「独立系研究者」ってなんだ?!(6)

「独立系研究者」ってなんだ?!(6)

Science Talks LIVE、第1回のトークゲストは独立系研究者の小松正氏。大学の研究者でもなく、理系企業の研究開発ポストでもない、研究機関と直接個人契約を結んで研究に参画する「独立系」という第3の働き方とは? 独立の経緯から実際の研究の進め方、成果まで詳しくお話を伺いました。

フロアディスカッション その1

小山田 ではそろそろ時間になってきましたので、ここからはフロアの皆さんの質問、コメントを受け付けたいと思います。質問がある方はぜひ挙手をしていただいて、マイクをお渡ししますので、よろしくお願いします。
質問者A 大変興味深いお話ありがとうございます。1つ質問なんですが、プロジェクトに参加されたり委託を受けられた場合、1つのプロジェクト辺りどの程度の時間を掛けられているのでしょうか、複数のプロジェクトの掛け持ちは可能なんでしょうか。
小松 国のプロジェクトのようにある程度大きなものだと、掛け持ちできるのはぎりぎり3つくらいですね。国のプロジェクトを同時並行で3つ、それに加えて少し小さめのプロジェクトを幾つか、というのが最近よくあるパターンです。プロジェクトの期間ですが、助成金などに基づいているプロジェクトでは短いもので1年、長めのものだと3年くらいが一般的です。クライアントさんとのお付き合い自体はもっと長くて、独立して以来もうずっと、10年以上お付き合いになる方もいらっしゃいます。
質問者B 自分の専門外でわからない、受けられない依頼というのはないのでしょうか。大体は受けられてしまうものなんでしょうか。
小松 オファーが来たときに、学術的な内容を理由にしてお断りしたことというのは、あまり経験がないですね。明らかに私では対応できませんというような、ピンポイントで専門的なオファーというのはあまりないです。こういうことがやってみたい、知りたいというようなあいまいな依頼が多いので、自分の興味対象とうまく関連付けて、自分がお手伝いできる形になるように話を持っていきます。
私の専門とは違うオファーがピンポイントで来た場合は、それは私の専門とは違うんですが、もう少し幅広いプロジェクトにすることが可能だと思います、一緒にやりませんか、と提案することもあります。
学術的ではない理由と言うのは、さっき少しお話ししたような、本当はユーザーがいないのに、ユーザーがいたかのように見せかけてくれというようなご依頼があった時ですね。それは無理ですということで、お断りしています。
質問者C 今日は非常に興味深いお話をありがとうございました。こういう新しいビジネススタイル、モデルが普及していくと、ある種の人材派遣というか、研究者を登録制にして、産業界などのニーズやオーダーに合わせて適切な人を派遣する、そういうモデルも考えられるように思います。研究者の働き方が多様化して、ほぼ全員がクロスアポイントということになったらコラボレーションの幅も広がりますし。ただそうなった場合について1点伺いたいのは、研究の分野によってこういうやり方に向いている分野と、そうでない分野があると思うんですね。例えばポスドクを売り込みに行って中小企業の社長さんから言われるのは、物理専門の人は、物事を抽象化する能力が高いよねとか、色々なモデルを知っているよねというようなことなんです。数学の人は意外と凝り固まっているけど、物理の人は自分の知っているモデルを柔軟に課題に対して適用できる。だから物理の人が欲しい、とこういうような感じで、やっぱり何事も向き不向きがあると思うんですが、実際どうなんでしょうか。それともう1つ、独立系研究者をこれから、日本社会の1つのしっかりしたポジションとして成立させていくためには、制度的・政策的にどのようなことが必要になるのでしょうか。
小松 まず分野間の違いですが、確かに物理の方が非常に有利だというのは私も実感するところですね。物理の方々というのは一般的なモデルを扱うことがご専門なので、対象が生き物だろうと気象だろうと、経済活動だろうと応用できてしまうんです。何か新しい対象を開拓すると、物理の方たちが後からやってきて一番おいしいところを持っていく。生物学の場合だと1970年代から80年代に研究のやり方が、データに基づいた仮説検証型にかなり変革されたんですが、その変革というのはつまり、数学的なモデルを適切に使えるかどうかが重要になったということだったんです。数理生物学はもちろん、生態学でも進化生物学でも数学的な手法が有効だと言われるようになって、物理出身の人が生物学研究の本質的な部分にすごく切り込んできて、生物系の人の立場がなくなるという議論も一時出た。人工生命という表現が出てきた時も似たようなことがあったんですが、それでも、生物学は結局つぶれていなくて生き残っているわけですよね。それは生物の人達が、生き物というリアルな対象からデータを取ってくるということについて、物理系の人達が持たないある種のノウハウを持っているからだと思います。生き物というのは他の対象と違って、その種のことをよく知っていなければうまく扱えない、適切なデータが取れないということがよくあります。そういう部分で自分の強みを活用できれば、物理の方と比べて少し不利な専門分野の人でも何とかやっていけるんじゃないかと思います。……そうは言っても分野による向き不向きはやはり、それなりにありそうだとは思います。
独立系研究者が一般化するために何が必要かということですが、制度というよりも、自営業や個人事業主として働いている人に対する社会の評価が上がってくれるともう少し楽になるのかなと思います。私の場合は幸いそんなことはなかったですが、人によっては結婚するときに相手の親御さんから、バイトみたいなものじゃないかと言われたりしているようです。一流大学を出ているくせに、任期付きのポジションしかない事情を理解してもらえない。まずこの辺りの、研究者のライフスタイルが一般的な会社員・公務員とは大きく違うんだという事実を、賛同したり応援したりはしてくれなくても、ありのまま理解していただくだけでも違うのかなと思います。そういう時に、いわゆる国のお墨付きがあるかないかがとても大事で、非常勤や任期付きの人を国も応援していますよというような文言を役所が公に出してくれれば、大きな効果があると期待できます。
小山田 関係の皆様、是非よろしくお願いします。ところで、独立系研究者の場合、カードやローンの審査はどうなるんでしょう?
小松 私の場合は今のところ、特にトラブルはないですね。
質問者C 任期付きの研究者という職業がまだあまり認知されていなかった頃、理化学研究所の任期制スタッフからのクレームで一番多かったのが、クレジットカードを作れないことだったそうです。クレジット会社が信用情報を作る時には、従業員何年の会社で、勤続何年ですかと訊いてきますよね。任期付きだとここが書けない。その時はクレジット会社と色々話をして、カードを作れるようにはなったらしいんですが、とても象徴的な話だと思います。会社や役所も勤続何年表彰なんてやめてしまえばいいんじゃないか、そういうキャンペーンができないかとも思っています。
小松 勤続何年ではなくて、ポジションを変えながらでも1つの分野を長年に渡ってきちんと収めた方を顕彰できるようにしたい、ということですね。
質問者C 組織に所属した年数ではなく、この道一筋何年です、という言い方が良いと思います。
もう1つついでにコメントすると、独立するという生き方は女性研究者にとって、非常に福音になる可能性があると思います。特に実験系の人だと、出産などのライフイベントで一度現場を離れると、今は大分手厚くなってはきましたが、同じ組織に戻るのはやっぱり難しいですよね。ある程度所属が変わっても1つの分野の強みを生かして色々な組織と関われるということになれば、非常に女性の活躍の可能性が広がる気がします。
小松 それは全くおっしゃる通りだと思います。私の調べた限りでは独立系研究者として私が見つけた中には女性はまだいらっしゃらないようなんですが、潜在的には女性にとって働きやすいスタイルであることは間違いないと思います。

次記事を読む≫

このテーマの記事一覧

  1. 研究相談からアドバイザー契約へ、「独立系」へ至る道
  2. 必要なものは“人脈”、魅力は自由度の高さ
  3. クロストーク その1:依頼から成果発表まで、企業と研究者の相利共生
  4. クロストーク その2:独立系研究者に向く人、向かない人
  5. クロストーク その3:一見関係ないテーマ、でも…? テーマと自分の興味を“繋ぐ”
  6. フロアディスカッション その1
  7. フロアディスカッション その2
  8. フロアディスカッション その3(終)

Related post

ダークマターの研究者の原動力とは!?宇宙の謎に迫る研究者

ダークマターの研究者の原動力とは!?宇宙の謎に迫る研究者

後編では、先生がどうして宇宙の研究をしようと思ったのか?また、日々どのような思いを持って研究をされているかに迫ります。他の研究者が探すダークマターとは違った視点で、ダークマターの研究を続ける安逹先生。その研究の出会いについても語ってもらっています。
未知の物質 ダークマターを宇宙ではなく身の回りで見つけたい

未知の物質 ダークマターを宇宙ではなく身の回りで見つけたい

この広大な宇宙は多くの謎に包まれています。その未知の存在の1つが『ダークマター』であり、銀河の回転速度を観測した結果などから、その存在のみが証明されています。安逹先生は宇宙でもなく、身近な場所で、そして、加速器すら使わずにダークマターを見ようとしているのです。いったいどのようにしてダークマターを見つけるのでしょうか。ぜひ、その驚くべき手法とアイデアを動画で確認してみてください。
チベットの研究を通して見えてきたもの

チベットの研究を通して見えてきたもの

自分自身のしたいことを貫いて進んできた井内先生だからこそ見える世界、今後、チベットの研究をより多くの方に知っていただく活動にもたくさん力を入れていくそうです。これまで歴史の研究について、そして、チベットのことあまり知らないという人にもぜひとも見ていただきたい内容です。

Leave a Reply

Your email address will not be published. Required fields are marked *