「小さなことから始めるのがビックプロジェクトの鉄則! 」
中部大学理事長・飯吉厚夫氏インタビュー(5)
- 日本語記事インタビュー日本の研究ファンディングを考える
- September 12, 2013
超伝導送電の実験設備を開発する際に感じたのは“お金はないんだからアイデアで勝負しないと”という決意。小さなアイディアをビッグプロジェクトにつなげる極意に迫ります。
【湯浅】 中部大学の超伝導ビッグ・プロジェクト、「石狩プロジェクト」の事例は、他の私立大学にもかなり参考になる事例ではないかと思います。そもそも超伝導技術の研究を中部大学の一大プロジェクトとして選ばれたのはなぜなんでしょうか?たまたまなのか、先生がやられていた研究の延長上で超伝導があったのか。
【飯吉】 それはやはり、大型ヘリカル装置(LHD)は、超伝導の技術がメインの技術だった。中部大学の実験のリーダーである山口作太郎教授も一緒にやっていましたから超伝導の知識を我々は持っていた。中部大学に来て、「さて、何をやろうか」と考えました。
お金はないんだからアイデアで勝負しないといけない、と。しかもある程度は自分たちのキャリアも生かせないといけない。そうすると、必然的に今の超伝導の送電になりました。
【湯浅】 なるほど、お金がないからアイディアで勝負。
【飯吉】 そう。それから、実はもう1つ先の話があって。核融合研究というのは、つまりは人口太陽をつくろうという研究ですが、じゃあ今度は核融合エネルギーである太陽エネルギーを直接有効に使おうというアイディアが今はやりの太陽光発電です。
太陽エネルギーの総量は、今、人類が使っている1万倍以上のエネルギーがあるんですよ。ただ、それを集めるのが大変でしょう?それに一日には夜と昼があるから、太陽光発電はなかなか役に立たない、と言う人もいます。
【湯浅】 そうですよね。太陽光発電はまだなかなか評価されてないですよね。
【飯吉】 だったら夜と昼をなくせばいいじゃないですか、という話ですよね。地域をまたげば、一日のうち地球の半分は夜で、半分は昼なんですから、その昼と夜をつなげばいいんですよ(笑)。
【湯浅】 なるほど(笑)。
【飯吉】 そうでしょう?そうしたら、一日中発電ができる。
【湯浅】 世界中のどこかでは必ず太陽が出ていますもんね。
【飯吉】 そうでしょう。そうすると、超伝導しかないんですよ。ロスなしで、長距離に電気を送れる技術は。だから、超伝導を使って何に一番役に立つかというのを考えたときに、もう直流送電しかないなと我々は考えたんですね。それに太陽光発電は直流ですから直流送電が最適です。
いまだに「そんな夢のような話」と言われますけれども、地球には赤道に沿って、うまいぐあいに要所要所に砂漠があるじゃないですか。そこに太陽光発電をしてつなぐことも考えられます。
【湯浅】 そうですね。
【飯吉】 平等に安価に与えられるエネルギーというのは、太陽エネルギーしかないんですよね。使う方法がなかなか見つからなかった。ちょうど情報が光ファイバーであっという間に地球上がネットワークで結ばれて、グローバル社会になりました。だから、同じように超伝導送電網を地球表面にはりめぐらしてエネルギーを皆で共用する。私は「エネルギー・スーパーハイウェイ構想」って言っているんです。それが夢なんですけどね。
【湯浅】 「エネルギー・スーパーハイウエイ構想」! めちゃくちゃかっこいいですね。
【飯吉】 そこへ行くためにはまず200メートルから2キロの、次の一歩が大切です。幸い先程話したように、石狩にあるデータセンターと共同開発することになり、「石狩プロジェクト」がスタートすることになりました。
【湯浅】 そうなんですね。すごい。
【飯吉】 だから、人と人のめぐり合わせと、時も大事だけど、やっぱり「人」ですね。「場所」も大事。今回の場所は石狩。普通なら石狩なんか行きたくないという人が多いんだけど、あんなにいいところないです。地元の方々も含めてやっている本人たちはもう一生懸命やっている。超伝導化に必要な冷媒も近くにLNGの基地がある。結果的にそうなっていっているので。やっぱり物事がトントンと行くときは、そういうことなんでしょうね、きっとね。
【湯浅】 結果的にビッグ・プロジェクトになる研究テーマも、本当に最初は少しずつ、ちょっとずつ、ちょっとずつ距離を伸ばして、共同研究に広げていったわけですね。
【飯吉】 そうです。一度に大きなものなんかできません。やっぱり、最初は小さいものから。それはもうビッグ・プロジェクトにとっては必須な条件ですね。そして、また大きくなっていけば課題も違ってくるんです。小さいうちはうまくできても、大きくしたら壊れてしまうということもあるわけですから、だから、やっぱり少しずつ試作開発をしてやらないといけないという。
最近はメーカーさんでもあまりやらなくなったから、日本のものづくりに少しいろいろな問題が出てきているんじゃないでしょうかね。
【湯浅】 それはやっぱり1つには、今の時代、企業も予算が限られていてあまり失敗できないので、新しいことをやってリスクをとるのを嫌う傾向があるんでしょうか。
【飯吉】 失敗をしたらもう元も子もないからね。結局は損するわけでしょう。そういうビッグをやった人が企業にもだんだんいなくなっているということもあると思う。ちょっと残念ですよね。