「大学に期待すること」
内閣官房健康・医療戦略室 次長・菱山豊氏インタビュー(5)
- 日本語記事インタビュー日本の研究ファンディングを考える
- October 11, 2013
【湯浅】 現実的に、世の中には何年も研究費がまったく取れないという大学教授もいらっしゃるわけですよね。すると研究そのものにも研究費獲得にもモチベーションが下がってしまい、教育活動だけしていてもお給料がもらえるからいいやと、結果として研究をぜんぜんやっていない研究者が増えていくという悪循環にならないでしょうか。
【菱山】 私が直接お会いする研究者はアクティブな方ばかりですが、そうした方たちでも研究費については苦労されています。ただ、給料がもらえるからいいや、という方にはお会いしたことはありません。もし、研究能力が高いのに研究をやっていない大学の先生がいるとしたら、それはもったいないです。
ただ、その悪循環というのは仮定の話であって、事実ですか? 全ての大学がいわゆる研究大学である必要はなく、教育は極めて大事な役割です。そこはきちんと大学単位で努力して変えていっていただきたいですね。
【湯浅】 なるほど。
【菱山】 たとえば極端な話、大学には、研究をまったくやる気のない研究者の評価を下げて、給料を下げたり降格人事を行ったりする権限があるのです。逆に研究力の高い研究者を適切に評価して給料に反映することだってできることになっています。
そういう人事に関する改革は難しいので、手をつけるとこはあまり見かけませんが研究者のモチベーションを上げるために国が考えろというよりは大学が独自に考えて解決できることが多いのではないでしょうか。もちろん、政府としてもやるべきことには対処する必要があります。今年度から始めた「研究大学強化促進事業」はその一つです。
【湯浅】 研究者や大学が、国に過度に期待している面もあるということですね。大学や研究者の単位で、今の環境をよくしていくことも可能だと。ただ、多くの人は「上から決められたことだから仕方なく従っている」と感じていて、自分の声が政策側に届くと思っていないのかもしれません。今回のScience Talksシンポジウムではそれも踏まえて、現場の研究者と政策関係者が直接議論する場を作ることが目的でもあります。
現実問題として、限られた研究予算を有効活用する上で、文科省の中の人から見てほかに研究者や大学に期待することはありますか?
【菱山】 大学というのはすごく多様で可能性があるので、工夫次第でいろいろなことができると思います。すべての大学がひとつの方向に向かう必要はなく、大学によっていろいろなアプローチが可能だと思います。研究は産業や経済成長の助けになります。
でも研究の目的はそれだけではありません。日本は先進国としてすでに成長を遂げた国ですので、高度経済成長期とは違って今は人間の人生の豊かさをどう実現していくかも重要な課題だと私は思っています。
【湯浅】 豊かさ。
【菱山】 たとえば、医療研究が進むことによって病気に苦しむ人がいなくなるとか、健康な人が増えますというのは、経済的な価値にも換算できますが、それがゴールではない。我々の人生が豊かになる、というソフトな価値の追求があってもいいんじゃないかと。
産業人、経済人はそういう価値にあまり言及しないですが、経済発展だけが国の目的じゃないんですよ。大学や研究者には、お金には換算できない国の価値を担っているという部分も含めて、期待します。