「科研費はギャンブル」

藤田保健衛生大学・宮川剛教授インタビュー(8)

「科研費はギャンブル」
今回のScience Talks-ニッポンの研究力を考えるシンポジウム、第1回大会「未来のために今研究費をどう使うか」、登壇者インタビューでトップバッターを切るのは、藤田保健衛生大学総合医科学研究所システム医科学研究部門、宮川剛教授です。
国内の脳科学研究でトップを走る宮川教授は、研究のかたわら第36回日本分子生物学会年会が主催する「日本の科学を考えるガチ議論」で今の日本の研究評価システムと、それを基にした研究費分配システムについて、まさにガチで国に問題提起をする活動をされています。(※以下、敬称略)


【宮川】
こちらのスライド を見てください。僕が作った「現状の研究費の問題点」というスライドです。(スライドを指しながら)まず第一に問題として、今、研究費が「全か無か方式」になってしまっているっていうところがあります。

【湯浅】 申請が受理されるかされないかが、全か無かのどちらかしかないということですか?

【宮川】 要するに基盤で言えばですね、さっき言いましたけど僕の申請書の評価点が3.3で、採択者の平均が3.4だったんですよね。この0.1の差で研究費がゼロになってしまうのですよ。僕は今回、基盤Aに出して落ちてしまって基盤研究費はゼロなのですが、では基盤Bや基盤Cに出せばよかったのかな? と思いますよね。

【湯浅】 なるほど。BやCにしておけば最悪でもゼロではなかったかもしれないですよね。

【宮川】 そう。この点はだからもうギャンブルです。

【湯浅】 確かにそうですよね。

【宮川】 これ、かなりおかしいですよ。非常におかしいです。でも誰も変えようとはしない。だからたくさん申請しなくてはいけない。研究費の採択率というものがまず決められています。

【湯浅】  ああ、つまり最初に結果ありきってことですね。

【宮川】 相対評価なのです。相対評価なので1つの領域でたくさん申請書を出すことが奨励されるんですよ。当て馬って言うのでしょうか。うちなんかは去年17個出しました、研究室のメンバー全員で。ほとんど研究費が当たるはずがないだろうなという人でも、とりあえず領域のために出してくださいとお願いされます。だから出しているという面があります。

【湯浅】 ほかの領域でも同じようにやられているのですかね。

【宮川】 ほかはわからないですね。領域のことを考えない人は普通に自分のだけ考えて出してるのではないでしょうか。領域で採択数が増えたほうがいいっていう、ある意味で利他主義的な考え方の人はたくさん出します。

しかし、たくさん出すっていうのは、倫理的にどうかという問題はあるわけです。どちらがいいのかはわかりません。このギャンブル的な仕組みが一番悪いです、とにかく。

【湯浅】 先日GRIPSの小山田さんとのお話で、今の日本の研究費の採択でひとりの審査員が評価をする申請書の数が諸外国と比べてかなり多いという話がでました。

【宮川】 1人の審査員が見る数はだいたい120ぐらいです。僕は審査のほうも行うことがあります。これくらい(30センチぐらいの書類の束を示して)、ぶわん、というすごい量が送られてきます。

【湯浅】  で、皆さんが申請書を出せば出すほど…。

【宮川】 そうですよね。本当は1で済んだものを17出すと結局誰かの仕事が増えると。出すほうも大変です。一応、いくら当て馬だって言ったって、きちんと申請書を書くのですから。

【湯浅】 出すほうも大変だし、読むほうも大変ですよね。みんなが無駄なことをやっていると。

【宮川】  はい、読む方もたいへん。みんなが無駄なことやっている。全部税金ですよ。申請書を書いたり読んだりするのに人件費を取られているのですよ。うちの藤田保健衛生大学は私立大学だから僕らの人件費のほとんどは大学の病院収入・教育収入から来ているようですけど、国立大学の人件費は全部税金です。そのコストをちゃんと計算してみていただきたいですね。

【湯浅】 ちなみに藤田保健衛生大学には研究支援室や研究推進部みたいな機能はあるのですか?

【宮川】 それは無きに等しいですね。一応チェックはしていると思うのですが。

【湯浅】 ほかの大学だと、そのためにもお金がかかっていると。

【宮川】 かかっていますね。文科省なんかはResearch Administratorを導入しましょうと推奨していますよね。

【湯浅】 そういう動きが出ていますね。

【宮川】 でも僕はそういう機能の必要性は大学が判断すればいいことだと思います。どこにどれぐらいお金を使うか、資本主義の中ではそういう判断は大学単位ですればよいと思います。

【湯浅】 研究者のみなさんの論文出版と国際化を応援する立場の企業としては、これだけ大量の申請書を書いてらっしゃる時間を使って研究論文もっと書いてくださるといいな、なんて勝手ながら思うのですが…。

【宮川】 本当、そうです!

【湯浅】 研究論文を書くのが研究者のみなさんの本業ですものね。

【宮川】 僕も先週まで申請書を書いてて、できるのに1ヶ月ぐらいかかりましたけれども、それだけに研究室のリソースの半分は使っていますからね。

【湯浅】 逆を返すと、もしこの部分が解決されたら日本の論文数も増えるということですかね?

【宮川】 増えます! 論文数、確実に増えます。僕の提案しているような安定した基盤研究費の仕組みが実現し、この3点の問題が改善されたら絶対に増えます。

【湯浅】 私たちとしても、ぜひこの部分は解決してもらいたいです。

【宮川】 論文を出すっていう、生産的なところをちゃんと伸ばさないといけないですよ。

【湯浅】 今の研究者のみなさんは、そもそも論文を書く前に研究自体にあてる時間もないっていう話を聞きますよね。

【宮川】 論文というのは本当に生産的なものになりえます。そこから予想もできなかったようなイノベーションが生みだされたりするわけです。でも採用されなかった申請書は全部闇に消えます。まったく世の中に出ないのです。本当に無駄な作業ですよ、これ。

Related post

総合科学技術・イノベーション会議とは?

総合科学技術・イノベーション会議とは?

総合科学技術・イノベーション会議の議員の構成というのは極めて重要です。関連の大臣が入っているので科学技術の政策がいろいろなところで展開され、関連の大臣がみんな入っているということは自ら決めていく。FIRSTは日本が非常に誇るべきシステムです。
日本人の感性と感情にある豊かな言葉をサイエンスで生かすべき

日本人の感性と感情にある豊かな言葉をサイエンスで生かすべき

サイエンス分野では日本語でしか発見できないことがたくさんあります。日本人の感性と感情に豊かな言葉があって、実はその中で大発見がうまれてきている。基本的な考え方として、ここを抑えておかないとどんなに政策提言をしても世の中は変わりません。
好奇心と掘り下げ続ける力こそが研究

好奇心と掘り下げ続ける力こそが研究

リバネスのモットーは『科学技術の発展と地球貢献を実現する』。小中高校生への「出前実験教室」を中心に、幅広い事業を手がけている企業、その設立者であり代表取締役CEOをつとめる丸幸弘氏にインタビューさせて頂きました。

Leave a Reply

Your email address will not be published. Required fields are marked *