研究関係のデータの読み方について(河野太郎議員への公開討論記事4)

研究関係のデータの読み方について(河野太郎議員への公開討論記事4)


サイエンストークスでは、科学技術予算について研究コミュニティに疑問を投げかけている河野太郎議員への公開討論記事を募集中。掲載第4弾の投稿者は、鈴鹿医療科学大学長(元三重大学長)・豊田長康(とよだ・ながやす)氏。皆さまからのさらなる記事へのコメント、異論・反論、別の角度からの投稿をお待ちしています。
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この記事の著者
鈴鹿医療科学大学長(元三重大学長)・豊田長康(とよだ・ながやす)氏


河野太郎先生が現場の研究者のみなさんの意見をお聞きになっていることについて、日本の研究状況について憂慮している者の一人として、たいへんありがたいことであると思っています。ぜひとも、現場の研究者の皆さんの生の声に耳を傾けていただき、日本の国際的な研究競争力を高める、あるいは地域の再生につながるとご判断された点については、政策に反映していただくようご検討をお願いいたします。
データに基づいて政策を決定するべきであるという河野先生のご姿勢には大賛成です。ただし、データはしばしば物事の一面しか反映していないことがあり、その分析や読み方には慎重であるべきで、現場の皆さんの感覚とも合わせて、判断することが大切です。河野先生は、その点にもご理解をいただいており、現場の研究者の皆さんから多くの意見を集めておられることは、高く評価させていただきます。
僕も日本の研究力の分析をした者の一人として、河野先生のご活動に少しでもご参考になるかと思い、少しばかりコメントをさせていただきます。なお、僕の日本の研究力のデータの分析については、国立大学協会への報告やブログで公開をしています。
「運営費交付金削減による国立大学への影響・評価に関する研究 ~国際学術論文データベースによる論文数分析を中心として~」
ブログ「ある医療系大学長のつぼやき」
なお、僕は現在、文部科学省科学技術学術政策研究所(NISTEP)の「定点調査委員会」という委員会の座長をしています。この「定点調査」というのは、日本の大学、研究機関、企業の研究者に5年間にわたり、毎年同じ質問項目のアンケートにお答えいただき、現場の研究環境や研究者の意識がどのように変化しているのか(あるいは変化していないのか)をモニターする調査です。現場の研究者の感覚は非常に大切であると考えており、それを定点調査では集計・分析して数値化しています。景気の動向を測る日銀の短観も、現場の経営者の感覚をもとに数値化してモニターしているわけで、結果として現れる論文数(景気の場合はGDP)の変化よりも、ある意味、鋭敏かもしれません。
「NISTEP定点調査検索」
この定点調査の分析結果からも、日本の研究環境が現場の感覚として悪化していることが分かり、それが学術論文数が低迷している分析結果とほぼ一致しているので、両方を合わせると説得力のあるデータになると考えられます。
特に、研究者の皆さんがお書きになった自由記載欄の膨大な記述を読むと、現場の生の声が伝わってきて身につまされます。
ただし、大変残念なことは、このような貴重なデータが、政策決定者の皆さんに知られておらず、あまり活用されていないということです。今回、河野先生が多くの研究者の声に耳を傾けられているのは、政策決定に影響力を持っておられる有力な先生に現場の声が直接伝わるということであり、これはたいへんすばらしいことです。ぜひともよろしくお願いしたいと思います。
以下に、研究関係のデータを読む上で注意するべき点について、僕がデータを分析した時に気付いたことを中心にいくつかコメントさせていただきます。

(1)河野先生の引用されている総務省統計局の「科学技術研究調査」のデータについて

まず、河野先生が引用された、基礎研究、応用研究、開発研究の費用のデータについてコメントしたいと思います。多くの研究者の皆さんが河野先生のブログに意見を寄せられているようですので、たぶん同じ意見だと思われ、重複することがあると思いますが、ご容赦お願いします。
国公私立大学 基礎研究 応用研究 開発研究 合計(億円)
平成13年度 10,787    7,554    1,808   20,148 (基礎研究の割合 53.5%)
平成14年度 11,062    7,471    1,965   20,497
平成15年度 11,213    7,446    1,736   20,395
平成16年度  11,019    7,487    1,770    20,276
平成17年度  11,677    7,594    1,926    21,197
平成18年度  11,542    7,639    1,856    21,038 (54.9)
平成19年度  11,719    7,749    1,897    21,365
平成20年度  11,692    7,881    1,965    21,538
平成21年度    12,254    8,308    2,097    22,658
平成22年度    11,492    8,106    1,986    21,583
平成23年度    12,228    8,270    2,003    22,501 (54.3)
平成24年度    12,486    8,347    2,005    22,838
平成25年度    13,004    8,841    2,170    24,016
平成26年度    13,146    8,764    2,108    24,019 (54.7)
これは、総務省統計局の「科学技術研究調査」のデータですが、このような公開データは多くの研究者に分析をする機会を与えるのでたいへん貴重です。
このデータを見る限り、河野先生が問題意識を持たれた通りで、基礎研究費、応用研究費、開発研究費の比率が、変化しておらず、大学においては基礎研究が軽視されているということは言えません。
三重大学の学長をしていた僕の感覚としては、国立大学の法人化前後から産学官連携や地域連携がさかんに叫ばれ、さまざまな産学官連携の仕組みや組織つくり、また、企業との共同研究や寄付講座等も増え、特許出願件数も増えているはずなので、研究費においても基礎研究から応用研究へのシフトが観察されてもおかしくないと思うのですが、このデータにおける基礎研究、応用研究、開発研究の研究費の比率は、おどろくほど一定です。なお、「企業等」および「非営利団体・公的機関」については3者の比率に変化が見られます。
上にも紹介いたしました「NISTEP定点調査検索」の自由記載データベースを使って「基礎研究」というキーワードで検索しますと、基礎研究での研究費獲得が困難になっているという意見や、基礎研究をもっと重視するべきであるというご意見がおびただしく出てまいります。下は、そのうちのごくごく一部で、「科学技術予算の状況について、ご意見をご自由にお書き下さい。」という設問に対して、大学の研究者が基礎研究について記載した一部を抜粋したものです。河野先生のもとにも、これに類する意見が研究者の皆さんから多数寄せられているものと想像します。
1
河野先生がご指摘になっておられるように大学の現場の研究者の感覚と「科学技術研究調査」の結果とが一致していません。
なぜ、データと現場の感覚が一致しないのか? データの方が正しく実態を反映していないのか、あるいは、現場の感覚が思い込みにすぎないのか? 残念ながら、本日のところは、僕はこの問いに答えるだけのデータを持ち合わせていません。この問いに答えるためには、今後、何らかの別の調査方法で調べてみる必要があると思います。
ここでは、「科学技術研究調査」のデータを読む上での注意点について述べたいと思います。

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