F1000Researchと筑波大学のパートナーシップ協定が意味するもの

F1000Researchと筑波大学のパートナーシップ協定が意味するもの

2020年5月、筑波大学は、研究者が英語か日本語で論文を出版できる世界初のオープンリサーチ出版ゲートウェイの開発に向けて、オープンアクセスの出版プラットフォームを提供すF1000Research社とパートナーシップ協定を結んだ。

F1000Researchの出版ゲートウェイは迅速な出版を可能にし、査読の透明性をも向上させる。独自の論文ガイドラインに基づいてすべてのソースデータへのアクセスを保証しているからだ。この画期的な出版モデルが目指すのは、自分の研究成果をどこでどのように発表するか、その決定権を研究者自身がもつようになることである。
F1000Researchとの提携により、筑波大学の研究者は研究成果や研究データをオンラインで出版できるようになる。出版言語を英語か日本語のどちらかから選べることは、特に人文社会科学分野の研究者には朗報だろう。

この取り組みは、世界中のオープンアクセス・ムーブメントの最先端を担うものでもある。オープンアクセス・ムーブメントとしては、2002 オープンアクセス出版に強い追い風が吹いているのは明らかだ。誰でも無料で研究成果へのアクセスを可能にするこのパートナーシップ協定は、このうえないタイミングで結ばれた。新型コロナウィルスの感染拡大の影響で多くの産業が経済的苦境に立たされるなか、有料の壁をなくして多くの人々に情報のアクセス権を与える試みは歓迎される。また、F1000Researchと同社の提供する「F1000Research出版モデル」は、研究データをオープンに入手できるようにすることで、研究のコラボレーションをも推進しようとしている。コラボレーション研究も今の時代のニーズに即したものだ。

F1000Researchと日本有数の高等教育機関である筑波大学の提携は、日本がオープンアクセス出版へ真剣に取り組み始めたことを意味するものとみられている。オープンアクセスに関しては、業界の専門家によると、日本がこれまで目立った動きが示してこなかった分野である。また、このパートナーシップ協定であまり語られないが重要な利点は、研究者が研究成果の発表言語を自由に選べることである。科学分野では英語が世界共通語であるが、英語に堪能でない研究者には障害となっている。F1000Researchの提供するプラットフォームではこの制約を取りのぞき、国際的な媒体で日本語の論文を公表することが可能になる。この動きは、日本の思想や歴史、文学など日本語でしか十分に議論できないと考える分野の研究者に歓迎されている。

さらにこの出版モデルでは、日本語で書かれた論文もScopusやWeb of Scienceなどの論文データベースにインデックスされる。日本語で書かれたハイレベルな研究成果の可視化がすすむだろう。今回の協定は筑波大学にとってもF1000Researchにとっても重要な一手と考えられる。F1000Researchは、日本のトップ大学と提携することで日本におけるオープンアクセス・ムーブメントを大きく前進させ、研究成果の発信方法に変革をもたらすことを目指す。筑波大学にとっては、ふたつの言語で迅速に出版できるプラットフォームを得ることで、アウトリーチ活動を促進し、大学の評価を高めることが期待される。


雑誌「ScienceTalks」の「オープンパブリケーション新時代がやってきた!筑波大学とF1000Reseachによるムーブメント」より転載。

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