「タブーを恐れない、ゼロベースの議論をしたい」

鈴鹿医療科学大学学長・豊田長康氏インタビュー(8)(完)

「タブーを恐れない、ゼロベースの議論をしたい」
豊田長康氏インタビューシリーズ8回目!
インタビュー最終回では、既存の体制に変革をもたらす難しさを検討すると共に、日本の未来のために如何に研究力を高めるためのシステムをゼロベースで再構築するべきか、について相談します。(※以下、敬称略)


【湯浅】
 先生のお話を聞いていると、国家の研究費の割り振りや大学のあり方を大きく変えることで日本の研究力が上がる、という将来の可能性がいろいろ見えてきます。けれど、そういったご意見を過激な意見として抵抗を持つ方がもしかしていらっしゃる可能性はあるのかもしれません。

【豊田】 抵抗を感じさせない議論をしているのでは、こういったシンポジウムをやる必要は全くないと思います。僕の話は、国の中央の政策決定者も、また、現場の大学の先生方も、両方に抵抗を感じさせる可能性があると思います。

【湯浅】 研究費の総額を上げる、国立大学の授業料を上げる、地方大学を統合する…、といったご意見はお聞きしてとてもシンプルで納得する部分がたくさんあります。、ほかの誰も声高に言っていないですよね。

【豊田】 みんなタブーにしているからね。財務省からさらなる予算削減の口実にされることを恐れている。でも、僕は、そのようなリスクを承知の上で、ゼロベースで議論するべきだと思いますよ。

【湯浅】 授業料を上げる、大学を統合、吸収ではなくて、協業、共存していくという提案を、おそらく大日本国内の地方大学の学長レベルの方々が本気でやっていく未来があるのでしょうか。財政難でやっていけない市町村はもうすでに何年も前からその対策をとっていますよね。3つの市が1つになったり。シンポジウムではぜひさまざまなアイディアを語っていただきたいです。

【豊田】 現実的には国立大学自ら授業を上げる提案や統合の提案はしないと思います。残念ながらね。かなりの外圧や政府主導がないと無理だと思います。

僕は、今は、国立大学から私立大学に移ったのですが、私立大学にいる人たちは、以前から、どうして国立大学は授業料を上げないのだと盛んに言っていますね。

【湯浅】 ないお金であれば作り出せという考えがあって。

【豊田】 そうそう、ないお金だったら作り出せと。

【湯浅】 くれないから自分たちでお金を増やさせてくれというのは、いわばまっとうな主張ですね。

【豊田】 そう。

【湯浅】 元々昔は国立が安かったのは、日本がまだ貧しくて、優秀な学生があまりお金がない上に私大にいけないので、優秀だけれどお金がないという人向けに国立を作ったというのが始まりですよね。

【豊田】 そうですね。

【湯浅】 それが元々の意図ですが、でも今は実際に本当にそういう学生さんがどれぐらいいるのかというのが、結構一時期話題になって。たしか東大の学生の親が一番収入が高いと聞きました。

【豊田】 そうそう。東大の学生の親が一番収入高いわけですね。だから、東大からまず授業料を上げるべきであるという議論がありますよね。東大卒ということで、卒業後に授業料を十分に回収できる可能性が高いわけですからね。本当に生活の苦しい学生には、別に奨学金を充実させる。

【湯浅】 そうですよね。返済義務のない奨学金みたいなものももっと充実させることによって、本当に優秀な人は無料でできるような形にするなど。

【豊田】 大学の教員の人件費の教育費と研究費の切り分けについて考えてみましょう。教員は研究ばかりやっているわけではなくて教育もやっているでしょう?先生方の研究時間と教育時間の比率を測れば大体の研究費と教育費の区別が案分できるわけです。

現在、国立大学病院ではタイムスタディ等をやって、教員の教育・研究・診療という3つの活動のうち、診療時間を実際に測定して、あるいは推測して、それで大学病院の教員の人件費を切り分け、診療経費として財務諸表に計上しています。

【湯浅】 では、これは診療に対しての時間の金額と。

【豊田】 そうそう。そういうことで大学病院の費用を計算しているのですよ。だから大学病院の教員の人件費の中には、研究時間分の人件費は含まれていないんですよ。それと同じように大学病院以外でも、研究費と教育費を計算すれば、運営費交付金のうち、どれだけが教育費で、どれだけが研究費かある程度案分できると思います。

そして、教育費部分は受益者負担で、研究費部分は運営費交付金でまかなう。この時、授業料の値上げを大学への予算削減のためにするのではなくて、運営費交付金は全額研究費に回すことが前提です。

【湯浅】 では先生の中では、研究費全体の総額の問題と、政府の分配の仕方という2つの問題があるとしたら、どちらが今よりシビアな問題だと思いますか?

【豊田】 目標達成をどう考えているかによりますよね。国民一人あたりのイノベーションの質×量で、つまり、国民一人あたりの質の高い論文数でもって国際的な地位を向上させることを目標にすると。そして、現在21番目の日本は、19番目の台湾の値、つまり、現在の日本の1.5倍を目標にすると。

【湯浅】 そうですね。

【豊田】 そのためには、ばらまきと選択と集中のバランスを費用対効果が最大化するような比率に保つことと、研究費総額を1.5倍にすることです。選択と集中のやりすぎを是正して、資源配分を費用対効果が最大になるように改善しても、その効果は、せいぜい1割程度と考えられますので、やはり、研究費総額を増やさなければどうしようもありません。

今の国のやろうとしていることは、費用対効果が最大化するばらまきと選択と集中のバランスを崩して、選択と集中に偏らせ、なおかつ研究費総額を削減しようとしているわけですから、お話になりません。

まずは、国が質×量の目標を明確化することから始まります。大学の国際順位が何位までに何校というような目標ではなく、国民一人あたりのトップ10%論文数の国際順位を台湾を目標にして19位に上げることです。

【湯浅】 そうですね。日本としての目標を明確にする必要がありますよね。豊田先生、今日は色々お話して頂いてありがとうございました。当日もよろしくお願い致します。

【豊田】 はい、よろしくお願いします。

(インタビュー完)

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