日本初のオープンアクセスジャーナル Science Postprintを設立した竹澤氏にインタビュー! 今この時代になぜオープンアクセスなのか?

日本初のオープンアクセスジャーナル Science Postprintを設立した竹澤氏にインタビュー! 今この時代になぜオープンアクセスなのか?

日本初のオープンアクセスジャーナルScience Postprint(サイエンスポストプリント/SPP)をご存知でしょうか? このSPPは日本だけはなくアジア全域から医学・ライフサイエンス分野の投稿を募集する総合科学のオープンアクセスジャーナルです。中国や日本の有志が集まり、2013年10月に設立されました。今回はSPPの創設者であり、ゼネラルヘルスケア株式会社代表の竹澤慎一郎氏にお話を聞きました。

アジア圏で初めての総合科学学術論文誌が誕生!


「近代以降、欧米を中心に科学技術や医療技術は発展してきましたが、これからはアジアの研究者も育ち、活発な研究活動をしていくことが、人類の発展にとって必要なことだと考えています」と話す竹澤さん。SPPを創設したきっかけは竹澤さんの研究者としての経験が背景にあります。「研究者として論文を書いて出したときに、教授から色々なジャーナルに論文投稿して欲しいとのリクエストが来て、それに従って論文を書いていましたが、審査期間が長かったり、論文を再度審査出す際には、3ヶ月、半年という時間が経過し、それの後も再投稿の際には追加実験をして欲しいなど、とにかく1つの論文の査読結果が出るのに半年以上、様々な雑誌をたらい回しにされ4年以上かかった」
「そんなことを繰り返していると、仕事が全く進まず、結局それが論文になったところで、何なんだろうという疑問が残りました。そんな経験から、研究者の論文環境を良くする仕事をしたいという想いは漠然とあり、SPPを設立するきっかけになりました」と話す竹澤さん。
現在代表を務めている会社や、以前の職場でも「専門家向けの情報流通を良くしていこう」という一貫した信念のもと行動してきた竹澤さん。「専門家というのは、研究者であり、お医者さんだったり、医療従事者のこと。そのようなプロ向けの情報流通を促進することが大きな軸にあったのですが、それが今回開発したScience Postprintに行き着きました。つまり、研究者向けの学術メディアだったんですね」。
前々から抱いていた疑問もこのオープンアクセスジャーナルを設立した背景にあるようです。「そもそも、現代の学術論文の仕組みの原点は、イギリスで起こった産業革命での技術の発展があり、そして科学的な発展につながった。これをまとめて論文という形で、情報をまとめていくというのが始まりでしたよね。それが「ネイチャー」や「サイエンス」とジャーナルという形で1860年~80年に創刊していました。150年の歴史があって、今の姿がある。でも、それではもう古いんです。従来の100年以上、同じ形態でやっているというだけで、必ずしも今の時代にベストマッチした論文の仕組みではありません。その流れでオープンアクセスという方法が出てきました」と話します。
また、アジアを基点としたSPPはアジアの科学の発展に大きな期待をかけています。
「50年先、100年先を考えたときに、アジアの科学技術は必ず伸びると思っています。中国だったり、インドだったり、そういった人口が多い国がこれからGDPを高めていき、経済力が増えてきます。サイエンスというのは、研究費に比例して伸びるのではないかという説や、そうではないという説、色々あるかと思います。私はやはりお金に比例して伸びていく側面もあるだろうと思っています。そう考えると必然的にアジア全体のサイエンスは伸びていく。一方で、人とモノと金は日本にありますが、それを情報として統括するものがないと思ったんですね」。
一方、「日本ではなく、アジアでスタートしたと思っているので、必ずしも国内で今すぐ利用してもらおうと思ってるつもりは毛頭ない」と話す竹澤さんですが、国内にも応援してくれる研究者や先生方が少なからずいるそう。「必ずしも論文はアジアからではなくてもいい。インターナショナルに論文を募集してるメディアになっていけば」とアジアだけではなく、今後は世界も見据えているよう。

気になるインパクトファクターや査読システム

では、既存のオープンアクセスと比べると何が違うのでしょうか。「いわゆる学界出版の学術誌と比べると、学会はある分野でA先生の流れを汲んでという形になるので色がつきます。しかしSPPはそういったサイエンティフィックな色は特につけずに、忠実に公明正大に論文を評価していくということをコンセプトにしています」と、現状にはびこる学会色についての問題を指摘します。
また、オープンアクセスジャーナルへ投稿を考えている研究者が気になるのは、やはりインパクトファクターの評価ではないでしょうか。設立間もないSPPではそのあたりはどうなのでしょうか。
「インパクトファクターとは、そもそもWeb of Scienceに掲載されるのが、まず前提で、ただそこに載れば、ロイターが2、3年後にそのときの引用数指標で評価します。要は2~3年の時間が必要ですが、Web of Scienceの審査に通ればいいというところです。ですので、着々と論文の形を作っていけば、載るだろうと思っています」と自信を見せる竹澤さん。
SPPの1つ目の特徴は、海外からの投稿が多いこと。海外からの投稿も歓迎するとしながらも、日本の学会が運営をおこなっていると必ず“村社会的なもの”になってしまい、9割の論文が国内の研究者、海外からの投稿は1割程度しかないというのが現状になってしまう。一方でSPPはその問題をカバーしています。「SPPは逆のパターンで、日本からの投稿は1割ほどですが、世界からが9割になってます。その時点で日本のこれまでの学界とは全然違う役割を果たしている」と話します。
2つ目の特徴は学会からではなく、民間会社によるオープンアクセスという点で国家予算を削減が可能になったこと。「現在、図書館への国家予算は1200億円です。日本の学会や企業が外資の学術出版社に払うお金や、日本の図書館が外資の書籍を購入するのに使うお金がだいたい1000億円くらいだろうとみています。結局、輸入超過の状況です。ちなみに科研費って1500億円しかない状況です。別の文科省の予算で研究のために使えるお金、もしくは、研究者を雇うために使えるお金が800億円文科省の予算がありますが、実は、同じくらい論文に使用しているお金がかかっていると考えています。やはり、自給率を高めることによって、国内の研究そのものに還元できるのではないかと思っています。同じお金を研究に使えたほうがいいですよね」と話します。
3つ目は、日本に海外からの情報が集まることにより、日本国内のインターナショナル性が高めることができるという点。「今、世界の国際学会ってわずか1%しか日本で開かれてないんですね。それを、国際学会開催率をもっと高めるきっかけにつなげたいです。SPPのコンテンツの中に、アワードという学術賞を設けていますが、学術賞に紐づいたシンポジウムを開いたり、国際学会を招致するきっかけの場になるといいなと思ってます。そのように学会をすることによって、世界中の研究者に旅行のような形で学会に来てもらい、日本の研究者とコミュニケーションしてもらって、そこから、日本って結構いい研究環境だねという意識を持ってもらった上で、世界中から優秀な研究者が日本中に集まれば」。ヒトやモノの交流を促進させ、情報が集まる場としてのプラットホームをつくることで、その情報を求めてお金も集まり、良い循環が生まれます。研究者目線では出てこない発想が一役買っています。
一方でオープンアクセスに対する見方も色々。誰でも投稿できる、誰でもアクセプトされるというイメージがあるのも事実。その理由の1つには、おそらく査読システムがしっかり機能しているのかという不安からくるのかもしれません。
実際に、SPPの査読者は現状国内に200人以上、海外に300人ほどいます。約半数を教授・准教授などのシニア研究者で、残りが講師・助教など若手研究者で構成されています。公募で集まった人たちのモチベーションの1つには、査読は社会貢献活動の一環という研究者の意識の高さにあるようです。
「SPPの査読評価は一つの試みですが、これからどんどん発展していくと思います。今後は出版後査読評価を取り入れていきたいと思います。ただ、出版前の査読も価値あると思っているので、出版前査読と出版後査読、両方一緒にできたらおもしろいなと思っています」と話します。

SPPの今後の抱負とは?

いかに研究者にオープンアクセスに目を向けてもらって、投稿してもらうかがカギとなってきますが、一方で、アカデミック業界では熾烈な競争が繰り広げられています。研究者は論文をたくさん書き、そして来年の予算を取る必要がありますが、現状のシステムでは、研究費の獲得の評価軸はインパクトファクターの高いジャーナルに論文を出版したかどうかにかかっています。そんな背景もあり、従来の方法からあえて新しい形態のオープンアクセスで論文出版に挑む研究者を増やしていくというのはかなりの時間とエネルギーが必要になってくるのではないでしょうか。
「必ずしもインパクトファクターが全てではないと思っています。今考えているのは、ハイインパクトジャーナル、ミドルクラスのインパクトファクタージャーナル、無名のジャーナルの論文改ざん率を出そうと思っています」と、「高インパクトファクターほど改ざん率が高いのではないか」という仮説のもとデータ分析を試みているという竹澤さん。こんなことができるのも、学術業界とのしがらみがない民間企業ならではのメリットがあるからと言えるでしょう。
「やはり、サイエンスとは積み上げ、巨人の肩に乗っているようなものだという表現もあるのですけど、積み上げの前提がおかしいとその上に乗っているものもあやふやなサイエンスになってしまいます。なので、どの論文が怪しいのか、しっかりと知った上で次の研究をしましょうということを提案したいです。やはりSPPって、学術論文なので、やっぱりきれいな論文を集めたいんですよ。改ざんとかのない論文を。そのために我々で徹底的に調べてねつ造を許さない会社だよというブランドメージを作っていきたい。これを知ってもらった上で、ピュアな論文を投稿してもらいたいと思います」と、研究不正を防ぐシステムも整えています。
現在、SPPにおける論文投稿数は約100を超え、出版された数が27(2014年8月現在)。査読後のアクセプト率が60%と他のオープンアクセス誌と同等レベル。
日本人の研究者からは現在、約10件投稿されており、5本ほどすでに出版済み。どういう研究者が投稿しているかというと、私たちの理念に共感していただけた方や、速やかに出版を希望する方や論文の出版量を重視する方だそう。「まだSPPが無名な雑誌なので、ここだったらなんでも通るだろうと思って、全然通らない論文を投稿してくる事例もありますね。まだ軽く見られているところはあります。ですから、しっかりと査読をして、ブランド価値を高めていく必要があるかなと」と話します。
「僕らは学術論文でイノベーションを起こせると思っているんですね。それを、いろんな形で新しい価値を創りだすことができると思っています」。また一般の人にもっとサイエンスに触れるきっかけになって欲しいとある仕組みも作りました。「研究者を後押しして欲しいと思っているので、そのために作った仕組みがドネーションです。アクセプトされた論文の著者に対して、寄付できるという仕組みを作りました」と、科学を一般の人たちに広めていく役割も忘れてはいない。
最後に今後の抱負を聞きました。「研究者にとっては、サイエンス政策とかって、二の次、三の次なんですよね。まずは、自分の研究が第一で、基本的に99%それなんですよ。だから、こういう環境づくりというのは、我々のような外部の人間がやる方がふさわしいと思っています。『実行あるのみ』が僕の考え方」と話す竹澤さん。
今後のSPPがどう変わっていくのか、そして、日本やアジアにどのようなインパクトを与えていくのか、今後に大きな期待がかかります。
(聞き手:湯浅誠)

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