職員数増加の妥当性はその背景を考慮して解釈すべき(河野太郎議員への公開討論記事2)

職員数増加の妥当性はその背景を考慮して解釈すべき(河野太郎議員への公開討論記事2)


サイエンストークスでは、科学技術予算について研究コミュニティに疑問を投げかけている河野太郎議員への公開討論記事を募集中。掲載第2弾の投稿者は、東京大学 文学部4年生の鈴木大介(すずき・だいすけ)氏。河野氏の取り上げた問題のうち、特に大学職員数の問題について個人的に調査をされていたデータから記事にまとめていただきました。皆さまからのさらなる記事へのコメント、異論・反論、別の角度からの投稿をお待ちしています。
投稿はこちらから


この記事の著者
東京大学 文学部4年 鈴木大介(すずき・だいすけ)氏


職員数増加の妥当性はその背景を考慮して解釈すべき

河野太郎氏から、平成16年から平成28年にかけて国立大学の職員数が2万4千人近く増加しているとの指摘がなされた。私は、この数値を解釈するにあたって以下の三点の背景を考慮する必要があると考えている。それはすなわち、(1)法人化以前の国家公務員定数削減、(2)法人化以後の業務拡大、(3)常勤/非常勤・職種の内訳、である。

(1)法人化以前の国家公務員定数削減

まず、法人化以前に合理化が進み過ぎていたのではないかと考えることも重要なのではないだろうか。国立大学の法人化は、郵政民営化と同時期になされたことが象徴的であるように、国家公務員定数削減の目標のもとで、多くの人員を抱える組織として改革の標的にされたことが発端にあるというのは疑い得ない。そして、法人化以前の国立大学においては、法人化という劇的な変化が生じなくとも、着々と人員の削減が行われてきた。学校基本調査を確認すると、その本務職員数は、平成4年度60,290人→平成8年度59,018人(-1,272人)→平成12年度57,280人(-1,738人)→平成16年度(国立大学法人化の年)55,545人(-1,735人)と一貫して微減してきている。しかしこの間に学生数は増加(平成4年543,198人→平成16年624,389人)し、本務教員数も増加(54,952人→60,897人)している。つまり、組織として拡大している一方で、減少していく職員でその運営を担っていたのである。
もちろん、もともとの文部科学省の下部組織としてあった国立大学が肥大化しすぎていた可能性があるとも考えられる。しかし少なくとも法人化以前までは、人員削減による組織経営の合理化が進められてきていた。この人員削減は、組織の合理化努力というよりは政治の掲げる数値目標の埋め合わせという論理で動いており、それがどれだけ適切なものであったのかは再検討する必要がある。

(2)法人化以後の業務拡大

次に指摘したいのは、法人化後に国立大学の業務は大幅に拡大しており、職員数が増加するのはある意味当然だということである。国立大学の法人化は、財政を含めた多くの点で各大学の自律性をもたらしたが、同時に業務量の拡大をもたらした。例えば、法人となったことにより財務諸表の作成が求められるようになった。人事・労務管理を法人単位で行わなければならなくなった。自律性の見返りとして、重層的な評価を行う、あるいは受けることが義務付けられた。これは、自己点検・評価、認証評価、国立大学法人評価などである。
その上、法人化後の国立大学にはより広くのことが求められることになった。産学連携による研究成果の社会への普及あるいは自己資金獲得、社会貢献活動、寄付金の募集、プロジェクト型資金の獲得(大型では教育GPやCOEなど)、国際化対応などである。その上、18歳人口の減少に伴い学生募集も激化し、日本的雇用慣行が崩れつつあるなかで就職支援も手厚くなっている。
このように、そもそも以前よりも行わなければなけない業務が幅広くなっている。そこで、こうした新たな業務に対応する職員を獲得する必要があるということは当然のことであろう。

(3)常勤/非常勤・職種の内訳

最後に、職員数の増減の中身を確認する必要がある。学校基本調査を確認すると、国立大学の本務者の職員数は、平成16年度が55,545人、平成28年度が79,278人(+23,733人)となっている。確かに職員数は大きく増加している。しかしこれに対して、医療系を除いた職員数を確認すると、平成16年度が33,292人、平成28年度が35,767人(+2,475人)となっている。すなわち、この間の職員数の増加は大部分が医療系職員の増加であることがわかる。
また、河野氏の記事によると、国立大学の常勤職員数は平成17年度が27,175人、平成27年度が24,376人(-2,799人)である。一方、非常勤職員数は平成17年度が33,620人、平成27年度が59,984人(+26,364人)となっている。元にしている統計が異なるため数値が合わないようだが、少なくとも職員数の増加の大半が非常勤職員の増加によるものであり、常勤職員はむしろ減っていることがわかる。

まとめ

以上、三点を指摘してきた。まとめると、法人化以前に組織の規模の拡大にも関わらず職員数が削減されてきていたが、法人化後に業務範囲は拡大している。法人化後に職員数は増加したが、職員数の増加は医療系を除いてみるとわずかなものに過ぎず、かつ非常勤職員を大幅に増加することで職員の増員を行っている。職員数の妥当性を判断するには、以上の指摘を踏まえながら議論を進めていく必要があると私は考える。


編集部コメント
国立大学法人化のビフォア&アフターを俯瞰して大学職員数と管理業務の実態をデータに基づいて解説したComprehensiveなまとめです。そもそもすでに法人化以前から人材削減が進んでいた、という視点がこの記事のポイントだと思います。法人化前はある程度合理化・最適化の状態にあったとしても、法人化後に大学運営に関わる業務拡大と運営費交付金の削減が起こり、本格的に人材不足に転じたという解釈です。
もう一方で、この記事を読んでいてふと考えさせられたのは、大学における「人材不足」とは単純なマンパワーだけの問題なのではないのだろうということ。企業では経営転換や事業拡大の時にはそれまでとは異なる経験や能力が必要になるため、激しい人材の入れ替わりが起こります。例えば店舗販売がメインだったメーカーがネット販売に大々的に切り替える際に営業チームを縮小してマーケティング人材を雇い入れるように、大学も法人化によって大学の運営基盤を支えるために必要な人の能力や資質自体が実際には大きく変化しているべき。にもかかわらず、現場の雇用がその「あるべき変化」に対応しきれず、必要な人材が足りない状況を生み出しているのかもしれません。
[kanren postid=”5630,5635,5640,5726″]
Featured image is by Designed by Freepik

Related post

チベットの研究を通して見えてきたもの

チベットの研究を通して見えてきたもの

自分自身のしたいことを貫いて進んできた井内先生だからこそ見える世界、今後、チベットの研究をより多くの方に知っていただく活動にもたくさん力を入れていくそうです。これまで歴史の研究について、そして、チベットのことあまり知らないという人にもぜひとも見ていただきたい内容です。
チベット史の空白を明らかにしたい 日本のチベット研究者

チベット史の空白を明らかにしたい 日本のチベット研究者

0世紀から13世紀頃までのチベットでは、サンスクリット語からチベット語に膨大な数の経典が翻訳され、様々なチベット独自の宗派が成立したことから「チベットのルネッサンス」と呼ばれますが、この時代について書かれている同時代史料がほとんどありません。この「チベット史の空白」を明らかにしようと、日々研究されている京都大学白眉センター特定准教授の井内真帆先生にお話を伺っていきます。
自由な環境を追い求め『閃』が切り開いた研究人生

自由な環境を追い求め『閃』が切り開いた研究人生

後編では、黒田先生がどうして研究者になったのか?どのような思いを持ち、日々研究されているのか?などの研究への愛について語ってもらっています。自由な研究環境を追い求め、自由な発想をされる黒田先生だからこそ、生まれる発見がそこにはありました。

Leave a Reply

Your email address will not be published. Required fields are marked *