「基盤的な研究費、“研究ベーシックインカム”を導入する必要性 」
熊本大学学長・谷口功氏インタビュー(5)
- 日本語記事インタビュー日本の研究ファンディングを考える
- September 19, 2013
【湯浅】 熊本大学でも大部分の研究者の方が、資金が足りなくて満足に研究できる環境にはないということですね。豊田先生も、地方には研究したいのにできない研究室がたくさんあると話されていましたが、これは地方大学に共通する全国的な問題のようですね。
【谷口】 大学内でも大学間でも同じで、特定の人や大学に資金が集中することが進みすぎれば、研究実働人口が減少することになり、全体として研究成果の輩出に限界が出てきます。我が国では大学間の研究費の偏りが大きく、10大学程度以外は、極めて条件が悪く、研究ができない環境にあるようにも見えます。熊本大学はまだ良い方かと思いますが、熊本大学よりも小さな大学では、もっと研究環境が悪いと言えます。適正な基盤的な研究費の配分が必要です。
【湯浅】 基盤的な研究費の配分、というと、科研費のような競争的資金とはまた別枠の、研究者に一定に配分される、「最低限これだけあれば研究が続けられる額の研究費」、ということですよね。いわば「研究ベーシックインカム」みたいなものでしょうか。
【谷口】 ええ。もちろん、「基礎研究」と称する、目的意識のはっきりしない身勝手な研究も無いわけではありませんが、これまでの概念や常識を変えるような基礎研究は必要ですし、そのための広い裾野も必要です。勿論、「応用研究」と言われる現実の課題を解決するための研究は、突き詰めれば新しい科学を生み出す良い機会になることにも留意することが重要です。
【湯浅】 確かに、熊本の例で言えば1000人のうち、言ってみれば750人の方が研究費に困っている状況ですから、その方たちを救えば「研究実働人口」は圧倒的に増えますね。研究実績も単純に3倍、4倍に増えるものかはわかりませんが、どうなんでしょうか。
【谷口】 実は、研究を評価するにあたって、一人当たりの研究成果のパフォーマンス、例えば、然るべきレベルの質の高い研究論文一報を創りだすのにかけた経費は、中核大学の方が、大きな大学よりも優れているとは言わないまでも、結構良くやっていることも多いです。
つまり研究機関の評価に当たっては、一人当たりの研究費の獲得額や論文等の成果当たりに使われた研究費などで比べるなどの工夫も是非必要です。研究機関のネームバリューや組織の規模の大きさで安心して、研究の内容までを優れたとするような評価から脱皮して、しっかりと評価することができる人材の育成が必要です。