「生き残りをかけた、地方大学統合構想!?」
鈴鹿医療科学大学学長・豊田長康氏インタビュー(7)
- 日本語記事インタビュー日本の研究ファンディングを考える
- September 2, 2013
今回は豊田先生が思考する地方大学統合構想について聞いてみました。複数の大学を統合することのメリット、海外における実績についても具体的に論じています。(※以下、敬称略)
【豊田】 国は一部の大学を研究大学として重点化しようとしていますが、その選択と集中の根拠は、大学あたりの質の高い論文数なのです。これは間違っています。
思考実験ですが、例えば、複数の大学を仮に統合して1つの名前にすると、その大学の規模は大きくなって東大に匹敵する規模になるかもしれません。研究者数も、研究時間も、研究費も増えるでしょう?
大学あたりの質の高い論文数で評価されるのであれば、そのような統合された大学も当然、選択と集中の対象になるはずです。
【湯浅】 なるほど。面白い考え方ですね。
【豊田】 現行の研究大学重点化政策では、中堅の大学の機能を縮小あるいはつぶそうということなので、せっかくの費用対効果の高い大学の研究力が活用できなくなります。それでは日本の国全体としての研究の競争力は難しいと思っています。
しかし、ばらまきはだめで選択と集中をしないといけない、大学の世界ランキングを上げたいという単純思考で凝り固まっている政策決定者のお考えを変えていただくことはたいへん難しいものがあります。
そうであれば、地方大学はアンブレラ方式でもいいので統合をして、そういう統合された大学にも資源を集中していただくことを訴えたらいいのではないか、というのが、僕の考えです。そうしたら、日本の研究力は落ちません。
【湯浅】 うーん、お聞きすると過激なアイディアのように聞こえますが、もしかすると何年後かには本当に地方大学が生き残りをかけて統合する可能性というのは現実に起こりうるかもしれないですよね。
【豊田】 フランスは実際そうやったわけですよ。以前に三重大学へお越しになったリヨン大学の先生などはそう言っていましたよね。リヨン市にいっぱい国立大学があるのだけれど、全部統合してしまったのですよ。学生10万人の大学を作ったんじゃない? 全部統合して、全部リヨン大学にして、全部一つにしてしまったわけですよ
【湯浅】 効果はあったんでしょうか?
【豊田】 そのときは統合直前でお越しになったので、その結果についてはおっしゃっていなかったけれど。政治家がそういうことを言うので仕方なしに統合するのだとおっしゃっていました。その後のことはちょっと僕は直接聞いていないのでどうだったのかよく分かりません。
ただ、そこには一番有名なグランゼコールが1つあってね。それは統合されたはずなのだけれど、世界の大学ランキングではそのグランゼコール単独で順位が付けられていくのですよ。その順位は上がりましたよね。昔に比べると。200位にかからなかったのだけれど、そのグランゼコールね。150位ぐらいになっていたんじゃないかな。だから世界ランキングを上昇させる効果があったんだと考えます。
【湯浅】 なるほど。なんだか現状の日本の問題を見ると、本当に将来同じようなことが起こる気がしてきます。
【豊田】 ただし、統合とはいっても、単に大学の予算を削減する目的での統合では、まったく意味がありません。統合によって研究やイノベーションに関るところは、むしろ強化されるような統合が必要です。大学の現場は、統合することによって財務省がさらなる削減を要求してくる口実にされることを非常に恐れているんです。財務省に対する不信感ですね。だから、統合が進まない。
でも統合しないとしないで、どんどんと運営費交付金を削減されつづけるわけですから、地方大学は生き残れないでしょうね。国の政策決定者は選択と集中至上主義で頭が凝り固まっているので、なかなかその考えを変えていただくのは難しい状況だと思うんですよね。そういう方々のご理解をいただきつつ、日本全体の研究機能を維持して、世界と戦うためには、地方大学が統合して一つの大学名を使うべきではないかと。ただ、キャンパスの立地する場所は地域にあってもいいのではないかと。東京大学だって柏にあるわけだし。
【湯浅】 ああ、そうですよね、確かに。
【豊田】 例えば、三重大学が名古屋大学という名前に変わっても、べつに名古屋に行かなくても三重にあってもいいじゃないかと。名古屋大学という名前に変わってもね。地域に立地するということが、やはりその地域の周辺の企業さんとの産学連携では非常に役立つわけです。
【湯浅】 そうですよね、役立ちますよね。
【豊田】 三重大学は産学連携もいろいろ地方大学なりに一生懸命やったわけですけれど。伊賀市という忍者で有名な里があるのですが、そこの工業団地に実は三重大学の伊賀研究拠点というのを作ったんですよ。それは、今までの大学集約化の流れとは逆ですよね。分校とか分院は統合しろという流れだったと思うのですけれど、僕はあえて分院を作ったわけですよ。
そこで地域と密着した産学連携をやって、地域の企業さんと一緒に共同研究をやり、インキュベーターを整備してベンチャー育成をやる。伊賀市が4億円出してくれたのですよ、ぽんと。建物も造ってくれましてね。例えば菜種プロジェクトというのがあって、農家に菜種を作ってもらってバイオディーゼルを作るプラントもあるんですよ。
つまり、コンビニ型の大学モデル。組織体としては大きいですが、地域のすみずみと密着していますよね。
【湯浅】 地域と共生した産学連携はすごくユニークですね。
【豊田】 国おこしや地域おこしをしようと思えば、やはり大学が大都市の真ん中にあるのではなく、地域の現場にその一部があることは必要じゃないかと思いますね。
研究やイノベーションの機能、そして地域への貢献機能を縮小しないということであれば大学の統合は大いに結構なのではないですかね。統合することによっていろいろなことが共同でできますしね。
【湯浅】 海外には似たような例あるんでしょうか?
【豊田】 はい。リヨン大学の人が統合によって1ついいことだとおっしゃっていたのは、彼らも国際化に遅れているということを気にしていて、国際村というのをリヨン大学全体で1つ作ると言っておられました。今までは小さい大学に分かれていたからそういうことができなかったわけですよね。でも大きな大学になったらそういうものができるわけです。世界的な研究所なり産学連携の仕組みなりが統合によってできるかもしれませんよね。
それは、キャンパスが離れていて、分散していてもいいのではないか? 今では、物理的に離れていても、いくらでもコミュニケーションがとれるわけですからね。つまり、バーチャルな研究所でもいいのではないかと思います。ただし、そのガバナンスは、学部教授会ではなく、研究所に属すようにしないとダメです。
【湯浅】 なるほど、研究所に属するように。
【豊田】 最近アメリカでは、バーチャルホスピタルなるものができているそうです。病院に患者を集める従来の病院ではなく、医療従事者が患者の自宅に出かけて行って高度な医療行為をするシステムです。まさに、コンビニシステム。同じように、研究所もバーチャルな研究所でいいのではないか。同じビルディングにいても、隣の研究室とそれほど情報を交換するわけではありませんからね。