日本人の感性と感情にある豊かな言葉をサイエンスで生かすべき
リバネス代表取締役CEO 丸幸弘氏にインタビュー
- インタビュー日本語記事
- October 22, 2014
『科学技術の発展と地球貢献を実現する』をモットーに科学を志す小中高校生や研究者のために15名の理工系大学生、大学院生が集まり2002年より設立されたリバネス(Leave A Nest)。
小中高校生への「出前実験教室」を中心に、最先端の科学情報の発信や研究受託サービスから飲食店まで幅広い事業を手がけている企業です。
そのリバネスの設立者であり代表取締役CEOをつとめる丸幸弘氏にインタビューさせて頂きました。
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丸 英語論文は、英語が苦手な人はみんな外注で頼めばいいと思います。日本人なので、日本語でしっかりと書ければそれでいい。
だって、日本人なのだから。それで論文を出す速度が海外の研究者に負けたと言われる筋合いはないです。英語の勝負ではなく、サイエンスの勝負なのだから。
湯浅 確かにそうですよね。
丸 例えば、日本にいる英語圏の人をつかまえて、書いてもらえばいいのではないかと思っています。日本語でしっかりとロジックを組んで書ける人が減ってますので、まずはそっちのトレーニングが大切かと。最高峰のレベルで日本語でしか書かない論文を日本でつくるべきだと思ってます。
国際化を意識して大学でも英語で授業とかやってますが、英語の苦手な教授が英語でどうにかコミュニケーションしてもあまり意味はないかと。それはそれで別に英語を学びたい人は英語の教室をつくればいいだけで、学問を学ぶのに生きた英語なんて存在しないんです。ただの言語ですから。
つまり、国語と論理的思考だけしっかりと鍛えれば良い。日本の言語ができない人が英語で話してもしょうがないんです。また、サイエンス分野では日本語でしか発見できないことが、実はたくさんあります。日本人の感性と感情に豊かな言葉があって、実はその中で大発見がうまれてきているきがしています。
旨味は日本で発見されましたよね。きっとアメリカなどでは旨味を発見できなかったと思います。日本は、曖昧な言語もたくさんあり、例えば口に入れたとき、甘いのか、しょっぱいのか、苦いのか、いや、違うぞ、そのどれでもない、あいまいな、旨味を発見したんだとおもいます。
このように、日本語だからこそできる発見というのもあるんです。そういう感覚をもっとサイエンスに活かしていく。自然から学ぶというのはその地に合った人類、文化、そういうことからサイエンスが全て起こっていると思います。
湯浅 その感覚は面白いですね。
丸 サイエンスは産業じゃなくてそもそも文化です。基本的な考え方として、ここを抑えておかないとどんなに政策提言をしても世の中は変わらないというのが僕の考え方ですね。それで僕は教育をやっています。リバネスは、サイエンスとは何かというのを伝えるために小中高校に行き、「出前実験教室」を始めたのです。
リバネスでは、4年間のロボット工学のカリキュラムを作っているのですが、そのカリキュラムを受けると小学校の5年生で自分の好きなロボットがつくれるようになります。大学に行く以上のレベルを使いこなせるようになります。これは受験と関係ないからやってこなかっただけで、受験という壁が崩壊すれば、バイオサイエンスも小学校からできます。
湯浅 なるほど。
丸 日本語がしっかりと書けるようになれば、御社(エディテージ)のようなところに、外注することもできる。小学生、中学生、高校生でも論文が投稿できるかもしれない。「英語はあとからついてくるから、もう論文にしちゃえばいい」と僕は子どもたちに教えています。
できないことはみんなとやる。自分が興味を持ったことを突き進めと。できない所はできる所に任せればいい。もっと日本人は自信を持って、自分たちでロジックを組み立てればいいんですよ。だから、日本の中でできないことは1つもないと思っています。
サイエンスにおいては、日本にいるとか海外にいるとかはどうでもいいんです。日本の文化とは何かをもう一度考えるべきだと思いますね。
湯浅 なるほど、日本の文化を考えることにサイエンスの原点があると。話しは変わりますが、日本は海外にくらべて面白い人材が少ないと感じますが、面白い人材ってなんだとおもいますか?
丸 僕は別に面白い人材なんていなくても、Diversity(多様性)だと思っています。ある母集団を作ってしまうからいけない。全部分散されていると思って、面白い人材なんか一人も存在しない。
逆にいうと「すべての人材は面白い、特長がある」というので、Diversityの話をちゃんとするべきです。
日本人はだいたい背丈や体重など平均をとりたがる。平均を目指すじゃないですか。だから面白くないんですよね。起業家やアントレプレナーはダイバーシティをすごく大切にする。平均をとりたいということ自体がおかしい。今まであったことを練り直すなんて興味がないというのが、起業家やアントレプレナーなど新しいことをおこす人の特徴でダイバーシティを必ず優先します。
湯浅 ダイバシティーが重要になってくると。
丸 リバネスなんてすごいですよ。インド、パキスタン、マレーシア、シンガポール、中国、台湾、アメリカ、イギリスなど仲間は世界にいっぱいいますよ。言葉なんて何言ってるかわかんないですよ。
いきなりお祈り始めるイスラムの方もいますしね。好きなようにやればいいんです。文化ですし、それが、ダイバーシティですから。
湯浅 リバネスさんと大学などの研究環境とを比較すると、大学は特定の人しか成長できない環境じゃないですか。それに対して、どういった方法で人を選ばれて、どのようにしてにまわしてたらそううまくまわるのかなと思ったのですが。
丸 すごく簡単です。それは出口を増やすこと。大学は物差しが1つしかないんですよ。論文を書いた人が一番偉いんです。たとえ性格が超曲がっていても、先生と仲良くて、たくさん実験をして、論文をたくさん書いていればいい。それが大学の一番大切な物差し。受験から一緒なんですよ。点数を取った人が勝ち組。
一方で、リバネスは違います。自分のやりたいことをやったひとが評価が高い。だから100人いたら100通り出口があるから、かなりラクなんですね。Diversityって、結局、出口の問題なんですね。そこをちゃんと認める文化というのが研究室の中にあれば、若手は育ちますよ。
たとえば、「僕は先生みたいな研究者になりたい」という人がいれば、「すぐに論文を20本書こう」でいいし、「自分の研究をもってベンチャーを創りたい」という人がいればそれもいいじゃないですか。基本的に、「あなたのような人、いいと思うよ」って言ってあげる文化です。
でも今の日本の研究室は基本的にはそこがアウト。研究室にきてベンチャーの話をしたらそれでにらまれるんです。出口をすぼめてますね。「君はなんだね、研究室に来て論文を書かないのかね」と。
湯浅 出口の種類を広げれば広げるほど、会社として利益を削るわけですよね。
例えば、大学の場合は、どれだけアウトプットが論文として多いかというのが基準だと思いますが、リバネスさんの場合は会社なので、利益追求するというのとダイバースに1人ひとりの尺度が違うというのと、どうやってバランスを取っていますか?
丸 自分のプロジェクトはすべて独立採算制でやらせてます。例えば、「アナゴの完全養殖をしたい」と言ったら、「じゃあ、いくらになるかちゃんと考えてね。がんばってね。」以上です。
その人が楽しく世の中のために研究し、食べていければいいので、たくさん稼げという風にはやらないです、絶対に。研究者と一緒です。「自分が研究をやりたいなら、好きなことをやっていいよ、別に分野は問わないよ、その代わり社会的意義がなかったらうちは会社だから無理だよ」と。
社会的意義があれば絶対にお金になります。もう、それ以上ないですよ。社会の課題を解決するところにお金がつかなかったら人類は滅びますから。
湯浅 そうなんですね。独立採算制。
丸 まず、他人が個人のパッションを潰すのはおかしいんですよ。やりたいことをやればいい。でも、それでその人が言い続けてちゃんとプレゼンができるとは重要です。プレゼンができれば、メンバーが集まり、チームのミッションになっていく。つまり、メンバーが集まれば、そこに金は絶対につく。それが国だろうが研究者だろうが、変わりません。
崇高なクエスチョンを掲げ、それに対してパッションと自分のやりたいことをしっかりと明確にできれば、それがメンバーのミッションに変わっていき、結果としてマネタイズができて、試行錯誤が始まっていく。そして諦めなかった先にイノベーションが起こっていくんです。僕らはこれを頭文字をとって「QPMIサイクル」と呼び、イノベーション創出サイクルとしてずっとやってます。
僕なんか別に管理者でもないし、教育者でもないし、社長でもなんでもない。僕も自分のクエスチョンに対して、アプローチをかけているメンバーですから。たまたま一番最初に言い出したから会社法的には僕は代表ですが、すべて責任取るわけでなく、取らないところがある。それは社員が言い出して始めたプロジェクトにたいしては、その社員がちゃんと責任取れよというスタンスがうちの会社の決まりですね。
利益分配もするし、その代わり、ちゃんとした責任分配もしているわけなんですよね。責任分配が嫌な奴は大企業にぶら下がったほうがいいです。それくらいのビジョン持ってやっています。ずっと増収してるのも理由は簡単で、自然の摂理に従って仕事をしているだけです。
湯浅 そうなんですか。
丸 研究はそもそも金持ちの道楽から始まって、研究という文化を発展させてきたのが人類です。つまりそもそも研究者というのは、格好いい文化を持った文化人の発展版だったんです。そして、そのかっこいい文化人をみんなが支援したのですね。
今はいつの間にかビジネスの世界にいったから、儲からないとやらないというよくわからない方に行ってしまったんですよ。だから、ビジネスを切り離して、大学はもう一度、真理の追究に励むべきだと思いますよ。
湯浅 「若手が立ち上がらなければ、そもそも何の意味もない」ということなのですが。いろいろな方のお話を伺っていたりすると、逃げかもしれないですけど、若手の人は言いたくても言えない環境だと。
外に出ても、リバネスさんみたいな会社が日本に100社あれば、選択肢は広いですがなかなか雇ってくれる企業もないから、仕方なくそこにいる人が多いという話もあります。
丸 みなさん、若手の方は本当に能力ありますよね。しかし、やはり内側からって物事はなかなか変わらないから、僕らが頑張るしかないっていつも思っています。我々がまず破壊します。約束します。リバネスももう少し力を持つからと。やはり力をもたないと。まだまだ小さな会社なんで。
湯浅 民間に今、ポスドクの人たちが行きたい魅力的な企業ってそんなにないじゃないですか。外の民間の力が非常に弱いというのはありますよね。
丸 ありますよね。民間がポスドクを雇えないレベルになってるというのもありますよね。こんなにバンバン博士雇ってるのはリバネスぐらいかもしれませんね。
湯浅 そうですよね。そういう意味では凄い面白い。、
丸 大学は研究を応用型にしようとしてますよね。基礎研究はいらないと。この次の10年、僕はもう予想しているんですけど、「知の空洞化」というのが新聞で取り上げられますよ。これから完全に知識が空洞化しますよ。ポスドクがこんだけ疲弊して、企業に基礎研究部門をなくしていってしまってますから。
湯浅 どうすればよいんでしょうか?。
丸 もはや、大学も企業も知識をつくっていないと思っています。なので、リバネスが知識プラットフォームのハブになろうと思っています。これでいろんな課題発掘して、取り組むことができ、未来志向の研究者集団施設に。これはまさにリバネスです。現代的な組織構造による個人が主役の個の組織なので、個人が自分のプロジェクトをやる。
湯浅 ですので、事例として使わせていただきたいなと思っています。一人ひとりが主役感を持って、「責任と利益分配の両方を与える」という話があったじゃないですか。それはすごくいいと思います。ただ、得てして日本人って、ダメだったらどうしようという人が多いと思います。
丸 ダメだったら、ちゃんとリバネスで吸収できますから(笑)
湯浅 これを失敗したらもう仕事ないよという会社もあれば、そのときはかなり追い詰めるけれども、ダメだったときにその人がある程度やって、結局ダメだったら違うものをやらせるとか。
あるいは新しい事業って、そもそも何年間である程度、見切りをつけるのかとか。そういうのって、どういう風に新しいアイディアがでて、その人たちがパフォーマンスがしっかりできるようにできるのか。仮にダメだったとしても、その人が次にチャレンジできるような土台というのは?
丸 リバネスではまた次にチャレンジというよりも、やり続けさせます。まず責任でいえばその人の責任なんだけれども、最初の所で、事業をつくるところを一緒に役員陣が入ります。結局、やるって決めたら全員相撲、チームで行うものなので。だから、個人のみのせいにもしない。
ある意味で全員が失敗した形になる。ただ、もちろん言いだしっぺは、一番責任がある。僕がいいたいのは、責任を取る方法は成功するまでやることでしかないと思います。
湯浅 成功するまでやり続けるんですね。
丸 そう。失敗したからといって逃げさせるわけにもいかないし、逃げさせるつもりもない。そんな人は最初から社員にしていませんので。プロジェクトは3カ月とりあえずでやってみる。ダメだったら、一回寝かせておこう、浮かせておこうと。ビジョンがあってやりたいと言ったんだから認める。でも、辞めたのではなく諦めず浮かせとけと。
お蔵入りという言い方はしません。付箋のように浮かせといて、みんなにPRしておいて、ここにまだとまってるからねと。何か新しいプロジェクトを始めたときに、その風船をギュッと引っ張れば、もしかしたら、ボーンとつながり、エンジンになることもあるんです。その感覚を皆でシェアしています。とにかく、やらないことが、まず、悪ですね。
湯浅 そうですね。
丸 昔の研究者は自分のメインの研究があって、じつは裏実験もたくさんやった。僕も裏実験たくさんやって、学部のとき裏実験の方がメインになってしまったんですけどね。それが面白かったです。大型予算採るとそれができない。計画なんて後付けです。
今、一生懸命ここで話して、次の場所に行って一生懸命話して、もう、将来のことなんて考える暇もないですから。いまを精一杯生きることが大切なんです、僕は世界を変えたいんです。僕は絶対に日本人ってこれからの世界をちゃんと平和な形にできる国民だと思ってるんですよ。宗教がまずない。そして戦争を放棄している。一番にはなれないかもしれないけれど、日本は世界を取りまとめることが絶対にできると思っています。
湯浅 日本が世界を取りまとめる役になれるんですか。
丸 逆に言えば日本以外は無理です。イスラムの世界も無理、中国も無理、アメリカも無理です。僕らはダイバーシティをもともと認められる国民性があるじゃないですか。
日本から世界を変えるのは100%できると思います。別にお金持ってなくても絶対世界変えられると思ってます。今、日本でもそういう人が増えてますよね。だから、研究者の世界でもそうです。自分の好きな研究をしたい、世の中を変えたい。そんな人は大学に残らず、リバネスにおいでよと。
湯浅 結果的にいろんな人の話を聞いてると、やっぱり現場の人の一人ひとりが自分の持ち場で何やるかが問題だと。サイエンストークスではそういう結論に持っていけたらいいなと思っています。
丸 若者は、全力で生きるしか方法はなくて。環境が悪いのだったら自分で環境を変えればいいし。日本の現状を解決するために、リバネスを立ち上げたので、日本を解決するために今は全力で動きます。政策提言をしなくても僕らは自ら動き、日本を変えられるし、日本を変えます。
湯浅 人の文句言ってもしょうがないから、一人ひとりが他の人がやっている良い事例を見て、俺もやろう、私もやろうって言って変わることが一番変わっていくことが大切ですね。
丸 そうでしょうね。
湯浅 だからそこを人のせいとかにする限りは、変わらないんだよというのがおそらく研究者の人たちに本当は伝えたいところなのかもしれません。
丸さん、本日はお忙しい中、ありがとうございました!
丸幸弘氏のプロフィール:
株式会社リバネス代表取締役CEO。1978年神奈川県横浜市生まれ。東京大学大学院農学生命科学研究科博士課程修了。博士(農学)。リバネスを理工系大学生・大学院生のみで2002年に設立。日本初の民間企業による科学実験教室を開始する。中高生に最先端科学を伝える取組みとしての「出前実験教室」を中心に200以上のプロジェクトを同時進行させる。2014年2月には、日本実業出版社より著書『世界を変えるビジネスは、たった1人の「熱」から生まれる。』を出版。