子育て単身赴任教員ネットワークは どのようにして生まれたのか?
- コラボレーションダイバーシティ日本語記事
- July 1, 2019
名古屋大学の女性PI公募の第1号として、若干36 歳で教授として名古屋大学に2011年に赴任してき た上川内あづさ先生。AERAで2012年「日本を立て 直す100人」の科学部門で選ばれ、女性リーダーとし て日本のサイエンスを牽引する上川内先生だが、実は1歳になる前の子供を連れての単身赴任だった。大学のサポートシステムからこぼれ落ちる「子育て単身赴任教員」という問題。支援がないのならば、同じ立場の教員同士で支えあえばいいのではー。それがネットワーク立ち上げの動機になった。
「名古屋大学への着任が決まって東京から子どもと 母と3人で引っ越してきました。最初、研究室の立ち上 げと子育ての両立ですごく苦労したんですが、当時男 女共同参画室にいた佐々木成江さんに着任前から住 む場所や育児サポートについて相談に乗ってもらっ て、先輩の意見を聞けるって本当にありがたいと実感 したんです。
着任後しばらくして、いろんな部局にぽつぽつと自分 と似たような境遇の単身子育て中の女性教員がいる ことがわかってきたんですね。最初は工学部の田川美 穂さんと、今は他大学に移られた坂内博子さんの3人 で個人的に子育ての情報交換をしていたんですが、佐 々木さんが「これを全学ネットワークにしちゃえば、 もっと情報が集まるし、たくさんの人に役に立つんじゃない?」とアドバイスをくれて、じゃあ始めてみようと。 ウェブサイトを立ち上げて、保育園で出会う同じ立場 のママ教員に声をかけたりして広がり、今は10人以 上のメンバーがお互いに情報交換しています。」
メーリングリストが一つあるだけ。それがこのネットワ ークのポイントだ。困ったメンバーが相談を投げかけ、 他のメンバーが答える。忙しい大学教員のネットワー クだからこそ、無駄を省いたシンプルな仕組みでお互 いを助け合う。
「おすすめの病院を聞いたり、子どもの送り迎えを頼 んだり、預かりあったり。一緒に何かしましょうと呼び かけて成立したら集まるという感じです。新しく赴任し てくる教員にメンバーの住まいの近くに部屋を借りる よう勧めたりすることもあります。誰がリーダーという わけではなく、空いているメンバーがサポートすると いう感じです。」
名古屋大学は子育て支援のシステムが進んでいるこ とで有名だが、大学のサポートと自助ネットワークはそれぞれを補完する関係として機能しているという。
「大学が主導で行う子育て支援では、予算をつけて 大きな企画ができるメリットがありますが、その分実 現にも時間がかかります。一方、私たちのネットワーク ではお金はかけられないですが、当事者として一番困 っているところに、ピンポイントで小回り良く動けると ころが特徴です。意思決定も早いし、誰かが困ってい るときにタイミング良く対応できる。両方にそれぞれ メリットがあるんです。
お互いの意思疎通さえうまくい っていれば、大学と当事者ネットワーク、両方があって 初めて包括的なサポートができるんです。実際に、男 女共同参画室のサポートにはすごく助けられています し、逆に男女共同参画室から新しい単身赴任教員を ネットワークに紹介してくれることもあります。」
他大学で同じようなネットワークを作りたい人へのア ドバイスを聞いてみた。
「最初に3人集めてください。利害が一致する同じ立 場の人が3人集まれば、それだけでネットワークとして 成立しますから、その出会いをチャンスとして生かすこ とです。私たちのネットワークも、作ってみると周りの 人がその存在をしって、活動の大切さに気づいてくれ るようになりました。いいね、いいね、と賛同をしてくれ る人の輪が広がることで、少しずつ整備されてきた感 じです。
雑誌「ScienceTalks」の「研究者のトゥ・ボディ・プロブレムと単身赴任ワンオペ育児」より転載。