「独立系研究者」ってなんだ?!(4)

「独立系研究者」ってなんだ?!(4)

Science Talks LIVE、第1回のトークゲストは独立系研究者の小松正氏。大学の研究者でもなく、理系企業の研究開発ポストでもない、研究機関と直接個人契約を結んで研究に参画する「独立系」という第3の働き方とは? 独立の経緯から実際の研究の進め方、成果まで詳しくお話を伺いました。

クロストーク その2:独立系研究者に向く人、向かない人

小山田 お話の中にもありましたが、大学の研究リソース、つまり資金や資源が頭打ちになってきている今、単純に考えると独立系研究者の方がひょっとしたら潤沢にリソースを持っているんじゃないかという気もするんですが。大学の研究室に所属して、大学人として研究することと、独立系研究者として組織に縛られずに研究すること、両方の世界をご経験されてきていると思うのでそれぞれの特徴やメリット、デメリットがあればお話しいただけますか。
小松 自由業は何でもそうだと思いますが、オファーがあるかどうかで全てが決まります。オファーをたくさんいただければ、その中からより良いものを選ばせていただく立場になれますし、先方からお願いされた場合にはこちらの方から色々と交渉しやすいんですね、頼んでいるのは向こうですから。報酬の話ばかりではなく、研究をより良いものにするためにはこういうことが必要です、これを実現してください、という話がしやすくなることで、学術的に価値の高い研究を作り上げやすくなるんです。
一方で、もしオファーが来なかったらどうしようもないので、その辺りの差の大きさが大学の常勤のポジションとは大きく違う点なのかなと思うんですよね。一般のビジネスの方でもベンチャー企業を自分で経営される方と、大企業のスタッフの方では事情が異なりますが、それと似ているのではないかと。学術研究においてどちらの立場がいいのかというのは一概には言い難いので、寧ろ自分のライフスタイルとしてどちらが向いているかという方が判断の基準にはしやすいかなと思います。私は自分で経験して今のスタイルの方が自分には向いているなとかなり確信していますが、研究者の場合においても、大きな組織に所属する形の方が向いているという人も中にはいると思います。
小山田 その独立志向が強い人には、こういう道もあっていいかなということですね。
小松 他の職種と比べると、研究者や技術系の人というのは比較的独立志向が高い人が多いような気がしますね。

小山田 オファーが来ないときのお話もありましたが、ある程度安定的にオファーが来ているというのはすごいなと思ったんですが、オファーが途切れないためにどんなことをされているんでしょうか。
小松 1つの要素としては中学校や高校時代から親しくしていた友達で、将来のことなんて一切気にしていなかった頃に親しくしていた人たちですけれども、彼らの中に私の今の仕事のスタイルにとってすごくありがたいようなことをやっている人達が何人かいるんです。例えば高校の生物部の1年後輩が、専門は工学部に行ってその後とある大手企業に入りました。そこにはアドバンスドテクノロジー、つまり先端技術についての新しい企画を立ち上げるポジションがあって、自社の研究技術者の他に、いわゆる文系の人や、新しいベンチャー企業とも幅広く付き合いがあるそうなんです。そこで新しい案件が出て、色んな事情で自社では進められないというときに、私に声を掛けていただいたことが何度かありました。こういう形で大手企業にいる友達を通じて人脈が広がって行ったのが1つと、他には大学時代に科学哲学を専攻していた人で、卒業後はコンサルタント業をやりながら学術的な取り組みにも興味を持っている友達がいるんですが、色々な取り組みの中でサイエンスの専門家が必要だという話になると大抵私のところに連絡してくれています。
非常にネットワークの広い、なおかつ積極的に活動している友人が、たまたまと言っていいのかどうかわかりませんが何人かいて、何か技術的な問題が発生したというときに私に連絡してくれる。困った時の小松君と言われることがあって、取り敢えずよく分からないときは小松に訊けと、そういう発想をしてくれるというのが私からするとありがたいですね。
小山田 企業としても科学技術に関する問題がある時に、外のリソースも活用しようという風に何となく変わってきている。そういう変化の恩恵もあるかもしれないですね。
小松 私は独立して12年になりますが、12年前だったら、よほど特殊な事情でなければ一部上場企業が個人事業主と契約することはほとんどなかったと思います。それが変わった1つの例として、先々月の話になりますが、国の予算で動いていた大型プロジェクトで、受注していた気象会社が実は倒産してしまったんです。でも国のプロジェクトなのでつぶすわけにいけない。私はそのつぶれた会社と業務契約を結んでいて、プロジェクト全体の管理法人とは直接の繋がりはなかったんですが、間の気象会社がなくなって個人事業主になったんですが大丈夫ですかと訊いたところ、個人事業主とも契約できますよと当たり前のように言われました。以前ならきっと、社内で調整しないと難しいですねと言われていたと思います。

次記事を読む≫

このテーマの記事一覧

  1. 研究相談からアドバイザー契約へ、「独立系」へ至る道
  2. 必要なものは“人脈”、魅力は自由度の高さ
  3. クロストーク その1:依頼から成果発表まで、企業と研究者の相利共生
  4. クロストーク その2:独立系研究者に向く人、向かない人
  5. クロストーク その3:一見関係ないテーマ、でも…? テーマと自分の興味を“繋ぐ”
  6. フロアディスカッション その1
  7. フロアディスカッション その2
  8. フロアディスカッション その3(終)

Related post

ダークマターの研究者の原動力とは!?宇宙の謎に迫る研究者

ダークマターの研究者の原動力とは!?宇宙の謎に迫る研究者

後編では、先生がどうして宇宙の研究をしようと思ったのか?また、日々どのような思いを持って研究をされているかに迫ります。他の研究者が探すダークマターとは違った視点で、ダークマターの研究を続ける安逹先生。その研究の出会いについても語ってもらっています。
未知の物質 ダークマターを宇宙ではなく身の回りで見つけたい

未知の物質 ダークマターを宇宙ではなく身の回りで見つけたい

この広大な宇宙は多くの謎に包まれています。その未知の存在の1つが『ダークマター』であり、銀河の回転速度を観測した結果などから、その存在のみが証明されています。安逹先生は宇宙でもなく、身近な場所で、そして、加速器すら使わずにダークマターを見ようとしているのです。いったいどのようにしてダークマターを見つけるのでしょうか。ぜひ、その驚くべき手法とアイデアを動画で確認してみてください。
チベットの研究を通して見えてきたもの

チベットの研究を通して見えてきたもの

自分自身のしたいことを貫いて進んできた井内先生だからこそ見える世界、今後、チベットの研究をより多くの方に知っていただく活動にもたくさん力を入れていくそうです。これまで歴史の研究について、そして、チベットのことあまり知らないという人にもぜひとも見ていただきたい内容です。

Leave a Reply

Your email address will not be published. Required fields are marked *