科学技術基本計画に提言するためには

AAAS 国際部長 トレキアン氏特別インタビュー!

科学技術基本計画に提言するためには

AAAS(アメリカ科学振興協会/通称トリプルエーエス)の国際部長トレキアン氏へのインタビューシリーズ。
今回で最終回を迎えましたトレキアン氏との対談インタビュー。最後は、サイエンストークスが現在取り組んでいる、第5期科学技術基本計画への提言書を出すにあたってのアドバイスを伺いました。政策担当者と常に関わりを持ってきたトレキアン氏の豊富な経験からいただいた助言はどれも必読です!

科学技術基本計画に提言するためには

小山田氏 AAASは政策提言に関しての豊富な経験を持っていますよね。今回サイエンストークスは次の(文科省発行の)科学技術基本計画に提言をしようと考えています。

現在の計画では可能な限りの意見を幅広い科学コミュニティから募り、それを基に政策に対する意見書を提出したいと思います。政府や公共へ接触する方法に関しての助言などあったら教えてくれますか?

トレキアン氏 助言はいくつかできます。まず政策に対するオピニオンを提出するだけに集中してはいけない、ということです。大事なのは関わりを持ち、意見を交換すること、即ちこっちからの意見を押し付けるだけではなく、相手の意見を常にインプットすることです。

科学において有利に働く考え方は、常にインプットを意識しあうことですから。次に、もし提言を行う場合は相手にとって実際有用で実践をしやすい意見を提示することです。政策作りの世界において最も難しい問題は、もし誰かが“こんなアイディアがある!”といった形で意見を発することができても、その政策が適用され、実行するための構図がイメージできない限り、成立しないことです。そうなったら“ああ、いいアイディアですね。それで?”ってなりますからね。

湯浅 私たちが政策担当者より受けるフィードバックはまさにそれです。

トレキアン氏 賢い方法は、最初の意見案だけに関わりを持つことでなく、プロセス全体を通して政策担当者と関わっていくことです。彼らが実際どういう意見を聞きたいかをきちんと把握することも大切です。そしてその聞きたい内容にある程度付随する形で科学コミュニティの意見を反映させるのです。

あとはどんなに小さくても自分達の成果を示すことです。もし誰かがあなたがたが成功したケースを見れば“私の意見を反映してくれる程度の実績はあるかもしれない”、と思うでしょう?

湯浅 分かりました。

小山田氏 つまり成果を如何に明示化するかを考えればいいと。

トレキアン氏 第三者にとって、一つ成功したケースをみると、例えば次の5ヵ年計画に対してどんな計画をもっているのかを認識しやすいですよね?但しこの場合組織を運営する方法は2通りあると思います。

一つは取り敢えず委員会を設置して何か政策に対するインプットを提供し、終了した時点で解散するという方法。

そして2つ目は今回の5ヵ年計画の予定を立て、インプットを行うことで次回の、そのまた次回の5ヵ年計画に対しても長期的な提言予定があることを示す、という方法です。どちらを選ぶかはどの程度の期間を想定するかによりますが。

小山田氏 時間軸に沿って5ヵ年計画を説明すると、まずは政府での計画検討会議はこの秋から冬にかけて行われます。その後計画の基本大綱を決定する段階に入るので、すぐに意見を相手にインプットしたいと思います。

トレキアン氏 (時期としては会議が)始まる前ですね。

小山田氏 大体6ヶ月しかないってことですね。

トレキアン氏 では早めに何をインプットしてあげたいのか把握しておくことですね。提言したいことの中でも優先順位を設けると、いざ提言した際に、どの部分が重要であるかを伝えることができますから。

小山田氏 なるほど。私達としては科学を活性化できるようなシステム、環境の構築に優先的に取り組んでいきたいと考えます。こちらが我々にとって最も重要なポイントであり、それに関連する提言に集中するといいかもしれないですね。

トレキアン氏 私はさっきから“関わりを持つ”という言葉を強調してきましたね。システムを変える場合、プロセスの計画段階、実行段階、実行後全てのフェーズにおいて関わりを持つことが重要です。

どんな有名で成功を収めてきた組織でも、政策関係者に忍び寄って、こんな政策を行って欲しいと手紙を渡し、歩き去る方法を取っていては失敗します。公共との関わりを持つときに、モーゼが市民に歩きよって、十戒を渡し、これに従ってくれと言うようなものだと言いましたよね。これでは勿論失敗します。

湯浅 AAASが実践しているのは、政策提言を一方的に投げつけるだけではなく、会話を通し最後まで関わりを持つ、ということですね。

トレキアン氏 我々はコンスタントに意見交換をしています。AAASは歴史の中で関係を構築してきたネットワークがいくつもあります。そのため今では関わりを持つ方法は複数に存在しますが、最初からあったわけではありません。努力と時間によって育まれてきた関係です。

湯浅 努力の甲斐がありましたね。

トレキアン氏 勿論です。常套句ですが、やはり自分が本当に情熱を傾けられるような仕事をすることが第一です。関係するプロセスにもコミュニティにも利点をもたらすことができます。しかし情熱があっても、仕事は大変で、一筋縄には行きません。

湯浅 そうですね。私たちが日本版AAASを作りたいという目標を真面目に受け止める人は少ないと思います。それでもAAASのような組織が日本には本当に必要とされています。時間はかかっても、誰かが情熱を持って行動しなければなりません。

今回AAASからのインプットとして、サイエンストークスへの助言をいただき、大変嬉しく感じます。そのうち、サイエンストークスこそが日本のAAASだ、と言える日が来ることを望んでいます。

トレキアン氏 今私達が話し合っているのは科学コミュニティ全体のことではないですか。科学コミュニティは単に博士号を取得している研究者達の世界ではなく、科学への関わりを持ち、影響を受けている全ての人のことを指しますよね?

御しできないほど巨大なコミュニティです。言ってしまえば、この世の誰もが科学機関とのつながりを持っています。病身に伏せる親を持つ人は新薬が開発されるとその恩恵を受けます。燃料電池開発を行っているエネルギー産業の関係者、研究費獲得を目指している研究者、息子の科学教育に不安を抱く母親まで、全ての人がリンクしていて、ボトムアップの組織ができることは、全員がそのコミュニティの一員であると実感させることです。

これは科学環境の成長に結びつき、長期的な経済発展、社会安全、健康の発展と向上などの社会的なベネフィットとなるのです。

小山田氏 なるほど!ありがとうございました。

トレキアン氏 こちらこそ!お役に立てましたか?

湯浅 よかったです!ありがとうございました!

――5話にわたってトレキアン氏にAAASの活動や志についてお話いただきましたが、いかがでしたか?サイエンストークスにとっては非常に感銘深いお話を沢山聞くことができたと感じます。科学のより広く、効果的な促進のために、一緒に盛り上げていきたいですね。

ではではご精読ありがとうございました!
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