研究関係のデータの読み方について(河野太郎議員への公開討論記事4)

研究関係のデータの読み方について(河野太郎議員への公開討論記事4)

(4)医学部(附属病院)を有する大学と有しない大学の差について

法人化後の常勤教員数の推移については、医学部(附属病院)を有する大学と有しない大学とで、大きな違いを生じています。70の国立大学について医学部を有する大規模大学(n=14)、医学部を有する中規模大学(n=28)、医学部を有しない理系大学(n=14)、医学部を有しない総合大学(n=8)、医学を有しない文系大学(n=6)に分けて、常勤教員数の国立大学が法人化された2004年を基点とする推移を調べると下の図のようになります。
医学部を有する大規模大学(旧帝大を含む)では、常勤教員数は最初からやや増えており、2008年頃から増え方が急になっています。医学部を有する中規模大学(主に地方の医学部を有する大学)では、いったん減少したものの、2008年頃から回復し増えています。医学部を有しない大学群は、いずれも着実に減少しています。
14
そして、論文数の2004年を基点とする推移では、医学部を有する大規模大学では、最初からやや増えて、2010年ころから急増しています。医学部を有する中規模大学は、最初は停滞をしていましたが、2020年頃から急増しました。医学部を有しない大学群ではいずれも、減少しています。常勤教員数の推移とほぼパラレルに論文数が動いていることがわかります。
15
下の図に国立大学(n=70)の論文数の推移を示しました。国際共著論文が増加しているので、その国際共著論文数の1/2の値を差し引いて補正をしています。この方が、より研究者の負担を反映すると考えられます。
最も論文数の多い理工系(物理、化学、物質科学、エンジニアリング)や基礎生命系(分子生物学、生物学、免疫学、微生物学、神経科学、薬学)は減少していますが、臨床医学は増加しています。農・環境系(農学、動植物学、環境学)はやや増加したものの低下に転じ、数理系(数学、地球科学、宇宙科学)や社会・心理系(経済・経営学、社会科学、精神・心理学)はやや増えていますが、そもそもの論文数が少ない分野です。
16
医学部(附属病院)を有する大学における常勤教員数の増および論文数の増については要因が2つあると考えられます。
1つは、附属病院の経営改善努力により収益が増え、それに伴い医師数が増えたことです。経営改善に伴う診療活動の負担が大きくなるので、医師数が2倍に増えても、論文数が2倍になるわけではありませんが、ある程度の論文数の増が期待できます。
もう一つは寄付講座の増の効果です。法人化後多くの大学で寄付講座が増えていますが、もっとも多いのは医学部(医学系研究科)の臨床系の寄付講座です。
法人化後国立大学に起こったメインの出来事は、基盤的運営費交付金の削減により、医学部を有さない大学や医学部以外の学部の多くでは、常勤教員数を徐々に削減せざるをえず、教育等の負担が減らずに(教育負担を減らそうと思えば、かなりの学生数を減らす必要があります)、そして、寄付講座等も増やせずに常勤教員減少をカバーすることができず、論文数が減少したと考えます。一方、医学部を有する大学においては、附属病院の経営改善努力により(附属病院運営費交付金が急速に削減される中での経営改善は血のにじむような努力であったと思います)、医師数が増え、また、寄付講座を増やすことができて常勤教員の減少をカバーすることができ、臨床医学論文数が増えたと考えます。
今後、引き続き基盤的な運営費交付金の削減が継続された場合、各大学は計画的な常勤教員の削減を引き続きせざるを得ず、医学部を有さない大学や医学部以外の学部では、引き続き論文数が減少し、医学部を有する大学においても、附属病院の収益増や医師数増が頭打ちになり、あるいは寄付講座増が頭打ちになれば、論文数が減少に転じる可能性があります。そして、現在よりもいっそうの国際競争力の低下を招くことが想定されます。

おわりに

「国立大学では教員数は減っていない」という一面的なデータでもって政策判断がなされることは本質を見誤る危険性があり、引き続き現場の先生方の感覚との整合性にも配慮しつつ、日本の研究国際競争力を高めて、その結果成長力を高めるような政策をお願いしたいと思います。
法人化後の国立大学政策は、全体の研究資金を削減する中で基盤的資金から競争的資金へ移行させ、「選択と集中」政策をとることで研究の活性化を図ろうとしてきましたが、「選択と集中」政策は、研究生産性の面、および研究シーズの多様性の面からは、むしろマイナスに働いたと考えます。
資源の乏しい日本が成長するためには、人口当りの質の高いイノベーション数で相手国を上回る必要があり、世界各国が研究投資を増やして研究力を高めている現状では、日本の大学の研究力を維持することでは不十分です。公的研究資金を出費と考えるのではなく「投資」と考え、アベノミクスの当初の第3の矢としてGDPを高めて、税収増でもって回収するという考えからの科学技術政策や大学政策が必要なのではないでしょうか。
[kanren postid=”5630,5635,5640,5726″]
Designed by Freepik

Related post

チベットの研究を通して見えてきたもの

チベットの研究を通して見えてきたもの

自分自身のしたいことを貫いて進んできた井内先生だからこそ見える世界、今後、チベットの研究をより多くの方に知っていただく活動にもたくさん力を入れていくそうです。これまで歴史の研究について、そして、チベットのことあまり知らないという人にもぜひとも見ていただきたい内容です。
チベット史の空白を明らかにしたい 日本のチベット研究者

チベット史の空白を明らかにしたい 日本のチベット研究者

0世紀から13世紀頃までのチベットでは、サンスクリット語からチベット語に膨大な数の経典が翻訳され、様々なチベット独自の宗派が成立したことから「チベットのルネッサンス」と呼ばれますが、この時代について書かれている同時代史料がほとんどありません。この「チベット史の空白」を明らかにしようと、日々研究されている京都大学白眉センター特定准教授の井内真帆先生にお話を伺っていきます。
自由な環境を追い求め『閃』が切り開いた研究人生

自由な環境を追い求め『閃』が切り開いた研究人生

後編では、黒田先生がどうして研究者になったのか?どのような思いを持ち、日々研究されているのか?などの研究への愛について語ってもらっています。自由な研究環境を追い求め、自由な発想をされる黒田先生だからこそ、生まれる発見がそこにはありました。

Leave a Reply

Your email address will not be published. Required fields are marked *