原山議員へ一問一答 (1)公費論文の完全OA化について
- インタビュー勝手に『第5期科学技術基本計画』日本語記事
- September 10, 2014
学術業界で話題になっている問題について原山さんに聞きました。
公費論文の完全OA化について
質問
公費論文の全OA化(オープンアクセス化)についてです。今ヨーロッパではすでに確か公費、いわゆる日本の科研費みたいなものを使うと、基本的にはオープンアクセスにして、だれでも見られるような状態にすることが義務化されています。
日本ではまだこの取り組みはされていません。OA化を図れば、実は日本の学術にとっていいことが一杯ある! と主張されている先生方がたくさんいらっしゃいます。OA化についてどう思われますか? (OA化についての関連対談記事はこちらから)
原山さんの回答
【OA化の問題点】
まず、このOA化について説明したいと思います。これまで研究者というのは研究してその成果を論文という形にまとめていました。研究論文は自分で書いただけではなかなか価値を持ちませんが、外部の人たちの評価によって価値がつけられます。
その認めてもらうための方法として、通常はジャーナルというところに送り、ピアレビューという形でもって専門性のある人達がそれをチェックして良しとする方法、または修正しながらという形でもって、そのジャーナルに掲載する方法があります。
ジャーナルの部類としては、学会などが出しているジャーナルもあるし、大手の出版社が発行している複数のジャーナルがいます。学術ジャーナルの出版界の背景にはビジネス的な要素があり、通常サイエンスの世界では、全ての知識は公共財という認識で、だからオープンにとなるわけですが、一方出版界のジャーナルに掲載されている論文にアクセスするにはお金払わなくてはいけません。
通常大学に属している研究者は大学が出版社と契約を結んでいるので、研究者個人は自腹を切らないけれども、大学そのものは相当大きな額のお金を払っています。
だから、研究者個人の立場からしてみれば、好きにダウンロードもできるし、アクセスもできるというイリュージョンを持つわけです。実際、知識に対するアクセスは本当にオープンかというと、必ずしもオープンではない。だから今オープンアクセスという問題が出てきています。
【論文の品質保証はどうなる?】
このトピックはすごく深みのある課題ですが、個人的な意見を言うと、オープンアクセスにいくことが向かうべき方向の一つだと思っています。そのための条件を揃えられなくてはいけないし、ルールも設定しなくてはいけない。
だけれども、「完全にオープンにした時にどうなるの?」という疑問が生じます。今インターネットがあるから、インターネットで誰かがサイトを作って、論文を載せれば公開はされるわけですよね。その時、通常おこなわれているジャーナルのピアレビューというフェーズが入らないと、誰が品質を保証するのかという問題が出てくる。ピアレビューそのものだって品質保証を本当にできているかと言うと、その限界も昨今論じられていますよね。
時と共に、従来の “サイエンスをする”という作法が確立されてきたわけですが、インターネットという媒体が出現して、そうではないやり方が可能になっています。やはりどうやって品質保証するかというのが一つの問題ですね。
【研究データをシェアすることの大切さ】
一般に、論文の品質保証をするやり方の一つとして、研究データのオープン化が考えられます。要は、第3者による論文チェックをし易くするということです。またオープン化された研究データが新たな研究の糸口になるなどの効果も考えられます。
欧米では政府など研究資金を提供する側がそういう条件をつけることによりオープンデータの動きが広がりつつありますが、日本ではまだまだというところ。
先に述べたオープンアクセスの問題は、ジャーナルに掲載された論文という最終製品をいかにシェアするかという話ですが、こちらもなかなか話が進んでいない状態。
その問題の背景として、日本には学会がたくさんあって、学会がそれぞれジャーナルをそれぞれのルールで作っているところにあります。実際どうなっているのかという学術界のストラクチャそのものをもう一回見直す機会かもしれません。
でも基本的な考え方というのは、特殊な状況以外では、やはり研究によって生み出された知識はシェアするというもの。シェアすることによってその価値も高まるし、次の新しい発想も出てくる。それをどういうルールでもって、どういう風にルール化するかというのは、やはりまだ議論の余地があります。
【オープンサイエンスという手段】
OA化に向かって行くだろうし、結局は向かわざるを得ないと思います。科学のやり方、進め方そのものも少しずつ変わっているし、個人が課題に思っていることをウェブ上に載っけると、どのようなアプローチ、手法でその問題を解決するか、ということをいろいろな人から情報を集めることができます。
それはかなりオープンなスペースでもってディスカッションが始まり、実際誰かがそれをベースに実験をし、その結果をウェブ上に載せ、議論を交わす。作り込みの作業まで公開してしまうというやり方も出てきているわけです。そうすると、最終製品のこれまでの論文という形に落としこむ前からオープンなスペースで進捗状況を見ながら、進展させていく。
そのプロセスの中で問題が出たらボツにしていく、そういうやり方も出てくるわけです。こういう風に、これまでとは違う研究の進め方が出てきた時に、今までのルールが、時代遅れになってしまうかもしれないですね。
そういう状況にあるということを認識した上で、どういう風にサイエンティストとして研究をすすめていくかを是非考えて欲しい。これまでのやり方だと、ピアレビューを代替するより良い方法がなかったから、それが唯一のルールになっていたのだけれども、今日このピアレビューというシステムが本当に機能しているかというと、クエスチョンマークを抱えている人が山ほどいると思います。
ウェブ活用してオープンサイエンスを実践している人たちは、はじめから人の目に触れさせておけば、何かあった時は誰かが問題を指摘してくれるだろう、というスタンスを取っています。そうやって適応していくことができるので、必ずしも今までのピアレビュー頼るだけではなく、品質保証をできるバーチャルなピアを活用する、ということもできる状況に変わりつつあります。
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