「研究力のネガティヴ・スパイラルを解決するための熊本大学の試み 」
熊本大学学長・谷口功氏インタビュー(6)
- 日本語記事インタビュー日本の研究ファンディングを考える
- September 19, 2013
【湯浅】 熊本大学をはじめ、今の地方国立大学、先生がおっしゃるところの「中核大学」はかなり研究資金を確保して研究人材を増やすことに苦労されていることが、今のお話で非常によくわかりました。そんな中で、熊本大学は地方国立大の中でも研究大学としての地位を築いていますが、どうやってこの問題に対応していらっしゃるんでしょうか。
【谷口】 若手研究者を中心に、良い研究をしていると評価できる者には、学長経費等で支援しています。
【湯浅】 学長経費で、ですか。
【谷口】 はい。しかし、周知の通り、研究費のかかる理系特に実験系の研究は、外部資金無しにはほとんど出来ないのが実情です。研究成果が出なければ、外部資金が取れず、その結果また研究が進まない等、悪いスパイラルにはまってしまいます。これでは、斬新な発想に基づく研究は、簡単には出てこないことにもなります。
若い研究者には、研究目的を明確にしながら新しいサイエンスを拓く研究をするように指導しかつ鍛えてはいますが、既に述べましたように、ある程度の「生活費」としての基盤的な研究費の支給が必要です。特に地方の小さな大学では、大きな大学等に比べて基本的な研究環境に差がありますので、外部資金がとり難い状況が厳然とありますので、その点の配慮が我が国の研究の質や量を担保する上で是非必要かと思います。
【湯浅】 なるほど。確かに、研究費が取れないから研究できない、研究できないから研究成果がない、研究成果がないからさらに研究費が取れない、という悪循環に多くの研究者が陥りやすい環境ですよね。確実に改善が必要だと思いますが、今現在そういった研究費制度が整っていない中で、大学単位でできることってなにかあるんでしょうか。
【谷口】 熊本大学で独自に行っている施策はあります。先端的、先導的な研究で、外部資金も多く取れる研究は、拠点研究Aとして、大学で全面的に支援しています。次の拠点研究となる研究を選んで、資金的にもその育成のための支援をし、外部資金の獲得に向けた指導も行っています。
【湯浅】 外部資金獲得の指導まで大学をあげて行っているんですか。
【谷口】 そうです。さらに若手の研究者で、外部資金がとれなかったが、評価がもう一歩という研究について支援する等の方法をとっています。いずれも、それなりの成果が上がっています。
【湯浅】 確かにぎりぎりで科研費が取れなかった研究者を大学がサポートしたら、次につながりますよね。すごいですね。
【谷口】 これとは異なりますが、女性教員の育成のために、ライフイベントによる研究活動が低下しないように、研究補助者等の支援も行っていて、これが、多くの女性研究者にとって有効に働いているようです。この効果があって、ここ5年間の女性研究者の上位職への登用の割合は、それ以前の倍程度に増加しました。
【湯浅】 出産などで研究を一時期はなれざるを得ない女性研究者をライフスパンで支援されているわけですね。