今の学術出版業界は戦国時代である。
90年代に端を発したインターネットの普及は伝統的な学術出版の枠組みを揺るがしオープンサイエンスの可能性を広げたが、同時に出版社とアカデミアの間に多くの軋轢を生み出した。
その状況に日本の大学として初めて切り込んだのが筑波大学である。彼らがF1000Researchと共同で2021年2月にリリースしたオープンリサーチ出版ゲートウェイは、商業出版社とジャーナルの存在意義を問い、大学が独自に出版の代案を提案する新しい試みだ。
特に注目すべきは、欧米の新しい出版プラットフォームを活用しながら、非英語圏の研究機関に共通する課題である人文社会学系研究の多言語出版の問題に切り込んだことである。学術におけるサイエンス偏重、英語偏重の時代に、日本語出版が必須の研究をどうしたら同じ土俵に載せて公平に評価することができるのか?学術出版をコントロールする手綱を、どうしたら研究者の手に取り戻せるのか?筑波大学の人文社会学系の研究者とURAが中心となり、このニッチな問題に一つの解決策を見出そうとしている。