研究技術支援者のキャリアトラックを考える〜「研究の職人道」を語る座談会 URA・研究者・文科省の立場から(第1回)
- 日本語記事研究の職人道
- August 11, 2016
「研究はドラクエと同じ。パーティを組んでやるもの。」by 宮川剛氏(藤田保健衛生大学・教授)
特にサイエンスにおいて研究はチームワーク。研究者だけでなく、URA(ユニバーシティ・リサーチアドミニストレーター)や研究技術者など複数の人が関わるプロジェクト、のはずなんですが…。
日本の大学のリサーチアドミニストレーター=URAは文科省主導で平成23年に整備・開始されたばかり。国立大学運営費交付金の削減に伴い、研究マネジメントから競争的資金の確保・管理、知財管理などを行う専門的人材が必要になったことから生まれた役職ですが、大学によってURAの立ち位置やコンセプトはまちまちで、多くのURAの方が任期付きで働いている現状があります。一方、昔から日本の科学研究を支えてきた研究技術支援者の地位も大学によって異なり、確立されたキャリアトラックがありません。
これからの日本の研究をスケールアップするために、URAと研究技術者は欠かせない重要な存在。新世代の優秀な研究技術者を大学・研究機関に確保し育てるために国や大学はどんな雇用形態、キャリアトラックを用意していくべきでしょうか?
「研究の『職人道』を考える座談会」シリーズでは、文部科学省 科学技術・学術政策局研究開発基盤課の中川尚志(なかがわ・たかし)氏と、北海道大学URAステーションの主任URA、江端新吾(えばた・しんご)氏、藤田保険衛生大学・教授、サイエンストークス委員の宮川剛(みやかわ・つよし)氏をお招きして、文科省、URA、研究者の視点から研究技術者のキャリアはどうあるべきか?を語り合いました。司会はサイエンストークスの湯浅誠(ゆあさ・まこと)氏です。
登場人物
中川尚志(なかがわ・たかし)氏
文部科学省 科学技術・学術政策局研究開発基盤課
江端新吾(えばた・しんご)氏
北海道大学 URAステーション 主任URA
宮川剛(みやかわ・つよし)氏
藤田保険衛生大学 システム医科学研究部門 教授
湯浅誠(ゆあさ・まこと)氏
カクタス・コミュニケーションズ株式会社 代表取締役
第1回 研究技術支援者のキャリアトラックを考える
湯浅 本日はお集まりいただきありがとうございます。今日の座談会は「大学における技術職のキャリアパス」をテーマに行うわけですが、まず簡単な登場人物のご紹介をさせていただきましょうか。
まず、文部科学省にお勤めの中川さん。サイエンストークスのイベントにもたびたびお顔を出していただいています。
そして北海道大学URAステーションの主任URA、江端さん。江端さんと中川さんは文科省と北大が協力して行っている大学の研究技術職員のキャリアについてのプロジェクトで一緒に活動をされています。
そしてサイエンストークス読者にはおなじみの藤田保健衛生大学教授、宮川先生。宮川先生は研究ポストや研究費のシステム改革、研究者やサポート人材のテニュアトラック制度の設置について政府、文科省に向けて積極的にご提案をされています。
みなさん今日はよろしくお願いします。
全員 よろしくお願いします。
湯浅 そもそもなにゆえサイエンストークスがこのメンバーで座談会をすることになったかなんですが、一昨年度に我々は「第5期科学技術基本計画」に研究現場や若手の意見を反映したいということで政府に向けて提言を行いました。これからの日本の科学技術にイノベーションを起こしていくためには、「人」を中心に置いた科学技術政策をしていかなければならないと。
宮川先生はその提言の中で、「人の評価」というテーマで、研究人材には3つのキャリアトラックが必要だと提言しました。一つ目がリサーチトラック、二つ目がアドミントラック、三つ目がマイスタートラック。研究者だけでは研究はできないので、研究職、事務職、技術職、それぞれをプロとしてテニュアトラックに載せるべきだというご提案です。
この提案に文科省と北大のコラボレーションでまさに大学の技術職員のキャリアについてプロジェクトを始められていた中川さん、江端さんが興味を持たれて、まさにこの提案にあるアイディアを大学の技術職キャリアトラックのために検討したいと。そこで本日はサイエンストークスで大学、研究者、文科省、という3つの視点から研究の技術職キャリアはどうあるべきかを探るための対談を組ませていただいたという経緯です。中川さん、そんな感じですよね?
中川 そうですね。私がまず最初に関心を持ったのは、サイエンストークスの提案書の中にある宮川先生の、MITのキャリアトラックをベースにした、このピラミッド構造のキャリアパスのアイディアですね。こんなアイディアを拝見したのが初めてだったので、是非勉強したいなと思って。
私は今文科省の研究開発基盤課といって、研究インフラについての仕事をしていますが、研究インフラは本来人材に関連した政策もカバーするところなんですよ。ここ数年、科学技術政策的には若手研究者問題、特にポスドク問題に端を発してテニュアトラック導入をやって、今年の4月から始まった第5期科学技術基本計画では若手の比率を上げるぞという目標も掲げている。この背景には、若手がドクターに進む人数が減っている現状があります。そもそも人口減少している中で、海外に出た若手研究者が日本に戻ってこないとか、若手問題はいろんな論点で語られていますよね。
でも研究インフラを見ている自分の立場からいうと、若手研究人材が少ないことから派生する問題はそこだけじゃない。今いる先生方の研究のための実験装置維持メンテや操作をする人材すら足りなくなるんです。今はまだ回ってるけど、油断すると2,3年後には人が足りなくなって、実験装置はあるけど動かす人がいないぞという状況が、もう目の前に来てるんじゃないかという思いがあります。だから技術支援者のキャリアパスについてはぜひ政策的にも対応策を考えたい。
北大の江端さんには、文科省の審議会の専門委員をしていただいていて、二人でいろんな議論をしながらやっているんですが、宮川先生のお話をぜひ聞いてみたいよねと。私たちは将来のイノベーションを支える人材をどう支えていくか、しっかり育成して適材適所を実現するかが課題です。だから今回の座談会で少し話を深めて、実装につながるような形にしていきたい。
文科省では1年ほど前に研究の技術支援者の調査をしました。 まさに大学の研究現場にいる専門スタッフ、技術支援者の方々を中心にして、現状どういう風にキャリアパスを考えているかとか、現場のいろんな思いを自由記述で書いてもらったんです。こういうデータとアイディアを組み合わせて、なんらかの形で政策的に進めたい。研究現場にいらっしゃる宮川先生の今までのご経験を踏まえて議論を深めてみたいんです。
実はサイエンストークスの委員もされている隠岐さやか先生にもこの評議会の委員会に入っていただいています。隠岐先生の研究現場において人のダイバーシティ(多様性)を上げるためのアイディアについても実は作業部会の第一回で紹介していただいていて、ぜひアイディアにあった紹介事例のバージョンアップをしていきましょうという話をしていまして。そういう意味では、サイエンストークスが出した提言書は結構活用していますよ。
宮川 それはよかった。
湯浅 よかったです!
江端 ちょっと僕の立場から補足してもいいですか。 中川さんは文科省で政策を作る立場の人ですよね。実際今技術支援者のキャリアについて中川さんと議論していて、一番の論点は、科学技術政策として理想はこうだよねといって打ち出したものが、大学側、現場で本当に理想どおりいくのかという部分なんです。その政策と現場との乖離を埋める作業を中川さんと僕が議論しながら進めているところです。
宮川先生と議論したいのはこの研究技術職員のための「マイスタートラック」を実際に大学の制度として取り入れる時に、日本流にどうアレンジするべきなのかというところを特に詳しくお伺いしたいんですね。そして、この対談を通じて大学における技術職員の方々や研究基盤の大切さというのをもう少しいろんな方に知っていただきたいという思いがあります。宮川先生は実際に大学で研究されてる時に、この大切さを身に沁みて感じてらっしゃると思いますし。そこを深く議論させていただきたいと思います。
[kanren postid=”5422,5451,5467,5474,5483,5495″]