大学インハウスデザイナーという名のお仕事

大学インハウスデザイナーという名のお仕事

“Design is not just what it looks like and feels like. Design is how it works.” (デザインとは、単にどう見えるか、どう感じるかではない。どう機能するかだ。) — これはスティーブ・ジョブズの名言ですが、研究広報におけるデザインとは、専門的で、ともすれば難解極まりないコンテンツを誰にでもわかりやすくパッケージングするための重要かつ必要不可欠な機能。

「大学インハウスデザイナー」。いるようで意外といない、この特殊な専門職につく東北メディカル・メガバンク機構の広報戦略室、特任助教の栗木美穂さんの作品とお仕事を取材しました。


 

2014年グッドデザイン賞受賞!ToMMo広報戦略室の、とにかく攻めてるクリエイティブ

 

広報制作物がこれだけ多い研究機関も珍しいだろう。上の写真はその一部を紹介したものだが、広報誌からメルマガなどの一般的な物から、イベント用のスタッフTシャツ、絵葉書、缶バッジ、ブックマークや多種多様な広報・教育パンフレットなどデザイン制作物は数限りなし。

特に01のモノクロパンフレットは、色覚障害の人にも読みやすいよう制作されたバリアフリーデザイン。2014年グッドデザイン賞を受賞して大きな話題に。「公益性が高くて、話題性のあるものを作ろう!」と企画され、栗木さんがデザインに落とし込んだもの。

インハウスデザインはコンセプト作りから。そろそろ新しいもの作りたいね、から始まるクリエイティブな仕事

外注デザインとの大きな違いは、なぜ・何を・誰に向けて・どう制作するのか、そのコンセプト作りから始めて、デザインの力を最大限に使ってアイディアを形にできること。

大学・研究機関の広報制作物に関わらず、外注デザインの場合、作るものと内容、入れるテキストまで決まってからデザインを依頼することがよくあるが、この方法だとテキストに縛られてヴィジュアル表現に限界が生じる場合がある。

コンセプト作りの段階では、機構長から具体的な課題が与えれられる場合もあれば、「そろそろ何か新しいもの作りたいよね」という完全なゼロからディスカッションが始まることも。部門長とデザイナーが新しいアイディアを出し合い、作りながら考えるスタイルで、ほとんどの場合一つの制作物の計画から完成まで、3週間ほどで終わるという。このスピード感とフットワークの軽さも、インハウス広報チームならではかもしれない。

長神室長と新しい制作物のコンセプトをブレスト。目的や対象を絞り込んで、レイアウト、作るイラストや図案、印刷用紙を詰めていきます。
iMacで実際にデザインを作成。「時間をかけてデザインを作っていく地味な作業が仕事の大半です」。
出来上がったデザインのドラフトを見ながら軌道修正。最後の詰めをして、デザインの完成。

 

次々と新しいものにチャレンジするスピード感。広報ディレクターとデザイナーの強力なコラボレーション

東北大学に勤務される前は仙台市内の広告代理店のデザイナー、博物館の広報をしていたという栗木さん。デザインの仕事に絞って集中したいと転職活動をした時、たまたまハローワークで見つけたのが東北大学医学部の脳科学グローバルCOE広報室のデザイナーのポジションだったという。

栗木さんいわく「大学の学術系のデザインの仕事ってどんなものだろうと興味があって。医学部で5年デザイナーをして、そこから東北メディカル・メガバンク機構に移動して今に至ります」とのこと。

医学系の専任デザイナーとなると、ある程度学術的な知識が必要なのでは?と考えがちだが、むしろ知識を持たないからこそ、自由なデザインに挑戦できる。

「脳科学や遺伝子なんて、最初は興味もなく、依頼されるデザインのコンセプトも全然わかりませんでした。でも東北大学でデザイナーをしてもう10年になるので、少しずつ、少しずつ、科学広報というものに慣れていったと思います。」

例えば東北メディカル・メガバンク機構のコンセプトであるゲノムデータの共有を表現するイラストを描く仕事。部門長の長神さんが「つまり、遺伝子情報をみんなで共有するってイメージだよね。だからATGCの配列が書かれている大きな本をみんなで一緒に読んでいる絵なんてどうかな?」と具体的なアイディアをあげて話し合い、栗木さんがそれをイラストに落とし込んでいく。

科学デザインの的確なディレクションをする人と、それを魅力的な形にデザインする人、両者の高いスキルが求められる仕事だ。大学インハウスデザイナーの仕事の魅力はどこにあるのか?

「スピード感ですね。色々な制作物を次から次へすごい勢いで自分で作れるのが面白いです。機構の事業が多岐にわたっているので、イベントやら巨大なパネル制作やら、日々経験したことのない新しいことが起きる。そんな変化のある職場はなかなかないと思います。」

その変化のスピード感、大学には逆に、珍しい環境かも?いずれにしても、機能して結果を出す広報には、インハウスでもそうでなくても、目的とコンセプトを共有して機能するデザインを作る、強力なデザイナーの存在が欠かせないのだ。

栗木美穂(くりき・みほ)
東北大学 東北メディカル・メガバンク機構 広報戦略室  特任助教(広報担当)宮城学院女子大学 学芸学部 英文学科卒業(1998年)。2016年1月より現職。専門は、エディトリアルデザイン、グラフィックデザイン、インフォグラフィックス、サイエンティフィックイラストレーション。東北大学医学部グローバルCOE広報室勤務を経て、東北メディカル・メガバンク機構のデザイナーに。

雑誌「ScienceTalks」の「東北メディカル・メガバンク機構の広報にかける東北魂」より転載。

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