ポスト真実がやってきた! トランプ時代にどう変わる? アメリカの科学と政治(4)3
Science Talks LIVE、2016年度最終回となる今回のテーマは、今年1月の誕生以来極度の保守主義やアンチサイエンスで何かと話題に上るアメリカ・トランプ政権。戦後初めて誕生した『科学に興味がない大統領』とも言われるトランプ氏の下でアメリカの科学政策はどう変わるのか。日本や世界の科学の動向に、どんな影響が出てくる可能性があるのか。文化人類学者、科学社会学・科学技術史学者の春日匠(かすが・しょう)氏をゲストに、トランプ政権への懸念と対処についてAAAS(アメリカ科学振興協会)の年次大会で交わされた議論について詳しくご報告いただきました。 アンチ・トランプで科学者結束。細かな論議には温度差も 小山田 ありがとうございました。すいません、巻いちゃって。その分の確認を含めて伺うんですが、今回、トランプ政権になって初めてのAAASの年次大会だったわけですが、実際に現場に行かれて、雰囲気や向こうの人達の感触は率直に言ってどのような感じでしたか? 春日 改めてオバマ前大統領は、科学者にすごく人気があるんですね。ホルドレンさん、補佐官も非常に人気があって、廊下で次のワークショップを待っているような時にも若い研究者が話しかけてにこやかに談笑している姿も見ましたし、もちろんそれだけではなくて、政策的にも科学技術を重視していた。100%、100点というわけではないとは思うんですが、未来志向の政策で、環境問題についてもアメリカは消極的だというイメージを一新させてパリ協定でもいち早く議会を説得した。そういうこともあって非常に人気のある大統領の後に、科学者から見ると恐らく史上最低の大統領が来たということで皆怒っているし危機感を感じています。ただ一方で皆トランプに目が行き過ぎているところもあるようで、本当はAAASに来るような科学者の中でも意見の対立があってそこはきちんと議論しなければならないのですが、今回はほとんど議論できていませんでした。 ある科学技術政策のワークショップで会場から出た質問で、科学技術の発達が重要だとは認めた上で、『AI等が進歩していくと結局、普通の労働者はどんどん仕事を失ってコンピューターに置き換えられていくことになると考えると、ベーシックインカムや資本主義を根本から捉えなおすような議論も必要ではないか』という意見がありました。ただ、壇上の偉い人、学長や学部長レベルの反応は、大学はそういうことをするところではなくて、科学教育をきちんとすれば海外に流出してしまった製造業を取り戻せるとかそういう恩恵があるんだから、良い教育をきちんとすることが第一でそういう議論は後回しだ、と。若い人達の中にはドクターまでは行ったものの借金が数百万、1000万オーバーというような人もたくさんいるわけで、そういう人ともう既に地位を固めたシニアの研究者との温度差は本当はかなりあります。若い人には長期的展望があまり見えないと思っている人も多いので、本当はもっとしっかり議論しなければならないと思うんですが、今回はチラチラとずれが見えるくらいであまり議論にはなりませんでしたね。 小山田 さっき見せていただいた、ホルドレンが出たセッションですが、あそこの議論の報告は私も読みまして、ホルドレンはまずはもう少し、地に足をつけて研究しようと言っている。ただ会場の反応としては、エンゲージメントというかポリシーに対するコンタクトが必要だという人もいれば、アクションが重要だという人も、どちらでもないという人もいたという風に聞いたのですがいかがでしょうか。 春日 憂慮する科学者同盟は、科学の進歩に元々やや距離を置いている、懐疑派の代表のようなNGOです。私が最初にセッション会場に入った時はホルドレンが来るというのも知らず、憂慮する科学者同盟のイベントだけという心づもりで行ったので、もっと批判的な話が出るかなと思っていたら意外とそうでもなかった、という中途半端な印象になっているんですが、仰る通りアクションが重要だという人はいました。ただ割と抑えていたなというか、他の機会ではもう少し激しいことを言う人なんじゃないかなという雰囲気はありました。 小山田 Stand Up for Scienceについてもちょっと補足しますと、あれはAAAS自体が直接開催したわけではなく、AAASの年次大会に合わせる形で、別の団体が主催しています。…主催者は憂慮する科学者同盟だったでしょうか? 春日 主催者は2日目に全体講演したオレスケスが主宰している気候問題に対するNGOと、ナオミ・クライン(Naomi Klein)というカナダの有名な社会運動家がいて、『ブランドなんか、いらない(No
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