日本版のAAASのようなネットワーク作りを 駒井章治先生インタビュー
日本学術会議 若手アカデミー委員会委員長 駒井章治先生インタビュー
- インタビュー勝手に『第5期科学技術基本計画』日本版AAASを作ろう日本語記事
- October 20, 2014
10月25日開催の【サイエンストークス・オープンフォーラム2014 日本の研究をもっと元気に、面白く ~みんなで作る、「第5期科学技術基本計画」への提言~】で、「若手が活躍できる環境づくり―Empowerment of Young Generation」のテーマリーダーを担当される駒井章治先生(奈良先端科学技術大学院大学バイオサイエンス研究科准教授)にお話をお伺いしました。駒井先生は日本学術会議の若手アカデミーの委員長を務めてらっしゃいます。
湯浅 駒井先生は、日本学術会議の若手アカデミーの委員長をやられておりますが、若手アカデミーではどんな活動をされているんでしょうか?
駒井 若手アカデミー委員会は日本学術会議内の一委員会として組織されています。私達の目的は、若手のエンパワーメントです。研究者キャリアのなかでも一番活力があって、頭も動くだろう時期にいい状態で研究活動ができるようになったらいいな、という思いで様々なk集うをしているのが1つです。
委員会ははじめはコアメンバー4人だけで始めた活動だったのですが、その時からずっと話しているのは、この組織が日本版のAAAS(トリプルエーエス)みたいな組織にできたらいいなということです。なにかアイデアを投げたら誰かが返してくるフィールドというか、ネットワークというかハブになるような活動できたらいいなと思っています。
今は学協会にも若手の会があるところとないところがあると思いますが、学協会若手の会に働きかけて、若手の研究者のネットワークというのを作ろうとしています。この活動は一昨年の11月、12月くらいから始まっていますが、何回かシンポジウム等も開催するなど、少しずつ動き始めてました。
湯浅 そうなんですね。
駒井 今、80数団体、80数学協会の若手の会の代表の方たちに声かけさせていただいていますが、かなり集まって頂いてます。シンポジウムとの抱き合わせで複数の学協会若手の会が集まった学術交流みたいななことををやりましたが、情報をシェアすることができて、すごく面白かったですね。
こういったことを広げていければいいなというのは僕自身の中では一番大きなところです。それを展開する上で、やはりその組織を固めていかなければいけないので、今のところは組織を固めるための法整備であるとか、内閣府の方々やシニアレベルの先生方と調整して作りこんでいます。
一応、法律的にはもう改正ということになったので、今月10月からは若手アカデミーになります。「委員会」がとれまして、若手アカデミーという形で本当に若手だけのメンバーで活動することになりました。
湯浅 まさに若手だけを集めたコミュニティーですね。
駒井 何でも屋だと思ってもらったらいいと思います。若手の活力を上げるためにできることは何でもやりたいなと。早期教育の方にも力を入れたいですね。いわゆる科学教室みたいなのではなくて。
科学教室は科学のおもしろさに興味持たせる意味ではいいと思うのですが、もっと学術のベースにある興味であるとか、議論する中で生まれてくることが面白いと思ってもらうようなことを体験してもらいたい。
科学教室でノーベル賞受賞者に触れるなんてのも大事なのですが、電車に乗ってても、そこらへんに研究者というのはいて、普通に話せるということをわかってもらうというか、身近に感じてもらえたらよいなと思います。
若手研究者と高校生、大学生が話をする機会を作るとか。たとえば2050年にどういう科学技術があったらいいな、みたいな話を語り合う中で、今は科学ではここまでわかっていて、今後はこうなり得るよねみたいな話をしていくことで、自分の意見が具体化していって、アイデアがどんどん形になっていくというのを楽しんでもらうようなイベントをやっていますね。
湯浅 面白そうですね。その中で、駒井先生ご自身が関心を持たれている活動はは何でしょうか?
駒井 教育ですね。「興味」というものそのものに興味がありまして。興味というのに興味があるというのもややこしいはなしですが、今、研究者の無関心というのが、すごく問題なんじゃないかなと思っているんです。
研究者の多くは自分の研究するフィールドには興味がありますが、そのちょっと横のフィールドであるとか、他の分野に興味を持っていない。研究者だけではなく国民全体にいえることなのかもしれないですけど。
自分なりに考えて、自分なりに興味を持って、新しいことにチャレンジしていくという姿勢が欠落しているというか、足りないのではないかなと思っています。
特に研究者は人一倍いろいろなところに興味を持って、いろいろアンテナを張ってやらないと、イノベーティブなことであるとか、コラボレーションであるとかというのは難しいと思いますよね。それができないことに問題があると思っています。
自分以外の人がやっている分野も面白いと思える仕組みというか文化作りに関与できたら面白いと思ってます。それにできるだけ近づけられるような何かができたらいいですね。
湯浅 無関心な人たちをいかに引きこむかはとてもチャレンジだなという気はしています。
駒井 難しいところですよね。やはり一番根っこにあるのは自分達が楽しまないと多分ダメだと思っていて、自分たちが楽しくやってないのに是非来て下さいと言っても来るわけがないですし。そもそも活動自体に興味を持って、自分たちで楽しそうにやる。だから、ロールモデルというか見せないとダメだと思いますね。とにかく自分たちが楽しむことかなと。
楽しむことができるような、本当に大事だなと思うことをなんというか、自分で決めてそれに邁進できるような雰囲気作りみたいなのも大事かなと思います。
「研究者なのだから余計なことやってないで研究しないとダメでしょ」、みたいなことを言う人がいるじゃないですか。それはそうなのですが、、研究者の中にもいろいろな興味を持っている人はいて、自分のフィールドにしか興味ない人もいれば、自分の狭いフィールドの中で活動するのかすごくちっぽけに思えてもっともっとやるべきことあるのではないかと思って、全体をブーストアップできるような雰囲気作りみたいなのに興味を持ってる人もいるわけです。
それが評価されないのはおかしいと思いますし。URAの人が最近たくさん雇用されていると思いますが、彼らもそういう興味を持ってそっちに移られてきて要る方たちなので、やっぱりそこは階層があってはいけないと思います。研究者崩れ的なイメージを持って、対応するのはやはり良くないと思いますし。そのへんの雰囲気作りをしっかりとできたらいいなと思ってます
湯浅 今本当に研究者も多様化していますが、「研究者がが偉い」というイメージがまだ日本には根付いています。キャリアパスとして、こういったものもあるよという部分がまだ全体的に浸透できていないのかと思います。
確かに意識改革はかなり必要なのかなと私たちも感じてはいます。駒井先生ご自身が、研究者として、「ここの部分がちょっと変わったらいいのにな」とか変えたいと思っていることはありますか?
駒井 話は戻りますが、興味をもって楽しくやれるような感じがいいですよね。「大変なんだよね」とかいうようなことが当然になっていて、それを研究者同士でいうのはいいのかもしれないのですが、学生にいってしまうのはやはり良くないと思います。
野球でもベースボールではなくて野球なのですよ。野球ならまだしも、野球道だったりするわけですよね。それは武道になってしまっていて、根性などが重んじられています。そういったことが大事なのはわかるのですが、その前に楽しくないと進まないです。時代性もあるのかもしれないですけど。楽しいことが大事だと思いますね。
ですので、研究内容そのものよりも、学生さんがうまくまわるような雰囲気作りみたいなものの意識がけっこう強かったりします。もっとスムーズにできるようになれば、自分の研究にもう少し集中できるかなというのがありますね。
湯浅 なるほど。駒井先生が学生さんに楽しんでもらうためにいろいろ工夫されているところがあると思いますが、、具体的どんなことをやられていらっしゃいますか?
駒井 そうですね。「コラボオフィス」というのがあると思いますが、そういったところのメンバーにもなっております。できるだけいろいろな人と交流を持ったら面白いかなと思ってるのが1つです。いろいろな物を生み出そうとしている場作りみたいなのを学ぶという意味でも入ってたほうがいいかなと思っています。
ラボの配置にしても、壁に向いて座らないようにしています。狭いなりにも、みんなが向かい合って座るようにしたり。なおかつ一番奥にこういう小さなテーブルを置いて、リラックスできるスペースを作って、誰かが話してても自然と耳に入ってくるっていうような感じにしようと思っています。
湯浅 そうなんですね。
駒井 先日、会ってきたのですが、東京芸大の学生さんと先生を1週間ほどお招きして交流をおこないました。僕はアートとサイエンスは基本的にはソースは同じだと思っています。しつこいですけど、キュリオシティー(好奇心)だと思っています。
一方はキュリオシティーの赴くままに、一方はキュリオシティーにドライブされますが、理屈がついてきて、人には理解されない傾向にあるので、ここで一回融合してもいいかなと思っています。
時代をさかのぼると、たとえばアリストテレスであるとか、ダビンチであるとか、彼らはサイエンティストでもあり、アーティストだったわけです。
そういう人は歴史的にはけっこうたくさんいるわけですよね。本来、そういう風にあるべきなのではないかと思っています。だから表現方法が僕らは文字であり、ロジックであるだけではありますが、彼らは文字ではなくて絵であります。いろいろな表現方法として、僕らはとても小さいところしか表現できないけれども、彼らは包含している可能性というのがあって、様々な見方や表現方法をするポテンシャルを持っていると思っています。
たとえば、僕は脳の研究をしてますが、てんかんの患者さんの脳はビジュアライズすると、倒れる直前に兆候が出てくるのが見えてきます。そういったときに診断に使えるようなアーティストと絡むことで可能性が広げられるかもしれません。そういったコラボは実用につながる部分もあります。たとえば、パブリックに「この研究はこんなに面白いんです」と表現する事自体も、アーティストとコラボレーションすることで様々な表現の仕方があったりします。
例えばオーストリアのリンツというところにある「セレクトロニカ」というところがありますが、研究所と科学館が合わさったような組織があります。たまたま見学に行ったら、フェスティバルをやってて、街中がメディア・アート的なサイエンスとテクノロジーアートのようになっていました
たとえば、4つ羽が付いているヘリコプターにLEDつけて、20機、40機くらいの編隊を組ませて、コンピューターでプログラムして全部飛ばします。回転させたり、文字にしてみたり、花火のかわりみたいにするアートがありました。飛ばすためのテクノロジーを使いつつ、アーティスティックに表現して、パブリックにも楽しませる。それは研究者のモチベーションにもなります。アーティストや一般の人たちが研究やテクノロジーを見るモチベーションにもなると思いますし、溶け込むやり方の1つですね。
湯浅 なるほど。
駒井 テクノロジーに関係しなところやするところも関係なく、街中がそういうことをやっています。色々な形でアートとサイエンスとパブリックとのコラボレーションみたいなものを積極的にやっている組織がありますが、やはり面白いなと思いますね。いろいろなモノが生まれてくるという場作るのは面白いと思います。
湯浅 たしかに、それは面白いですよね。
駒井 日本でできるかどうかわからないのですが、こういったことができたらいいかなというイメージはあります。たとえば、アメリカだとMITのメディアラボ。これまでいろいろな評価軸が過去ベースの評価でしたよね。ここまでやってきたからお金をつけようと。
もっと未来志向の過去をベースにするにしても、この過去があるからここまでいくだろうという評価でないと、今後は意味はないというか、面白くないのではないかなと思っています。未来的な思考ができるようなベースを作っていきたいですね。
湯浅 そうですね。未来型思考は大切ですよね。宮川先生も主張されていますが、やはり過去の実績をもとに評価、それにプラスしてその人がこの先どういう研究がしっかりとできるのかというところまでみたファンディングの仕組みというのが欲しいというお話をされています。
それをどういう風にやるのかというところを研究者の皆さんに知恵を出して頂いて考えていきましょうという活動をおこなっています。
駒井 一朝一夕にはおそらくいかなくて、やはり目利きができないとダメです。目利きをしようと思うとそれこそ自分がどんなところに興味があるのかとか、いろいろ考えてないと目利きできないんですよね。なので、今急に、「じゃあやって下さい」といってもできないと思います。
それができるように、少しづつでいいので、変われるような体制というのを一寸ずつでもいいから組み込んでいけるようななにがしかの、もっとベーシックな部分を何とかしないといけないと思っています。
具体的にどうしたらいいのかはわからないので、手探りをしながらやっています。1つのモデルとしては、アルスやメディアラボなど。アートは基本的に意味合い的には人がやったことは全部アートになるのかなと思います。
マーシャルアーツもアートですし。アートって結局サイエンスも多分アートだと思っています。いろんな意味でアーティスティックである必要があるのかなと思います。
湯浅 なるほど。そうですね。難しいですね。
駒井先生にはサイエンストークスの委員としてご参加いただいております。前回のイベントや今回おこなう活動に関して、私たちのような研究者ではない立場の人間がそういうことをやろうとしていることに関してはどのようにお考えでしょうか?
駒井 すごく良い活動だと思っています。当初、学術会議、若手アカデミーを立ち上げる時に、国の機関としてやるのはどうかなと思いました。他にもいろいろ活動されてらっしゃる人がいますし。いろいろなところでやっておられて、機能性はもちろんそちらのほうが高いと思います。
いちいち制約があったりですとか、何かを発信するにしても、シニアのご意見を伺わないといけない。もちろんそれは大事なことではありますが、いろいろな意味でお金の制約もあるので。動きづらい部分というのはたしかにありますね。
若手アカデミーのメリットとしては国の機関であるということもあるので後発でもなにがしかの信頼を持ってもらえるというのが1つあります。
湯浅 なるほど。
駒井 だから、当初はもしかしたらうまくまわらないのかなと思っていました。僕ら若手アカデミーを反面教師的にして頂いて、第三者の草の根的なものがポコっと出てきて、集まって大きくなっていくのが、将来像なのかなとなんとなく思いました。
僕らも今のところ失敗はしていませんが、そんなにたくさん活動できてるとはやはりいえないので、10月から変わって、組織としてして動くようになったときに今後若手アカデミーが、どういう活動をやっていくのかによると思います。
僕らが上手くいったとしても、上手にコラボして、その機関としてやれることと、民間としてやれることなどいろいろマッチさせて、相互に相乗効果が出てくるようないいパートナーであったらいいのではないかと思っています。そのためには僕らとしてできることはきっちりとやりたいなと思いますし、そのために一歩ずつ組織づくりはしてはいますね。
湯浅 サイエンストークスのサイトでは、研究者のみなさんからいろいろなアイデアを募集しております。やはり国に対して、研究者は本当はこういう風に思っているんですよというのを伝えるためには、これだけのアイデアがでて、これだけの人がこれを指示していますという部分までやっていかないと成功とは言えないのかなという気がしています。
現状はまだこれからプロモーションをかけていくところだと思います。こういった活動に対して関心度が低いという方を引き寄せるための施策という部分に関しては何かいいアイデアがないかなとは思っています。駒井先生のご意見も是非お聞きしたいです。
駒井 やはりこの前のシンポジウムで最後に少しだけやった学術交流のようなものと抱合せでシンポジウムをおこなうのもいいのかもしれないなと思います。なので、それこそAAAS的な感じかなと思っています。だから、自分のフィールド以外に興味を持てない人は、そういう集まりにも集まらないので。
なにがしかの成功体験であるとかロールモデルを提示していかなければいけないと思っています。集まる中で何かが生まれてきたというのを逐一報告していくという形でないと、やはり興味を持たないのかなという気はしますけどね。
湯浅 情報を少しずつでも、常に公開していき、みんながそういったことかと理解してもらえるような、仕組み作りを今されるということですよね。
駒井 そうですね。あと、ハーバードや札幌などの大きな大学で「あの大学はなぜに強いか?」と考えたときに、卒業生のネットワークが強いからだと思ったんですね。要するに逆にいえば、ネットワークさえあれば、けっこう強いのではないかと思います。
ですが、別に大学縛りである必要はないわけで、いろいろなネットワークを集約できたらそれだけですごく強くなるのかなと思います。そういったネットワークは面白いですしね。
アカデミー活動というのは、そういうもの大学ではなく、いろいろな交流ができる場になり得ると思います。いろいろな人と交流する中で何かが生まれてくるのが面白いと思っています。
たとえばこういうのを作りたいなと思っている時に、どこかにポンと投げると、いろいろな部署があって、「それならこういうのができるよ」、「こんなのができるよ」というのが一斉に集まってきて、新しいものができたりするわけですよね。そういうプラットフォームはできるといいなと思っています。それが本当にまわってるよということさえ示すことができれば、おそらくいろいろな人が興味を持つと思います。
一方で、そういった事例が本当にそのネットワークから出てきたのかどうかというのを特定するのはなかなか難しいと思います。なかなか言いづらいんだと思いますが。でも、なにがしかのエビデンスを提示しないと、集まらないのかと思いますね。
湯浅 そうですね。そこは賛成ですね。100あるアイデアでも、採択ゼロだと全く相手にされなくて、1でもとにかく出て、それでも採択される。やはり、みなさんしっかりと動いたら成果がでるんだという部分は、やはり見せていかないといけないと思っています。
突然お願いしますっていっても、なかなか動きませんので。。やはり、イノベーションはある日ぱっと起こるものではなくて、積み重ねが起きて起こると思いますので、そこは私たちも今一歩一歩着実にやっていこうかなというふうには思っています。
駒井 そうですね。だから、イノベーションうんぬんというのも、なんでしょう。突然、僕と誰かで何かやりましょうといってできるわけではないですよね。フィールド近いからあなたとあなたやってねといってやれるものでもないし。
そこからのアウトプットはわりと長くて、やはりなにがしかの人と人との関係ではないのかなと思いますの。「そういうことに何の意味があるのか?」と言われると、答えられないのが問題なのだと思います。
それをきっちり作った上で、そこからこれが出てきて、あれが出てきてっていうのを1つ1つリスト化して、それを証拠として形を作っていき、人をより集めていくという感じになると思います。
湯浅 サイエンストークスでも変えたいんだ、こうしたいんだという、強烈な思いを持っている方に、手を挙げていただいて、一緒に変えていけるような仕組みを一歩一歩積み重ねていきたいなというふうに思ってます。
本日はありがとうございました。駒井先生には10月25日にはパネリストとしてご参加いただきますので、引き続きよろしくお願い致します!