研究関係のデータの読み方について(河野太郎議員への公開討論記事4)

研究関係のデータの読み方について(河野太郎議員への公開討論記事4)

(3)河野先生が引用しておられる文科省による大学の教員数のデータについて

河野先生が引用しておられる大学の教員数のデータについて、最初は全大学の教員数をお挙げになっていましたが、その後おそらく多くの皆さんからの意見が寄せられ、国立大学だけの教員数、さらに、付属学校や附属病院の医療系教員を除いた教員数を引用しておられます。これは、分析をする上で適切な処理であると思われます。
教員数のデータのソースは文部科学省ということであり、公開データしか利用できない僕としては、そのデータを見ていないので、信頼性等についてコメントすることはできません。
ただ、公開データでもって国立大学の「教員数」のカウントをした経験から、法人化直後の「教員数」のカウントはなかなか難しい面をもっていると感じていますので、その点についてコメントしておきます。
平成16年の法人化後、さまざまな形態の教員ポストが作られ(特任教員など)、日雇い扱いの非正規教員を常勤としてカウントするのか、非常勤としてカウントするのかなど、教員数のカウント法について大学によって混乱があったと思います。
僕は、各国立大学が公表している財務諸表のうち「事業報告書」の中に書かれている教員数のデータを分析に利用していますが、たとえば次のようなデータに遭遇します。
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いくつかの大学では、常勤教員数が階段状に増加しているのに、教員人件費は増加していないので、これは、何らかの教員カウント法の変更がなされたものと判断しています。また、このうちA大学については、非常勤教員数は0~1人となっており、常勤教員が1000人前後の他の同規模大学では600人とか1400人という非常勤教員数が挙げられていますので、こういうことが果たしてありうることなのだろうかと疑問に思ってしまいます。このようなことから、非常勤教員数には問題があると考え、僕は論文数の分析には使っていません。
文部科学省のデータというのは、このような各大学が報告するデータを集計したものと想像されます。瑕疵があればたぶん訂正がなされているとは思うのですが、ひょっとして訂正がなされていない可能性も否定できないのではないでしょうか?
また、次の表のように、平成27年に東京工業大学が教員数のカウント方法の訂正を報告しています。訂正された常勤教員数では、訂正前の常勤教員数よりも減少率が大きく計算されます。ただし、平成16年から19年のデータについては残存しないので、訂正できないとしています。
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京都大学については2007年から2008年にかけて階段状に常勤教員数が増えています。この年に教員人件費が少し上昇しており、そして事業報告書には「常勤教職員は前年度比で714人(12%)増加しており」という注記があるので、これは実際に増えたものと考えられます。また、2008年はiPS細胞研究所が設立された年でもあります。
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法人化後の運営費交付金の削減に苦しむ大学からすると、500人も一気に常勤教員数が増える大学があるなんて想像もできず、うらやましい限りなのですが、このような恵まれた大学を含めたデータでもって、「国立大学の教員数は減っていない」と言われても、他の大半の大学の研究現場の先生方の困窮した感覚とは合わないことになります。
また、大学全体の教員数から、附属病院の教員数を差し引く場合に、附属病院に帰属している教員をどのように計算したのか、ということにも注意する必要があります。臨床医学では、医学部(医学研究科)に帰属している教員と、附属病院に帰属している教員がいるのですが、通常は、どちらも、教育、研究、診療を同じようにやっています。法人化後、医学部の帰属にするのか附属病院の帰属にするのかは、各大学の判断が尊重されるようになり、以前よりも流動化したように思います。当初、診療部であった組織を講座化して、病院の帰属であった先生が、医学部(医学研究科)所属に移れば、医学部(医学研究科)と附属病院のトータルの教員数が変わらなくても、見かけ上医学部(医学研究科)の教員が増えるということが起こりえます。
このように、“文部科学省調べ”の国立大学の教員数のカウントをとってみても、いろいろと難しい面をもっていることがお分かりいただけたのではないでしょうか?

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