「トイレとお菓子で始まった、熊本大学との不思議な縁 」

熊本大学学長・谷口功氏インタビュー(2)

「トイレとお菓子で始まった、熊本大学との不思議な縁 」
私が博士課程の学生のとき、一階の角のトイレを使っていたんですが、そこでたまたま、よくお目にかかる教授の先生がいた。先生の名前は、加藤誠軌先生とおっしゃいました。実はこの方が私の熊本への道を開いてくださった方です。


【湯浅】
先生は関西出身で、東京工業大学で工学を学ばれたわけで、熊本とはあまりつながりがないように見えるのですが、今学長をされている熊本大学にはどういった経緯で就職されることになったんでしょうか?

【谷口】 不思議な縁です。電気化学関係の研究室が密集していた当時の東工大の一角(本館の一階の奥)に、「電化横町」と呼ばれる場所がありました。同じ階に無機材料化学の研究室も数多くありまして。私が博士課程の学生のとき、一階の角のトイレを使っていたんですが、そこでたまたま、よくお目にかかる教授の先生がいた。先生の名前は、加藤誠軌先生とおっしゃいました。実はこの方が私の熊本への道を開いてくださった方です。

大学院の学生の時には他にもお世話になった先生がたくさんいます。私の指導教員の(故)関根太郎先生はもとより、生物電気化学の草分けである(故)鈴木周一先生。鈴木先生は、関根先生と懇意で、私に生物電気化学の面白さを教えていただきました。それに電気化学の基礎を教えていただいた(故)松田博明先生。奈良県出身ということで大変懇意にしていただいきました。

また、溶液化学の(故)大滝仁志先生。この方は英語に堪能で、論文英語は,もとより英語の重要さを親身に教えていただきました。東工大内外に数多くの先生方がおられましたが、私の熊本への道を拓いていただいたのは、加藤誠軌先生です。多くのお世話になった先生は既に亡くなられていますが、幸いにも加藤先生は今もお元気で、時折メールをいただきます。

【湯浅】 指導教官の先生ではなく、トイレでたまたまばったり会われていた先生が、熊本大学への先導者だったんですか?

【谷口】 加藤先生には、廊下やトイレで会うことが重なるうちに、先生のところに企業の方が訪問された際にお土産に持ってこられたのであろう「おいしいお菓子」を食べにお茶に来なさいとお誘いを受けました。「おいしいお菓子」というひとことに誘惑されて、加藤先生の部屋にお茶によく伺うようになりまして(笑)。

【湯浅】 加藤先生とのつながりは、最初は研究ではなく、お茶だったんですか(笑)。

【谷口】 もちろんお茶をいただきながら、先生のご専門の話をはじめ様々な話を聞かせていただきました。耳学問ですが、それが大変楽しかったんですね。こんなふうに、大学院生時代には加藤先生以外にも多くの先生方から、耳学問で一流のお話を聞くことができました。加藤先生が第五高等学校の最後の卒業生であり、熊本大学の最初の卒業生(先にご逝去された、前田勝之助、東レ名誉会長と同級)であることは、ずーと後で知ることになります。

【湯浅】 なるほど…、そこで熊本につながるんですね。

【谷口】 あるとき、電気化学の分野で適当な若い研究者がいないかと、熊本大学の出身でもある加藤先生のところに熊本大学から当該人事委員会の委員長であった東工大出身の先生たちが人探しにこられたらしいのです。その当時、私は博士課程を修了して、海外に留学することも含めて、いくつかの大学や企業等での職の選択肢も考えながらも、将来についてどうするか迷っていました。そのような折りのある日、私に、加藤先生から熊本大学の面接を受けてみないかとの話がありました。東京、あるいは関東出身の者に話をしてもあまり九州には行きたがらないのでということもあったらしいですね。

【湯浅】 先生ご自身には、はるばるこれまで縁のなった九州へ行くという点には問題がなかったんですか?

【谷口】 私の趣味のひとつは旅行なんですね。九州や熊本には修学旅行や大学時代の旅行でなんども来ていました。修学旅行で行った水前寺公園や熊本城は忘れられない思い出でした。

【湯浅】 九州がもともとお好きだったんですね。

【谷口】 ええ。熊本を旅していたときにはまさか熊本に赴任するとはその時は思っていませんでしたが。ですから九州は遠いという感覚は全くなく、2つ返事で、「巧くいくかどうか分かりませんが受けてみます」と熊本に面接に来たところ、幸いにも合格となりました。恐らく加藤先生が裏でいろいろ頼んでくださっていたものと思っています。

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