたものです。
もちろんそれぞれの章のメッセージは異なりますが、大きくまとめると、 提言を貫いているヴィジョンは「人を中心においた。人の顔が見える科学の実現」です。科学技術を支えるのはやはり「ひと」。
「ひと」を中心にMission & Passion を大きなテーマとして、(1)ひとの多様化、(2)ひとが活躍できる組織作り、(3)ひとへの信頼、(4)ひとの評価、という5つのテーマに分けて議論を展開しました。
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嶋田 出てきた意見を拾い上げてテーマ分けするのに、みんなで集まって模造紙に付箋をはりつけながら今までのワークショップとかネットで出てきた意見を次々出していきましたよね。
どんな意見やポイントがあるのかというのを、いろんな方から出た意見を読んで付箋に書き出しまくりました。それを見ながら委員会で頭を抱えてうーん…とか言って。
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湯浅 そうそう。テーマを決めるまでに結構時間がかかったんですよね。
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小山田 切り口というか、打ち出し方というか。第5期科学技術基本計画にはいろいろな方面からの意見や提言が集まってくるわけですから、他との差別化をどうするかというところがかなり大きかったですね。
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湯浅 切り口と、あとどういうタイプのアウトプットをするのかで悩みました。ざっくりした、いかにもCSTIがまとめそうなヴィジョンを描いたものを出すのか、それとももっと具体性のある計画に落とすべきなのか。
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小山田 あんまり長すぎるとそもそも 読んでもらえないから、わかりやすい文章にしなくちゃいけない。他と明らかに違うんだということを表現しないといけなかった。
だからこそ割とシンプルな柱立てにしたんですよね。その中で、中心のメッセージはやっぱり「人」だというところがあって、そこからテーマをつないでいくというのがわかりやすいだろうと、最後に構成しなおしたわけです。
後は、基本的に提言といっても言いっ放しで根拠がなくては使い物にならない。だから提言の内容自体を裏付けるものとして事例を載せました。すでに行われている具体例を挙げることで、似たような取り組みは現実に行われているんだから、できないわけじゃないんですよ、と。
世界のどこかで行われているんだから日本でもできるでしょ、こうやったら実現に向けていろいろできるじゃないですか、というメッセージが伝わる構成にしたんですよね。
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[voice icon=”https://sciencetalks.org/wp-content/uploads/2016/05/shimada.jpg” name=”嶋田” type=”l”]
嶋田 僕それについては2つ言いたいことがあって。1つは、広く現場レベルで意見を集めてみてわかったことがあるんですよ。
それは「ナノテクノロジーとかライフサイエンスに投資すべき」とか、「グリーンイノベーション」や「ライフイノベーション」という特定の分野に投資すべき、というだけじゃなくて、科学技術基本計画はもっとプレイヤーである人間に注目したいよね、という熱意がすごくあったんですよ、現場には。だから僕らもそこに共鳴したというのはあると思うんですよね。
だから「勝手に『第5期』」ではこういう枠組みが自然とできたんじゃないかと。あともう1つ言いたいのは、提言に事例を入れようと考えた理由なんです。科学技術行政の人に「こういうのをやってください」と一方的に言う提案書にはしたくないってすごい思ってて。どっちかっていうと、提言を作る側の僕たちが「僕たち自身でこういうことを実現しなければいけないよね」って自分たちに対して言いたい。
実際、具体的に世の中に自分たちがいいと思うことをやり始めている人がいることを認識したい。そして、それを前例にして「僕ら自身は現場で勝手にやっちゃうんですけど、科学技術行政側もこういうの知ってたほうがいいんじゃないですか〜」というスタンスなんです。陳情じゃなくて自分たちの行動の決意表明というような形にしたのが、今回よかったんじゃないかと思うんです。
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小山田 そうそう。そもそも、だからテーマの中で最初に「ミッション&パッション」という大きな宣言をしているところがあって。自分たちは日本の科学技術を担う存在としてこういうミッションを持っていて、情熱をもってやっていきますので、ご支援よろしくお願いします。
でも どうしても国が支援してもらわないとできないところもあるから、そこはお願いしますね、というメッセージになったんですよ。
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嶋田 僕らがサイエンストークス版の第5期科学技術基本計画に向けた提言を、CSTIの勉強会でプレゼンした時、議員の原山さんが、「サイエンストークスの提案は一緒にやりましょうというメッセージだから、一緒にやれる気がします」というコメントをしてくれました。
それを聞いて 結構うれしかったですね。ちゃんと僕たちの気持ちわかってくれてるんだなと。よくある提言書のように「国はこうするべきだ、こうしてください」という押し付け的な提案と違うんだとわかってくれたんだな、と思いましたね。
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湯浅 たしかに、そういう立ち位置で提言したからこそ、勉強会に呼んでいただけた可能性が高いですよね。
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