研究関係のデータの読み方について(河野太郎議員への公開討論記事4)

研究関係のデータの読み方について(河野太郎議員への公開討論記事4)

1)基礎研究、応用研究、展開研究に分類することの困難さについて

基礎研究、応用研究、展開研究について「科学技術研究調査」の調査票には以下のように書かれています。
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【10】理学、工学、農学、保健の性格別研究費を記入してください。
【9】内部で使用した研究費」の「総額」のうち理学、工学、保健の自然科学に関する研究費を性格によって分類して記入してください。分類単位は原則として研究テーマごとに行いますが、それが困難な場合には、研究者又は研究室ごとに分類しても差し支えありません。
分類の一般的定義は以下のとおりです。
①基礎研究
特別な応用、用途を直接に考慮することなく、仮説や理論を形成するため又は減少や観察可能な事実に関して新しい知識を得るために行われる理論的又は実験的研究をいいます。
②応用研究
特定の目標を定めて実用化の可能性を確かめる研究や、既に実用化されている方法に関して新たな応用方法を探索する研究をいいます。
③開発研究
基礎研究、応用研究及び実際の経験から得た知識の利用であり、新しい材料、装置、製品、システム、工程等の導入又は既存のこれらのものの改良をねらいとする研究をいいます。
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この記載にもとづいて、各大学の担当者が記入することになっていますが、一見して、これはたいへん困難な作業であることが想像されます。
僕自身は三重大学在籍中に、臨床医学の産婦人科の研究をしてきたのですが、動物実験による基礎研究もしましたし、人のデータを集めて診断に結び付けようとする臨床研究(応用研究に分類されると思われます)も行いました。調査票には定義が書いてはありますが、基礎研究か応用研究か、なかなか判断するのは難しいことも多いのではないかと思われます。例えばノーベル賞をもらった山中伸弥先生のiPS細胞の研究は、いったい基礎研究なのか、応用研究なのか、担当者がどのような判断をしたのか、興味のあるところです。
たぶん、研究テーマ単位によって分類するのはたいへんなので多くの大学では研究者又は研究室ごとに分類することになると想像します(調べたわけではありませんが・・・)。そうすると、その研究者や研究室が、途中で基礎研究から応用研究に比重を移したとしても、数値には反映されないことになります。
そして、研究費を振り分ける計算は、さらに膨大な作業になります。狭義の研究経費はもちろん、人件費や、電気代などの管理運営費や減価償却費も3つの研究費に案分しないといけません。研究者や研究室単位で、そのような管理会計をきちんと計上できる大学があるのかどうか、疑問に思っています。
でも、毎年、各大学から数値が報告されるわけですから、何らかの方法で計算されているということになります。各大学が、毎年の総務省の科学技術研究調査に対して、具体的にどのようなプロセスで回答しているのか、調べてみる必要があると思います。この点については河野先生も同じ指摘をしておられます。

2)研究者数について

企業や研究所についての研究者数のデータについては、おそらくそのまま分析に使ってもいいと思います。しかし、大学の合は、注意が必要です。
平成28年度の調査票における研究者の定義は以下のように書かれています。
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「研究者」とは「教員」、「医局員」、「その他の研究員」、「大学院博士課程の在籍者」のいずれかに該当する者をいいます。
「教員」とは、教授、准教授、助教および講師をいいます。
「医局員」とは、「教員」及び「大学院博士課程在籍者」以外の者で、医学部等に所属し、大学附属病院及び関連施設において診療、研究、教育に従事する医者をいいます。
「その他の研究員」とは、「教員」、「医局員」及び「大学院博士課程の在籍者」以外の者で、大学(短期大学を除く)の課程を修了した者又はこれと同等以上の専門的知識を有し、特定のテーマをもって研究を行っている者をいいます。
「兼務者」とは、外部に本務をもつ研究者をいいます。ただし、講義専門の非常勤教職員は、「研究以外の業務に従事する従業者」に含めてください。
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ここで「医局員」などという、「白い巨塔」の象徴的な公的には存在しない用語が今でも公的文書に使われていることに、個人的には強い違和感があります。なお、「医局員」が「その他の研究員」から分けて分類され、「医局員」の定義が明記されたのは、平成26年からです。この定義によると一日のほとんどを診療にあてている「研修医」も研究者に含まれると考えられます。いずれにせよ、研究者の「本務者」としてカウントされているのは、一日の大半を教育や診療に充てている大学関係者を含めての人数ということです。
このようにして計算された「研究者数」は、国際比較をする時に大きな問題となります。そもそも、研究者数の国際比較は、各国によって「研究者」の定義が異なるので難しい面をもっているのですが、日本のように、1日の大半を教育や研究に充てている人を「研究者」としてカウントする国はほとんどありません。国際比較をすると日本の研究者数が多くカウントされ、その結果日本の研究者当りの論文数は他の国よりも少なくなり、生産性が低いという結果になります。日本の政策決定者や財政当局がこのようなデータに基づくと、日本の大学は研究者が多いのに、他の国に比較して生産性が低いので、もっと予算を削減して、競争的環境や評価を厳しくするべきである、という政策決定に結びつきかねません。
OECDは各種のデータを公開しており、「OECD.Stat」というサイトでOECD各国の大学の研究者数や研究資金・研究費を比較できます。日本のデータもこのOECD.Statで見ることができます。OECDでは、フルタイム換算をした研究者数(FTE: full-time equivalent)のデータを基本にしています。これは、1日の活動時間のうち半分を研究活動に充てている研究者の人数を1/2人とカウントする計算法です。日本では、文部科学省が2002年、2008年、2013年に研究時間の調査をしてFTEを計算しています。研究時間の推計というのも誤差を伴うものと思いますが、各国のFTE研究従事者数と論文数は良く相関しまず。「運営費交付金削減による国立大学への影響・評価に関する研究」に示しましたように、日本の「科学技術研究調査」の研究者数そのままですと、OECD各国の回帰直線上から大きく外れますが、FTEを使うと回直線に近づきます。つまり、研究時間も考慮に入れたフルタイム換算(FTE)で計算すると、日本の研究者の生産性は決して低くないことがわかります。
なお、「科学技術研究調査」においては平成22年からこのFTEで計算した研究者数を「研究者(専従換算値)」として併記しています。
(単位100人、各年の3月31日の値)
平成12年 1784
平成13年 1791
平成14年 1774
平成15年 1470 *
平成16年 1494
平成17年 1540
平成18年 1562
平成19年 1595
平成20年 1595
平成21年 1235 *
平成22年 1242
平成23年 1253
平成24年 1261
平成25年 1259
平成26年 1366 *
平成27年 1376
平成28年 1371
2
FTEが3回しか測定されていないので、階段状になっていて読みづらいのですが、平成15年から平成21年にかけて減少し、平成26年ではやや回復しています。この変化は日本の大学の論文数の推移とほぼ一致しています。

3)大学の研究費について

OECDでは大学の研究費についてもFTEに基づいて計算しています。つまり、研究者の人件費を研究時間で案分して計算します。「科学技術研究調査」では、研究者数については参考として専従者換算(FTE)の研究者数を挙げていますが、研究費については案分をしておらず、大学の人件費について、研究費、教育費、診療費の区別をすることなく計上していることになります。
「科学技術研究調査」の調査票には「医学部については、附属病院も含めてください」という記載があり、また、研究者に「医局員」を含めるわけですから、附属病院の収益が増え、あるいは拡大し、医師の数が増えればその人件費も増え、仮に診療ばかりして研究をしていなくても、日本の大学の研究費はどんどんと増えていく計算になります。
また、私立大学が増えれば、教員数は増えますから、附属病院と同様に研究をする、しないに関係なく研究費は増えていく計算になります。
そして「研究費」と「研究資金」とを混同しないようにすることが重要です。運営費交付金や私学助成が削減され、競争的研究資金が削減されたとしても、附属病院が拡大したり、私立大学が増えたりすれば、先ほどの理屈で「研究費」はどんどん増えていき、そのデータだけ見れば、日本の大学の「研究費」が増えているのに、「研究資金」が削減されている研究現場から悲鳴が上がるという現象が起こるわけです。当然のことながら「研究費」の増に見合うだけの論文数の増は期待できません。
河野先生が最初に問題提起をされた、「科学技術研究調査」の基礎研究費、応用研究費、開発研究費のデータで、研究費が増えている点については、このようなことを念頭において読む必要があります。

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