「研究とはそもそも個人がやるものです」

中部大学理事長・飯吉厚夫氏インタビュー(1)

「研究とはそもそも個人がやるものです」
今回のScience Talks-ニッポンの研究力を考えるシンポジウム、第1回大会「未来のために今研究費をどう使うか」、登壇者インタビューで宮川氏と豊田氏に続くのは、中部大学 理事長兼総長 飯吉 厚夫氏です。
飯吉理事長は工学博士として核融合プラズマの研究に携わり、核融合科学研究所初代所長を務められ、現在は中部大学で私大経営に携わられています。
国家の存続の根幹にかかわるエネルギー研究というビッグプロジェクトをマネージメントされた経験と、私立大学経営のご経験から、国の科学技術力を上げイノベーションを生み出すための柔軟な研究費予算のあり方について独自の視点をお持ちです。シンポジウムに向けて、中部大学応接室にてご意見を伺ってきました。


【湯浅】
 まず私立大学の経営をされている立場から、国家から国立大学経営のために給付される「運営費交付金」が年々減っているという問題について先生のご意見を伺いたいです。今回のシンポジウムでご登壇いただく元三重大学学長、豊田先生が、ご自身が三重大学の経営をされているときに、この「運営費交付金」の削減に非常に苦労されたとお話されていました。

特に国立大学は私立大学と違って運営費交付金にかなり依存しなくてはならない体質ですが、その中で1%削減されるだけでも、1%と聞くとそんなに大きく感じないですけど、それがもう10年継続しているとかなり経営が大変だと。

【飯吉】 どんどん削減されますからね。

【湯浅】 はい、それが大変だったそうです。特に地方大学の国からの支援は確実に減らされていき、代わりに補てんされる予算がないと。しかし、いわゆる中央の東大や京大では、例えば研究強化プログラムなどに予算申請して採択されることもありますし、ビッグ・プロジェクトもふたを開けてみると、そういう有名大学ばっかりがやっている。

やはり東大・京大クラスになると運営費交付金がなくてもそういった別の形で予算が確保できるのですが、地方大学はそうはいかない。科研費も地方大学の研究者がなかなか採用されにくい状況があります。ビッグ・プロジェクトについても地方が取るのはほとんど…。

【飯吉】 ほとんど不可能ですよね。

【湯浅】 そういう状況なので、豊田先生ご自身は本当に国は一部の国立大学以外はみんな切捨てしようとしているんじゃないかとも受け止められるとおっしゃっていました。その辺はいかがでしょうか。

【飯吉】 やはりそうとられてもしようがないでしょうね。ただし、研究力強化プログラムの研究費というのは機関につくと思うんですよ、東京大学、京都大学っていうね。だけれど、研究というのはそもそも個人がやるものなのですよ。

【湯浅】 そうですよね。

【飯吉】 だから、こういうお金の出し方をすると個人単位のいい研究がすっぽり抜けちゃう可能性があります。要するに東京大学、京都大学という選ばれた大学の中にいい研究成果を上げている個人がすべて集まっているとは限らないでしょう。

【湯浅】 はい。

【飯吉】 中部大学にも1人や2人は成果を上げている個人の研究者がいますよ(笑)だから、研究費というのは東大、京大、といった機関単位でつけたら成果が上がるというものじゃないのですよ。

【湯浅】 そうですよね。

【飯吉】 誰につけるかによって、本当の研究成果っていうのは出てくるのです。しかもクリエイティブな、今までに世界でなかったようなものというのは、機関単位で研究をやって出てくるものじゃないんですよ。クリエイティブなアイデアの持ち主というのは、東大に集中しているとは考えられないでしょう。

今のような偏差値教育をやっていたら、天才なんて落ちこぼれてしまいます。でも、本当の新しい研究というのは実はそういう人から生まれる。アインシュタインだって、みんなそうでしょう。学校の成績がよかったというのはあまり大したことではないんですよ。(笑)

【湯浅】 うーん、なるほど。

【飯吉】 国際的な大学ランキングというのはそういう本質とは別の指標で決まっているんですよ。論文数がいくつだとか何とかで決めるんでしょう。人を見て、決めているわけじゃないですから。数値のトータルで見ると東京大学は三十何番、とかね。しかも国際的に評価される論文はみんな英語の論文でしょう。だから、日本人の研究者にはハンディキャップがありますよね。そういうハンディキャップをちゃんと考えた上の評価ならいいんですけどね。

【湯浅】 たしかに。

【飯吉】 それから大学の評価と個人の評価、どっちが大事ですかと言ったら、両方大事でしょう? それなのに大学の評価ばかりしているのは片手落ちじゃないですか、ということは言えると思います。それは僕の考え方です。

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