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ポスト真実がやってきた! トランプ時代にどう変わる? アメリカの科学と政治(8終)

Science Talks LIVE、2016年度最終回となる今回のテーマは、今年1月の誕生以来極度の保守主義やアンチサイエンスで何かと話題に上るアメリカ・トランプ政権。戦後初めて誕生した『科学に興味がない大統領』とも言われるトランプ氏の下でアメリカの科学政策はどう変わるのか。日本や世界の科学の動向に、どんな影響が出てくる可能性があるのか。文化人類学者、科学社会学・科学技術史学者の春日匠(かすが・しょう)氏をゲストに、トランプ政権への懸念と対処についてAAAS(アメリカ科学振興協会)の年次大会で交わされた議論について詳しくご報告いただきました。 フロアディスカッション その4 質問者F 科学者と一般の人にギャップがあって、そこを埋めるというのが先ほどまでのお話だったと思うんですが、何か実際にギャップを見る機会のようなものはありましたでしょうか。 春日 今回の会場はボストンという大学街で、科学者・研究者・制作関係者以外とはほとんどコミュニケーションしていないので難しいのですが、報道などを見ていると、ボストンを含めて都市部だと、エスニックマイノリティの人は普通に町中にたくさんいます。それに対してネガティブになるのはとんでもない、みたいな雰囲気がありますし、知り合いの日系人のハーバード大の教授がいるんですが、街を歩くのが怖くなったとは言っていました。ボストンでは身体的な危険を感じることはそれほどないものの、やはりあちこちで敵意をあおられているような感じがする、と。単なる旅行者だとなかなか感じないのでわからないですが、深刻な分断というのは恐らくあるんだろうとは思います。あまりお答えになっていなくてすみません。 白川 ニューヨークに住んでいる私の友人は、如実に感じているようです。何か妙によそよそしくなっているんじゃないかという感覚が結構あって、彼はもともとはFacebookでかなり発言していたんですが、何があるかわからないからと今はほとんど発言しなくなりました。一般の方と科学者との乖離の話については、西川伸一先生(NPO法人オール・アバウト・サイエンス・ジャパン代表)がYahoo! ニュースに面白いことを書かれています。『Nature』にも載っていた話なんですが、大統領選挙の前にアメリカの各分野の科学者を対象に、自分が保守か、中道か、リベラルかを選ばせる調査をしたところ、ほぼ9割が中道からリベラルを選んだ。でも実際の投票行動は全く違っていたわけです。それで西川先生が書かれていたのは、この乖離について科学者は本気で理解しないと危ないのではないかと。実際、その通りだと思います。 小山田 自分はリベラルでもトランプに、共和党に入れた人ですね。研究者としての信条と、一生活者としての行動は違うかもしれない。 質問者G あまり詳しくないんですが、聞くところによると、スティーブ・バノン主席戦略官(Steve K. Bannon前主席戦略官、2017年8月に解任)でしたっけ、彼の意向、彼がトランプの選挙戦中に言っていた公約が今、粛々と実践されているという話を聞いているんですが。バノン個人に対して何か、対策のようなものは話し合われたりしたんでしょうか。 春日 個人名が出ていたわけではないですが、科学者が、環境問題なんですが、気候変動などに関してこういうものですよと説明しても、バノンのところのようなメディアが全然証拠にもならないような証拠を取り上げて反対すると皆そっちを信じてしまう。要するにメディアがちゃんとメッセージを伝えられなくなっている、それに対してどうするかという話はありました。年次大会の時にはまだ『どうしようか』くらいの話止まりでしたが、白川さんのお話だと具体的な対策方針がだんだんまとまってきているようにも思えます。 白川 バノンについてはソースはよくわからないですが、トランプ政権の科学政策って反科学じゃなく『無』なんです。だからバノンも恐らく予算案には関与していないんじゃないかというのが科学者側の認識ですね。AAASの方から個人的に聴いた話によると、Political Appointee(大統領など政治家が自身の裁量で、政府の要職を占める人材を任命、配置すること。政治任用制)の46ポストのうち、科学技術政策局の事務次長1人以外が決まっていないのだそうです。今回の予算案についても、各機関のディレクターは呼ばれた形跡がない。バノンも興味がないだろうし、ほんの数人で作った案なのではないかと。ここからは私の見立てですが、作らなければいけない、公約通りでなければいけないからと作りはしたものの、経済系の主要な人たちは全く興味がないし、関与もしていない。日本で言えば事業仕分けの担当者が勝手に決めちゃいましたという程度のものかもしれません。
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ポスト真実がやってきた! トランプ時代にどう変わる? アメリカの科学と政治(7)

Science Talks LIVE、2016年度最終回となる今回のテーマは、今年1月の誕生以来極度の保守主義やアンチサイエンスで何かと話題に上るアメリカ・トランプ政権。戦後初めて誕生した『科学に興味がない大統領』とも言われるトランプ氏の下でアメリカの科学政策はどう変わるのか。日本や世界の科学の動向に、どんな影響が出てくる可能性があるのか。文化人類学者、科学社会学・科学技術史学者の春日匠(かすが・しょう)氏をゲストに、トランプ政権への懸念と対処についてAAAS(アメリカ科学振興協会)の年次大会で交わされた議論について詳しくご報告いただきました。 フロアディスカッション その3:AAASポリシーフォーラム参加報告 質問者E AAASの開場に社会学・社会人文学の研究者はどれくらいいましたか? そこの人達が入ってくればもう少し議論が、いわゆる科学絶対主義とは違うようなところに収れんするはずなんですが。 春日 今回参加してきた分科会は政策や倫理に関するものが多かったんですが、割と学部長レベルとかそれ以上の人が多くて、大会全体の人口比を代表はしていないだろうという気がします。ただそれを除いても、とにかくバイオ系の研究者が圧倒的に多かったです。 小山田 AAASの年次大会のセッションテーマは、政策系のところが幾つかの枠を固定で持っているほかは、後はテーマを事前に募って、その中から審査・選考しています。内容はかなり多様で、インフラの話があったり、格差の話があったり、そういうところには社会科学者も入っていたと思いますが今はあまり確定的なことは言えません。詳細はネットに公開されているので、そちらを見ていただければ。 春日 遺伝子組み換え作物に関する社会とのコミュニケーションというセッションに1つだけ参加しましたが、そこはバイオの研究者3人くらいに、社会学者が1人という感じでやっていました。シニアの研究者、ディレクターみたいな人だと政策研究をしている人は多いので会場にもいたにはいたんですが、どちらかと言うと批判的な方ではなくて、政府に比較的近いタイプの社会学者、政治学者が多いところのようでした。他のところに行けばまたちょっと様子が変わるかもしれないですが、今回は科学批判はそんなに聞かなかったですね。 小山田 科学批判が起きやすい場所ではないことは間違いないですね。それではここで、ポリシーフォーラムに出席された白川さん、最新の情報があれば。 白川 皆さんの質問の中身を踏まえてお話しすると、まず予算ですが、NIHの予算が何に基づいて決まっているかというと、歳出上限法という法律が2011年にできました。さっき小山田さんが示されていた研究開発予算の推移も2011年にがくんと下がっていたと思うんですが、法律で上限が決まっているのでどうしても下げざるを得ないという技術的な面がございます。NIHの国際(ファガティ)センターの廃止は小山田さんも言われたように公約を確実に推進しているように見せる査定案が必要なので、そういう案を書いたのだろうという解釈です。ポリシーフォーラムにNIHのディレクターが来ていて、『私、辞表を出したんですけど、受理されなくてまだ首繋がってますよ、ははは』とか言いながら事業紹介をしていました。ライフサイエンスの削減はどうなっているのか、脳研究はどうなのかという話については、『Brain Initiative(2013年にオバマ政権が発表した、国家を上げて脳神経科学に取り組むプロジェクト)は超党派の議員の皆さんに賛成いただいたものですので、当然次の政権でも強く支持されるものだと考えております』という風に仰っていました。モデレーターの説明によればアメリカの予算は、大統領の予算案がそのまま追認されるということではなくて、あくまで議会が作るんです、と。トランプはビジネスマンなので高めのところに球を投げてきて、落としどころは別なんだろうなと皆結構思っているようです。 ただ、着目しておかなければならないところもありました。エネルギー省あたりの査定の仕方を見ると、ARPA-Eのように商業化を目指しますというような格好良いことを言っているところは軒並み削られたんですが、基礎物理や原子力のような基礎研究はそこまで削られていないんです。エネルギー省で物理をやっているような人は意外と冷静です。 これは私の感想ですが、日本で民主党政権ができた時と同じような騒ぎが起きているような気がします。ただ、それに対する科学者・技術者の反応はアメリカの方がずっと実際的・実践的に思えます。私自身はAAASの大会とこのフォーラムの両方参加させていただいたんですが、その中にEngaging Scientists and
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ポスト真実がやってきた! トランプ時代にどう変わる? アメリカの科学と政治(6)3

Science Talks LIVE、2016年度最終回となる今回のテーマは、今年1月の誕生以来極度の保守主義やアンチサイエンスで何かと話題に上るアメリカ・トランプ政権。戦後初めて誕生した『科学に興味がない大統領』とも言われるトランプ氏の下でアメリカの科学政策はどう変わるのか。日本や世界の科学の動向に、どんな影響が出てくる可能性があるのか。文化人類学者、科学社会学・科学技術史学者の春日匠(かすが・しょう)氏をゲストに、トランプ政権への懸念と対処についてAAAS(アメリカ科学振興協会)の年次大会で交わされた議論について詳しくご報告いただきました。 フロアディスカッション その2 質問者C トランプがアンチサイエンスである理由が良くわからないんですが、彼の支持基盤が重厚長大産業だから、気候変動についてあまり言われると不都合だから、政治的判断としてそこの研究を潰しにかかっているというだけの話なのか、それとももう少し根深い、いわゆるポスト・トゥルース(Post-Truth)と言われるように、科学的な世界観や態度が社会心理的な意味で崩れてきている、そういう現象がアメリカで起きているのか、どちらでしょうか。 春日 トランプ氏個人について言うと、多分、アンチというより無関心ですね。彼を選んだ有権者がどう思っているかというと、1つにはおっしゃるとおり、重厚長大産業が背景にいます。彼らにとって温暖化、気候変動の話は都合が悪いので、そこに手を出さない大統領を支援している。もう1つの支持基盤、キリスト教福音派の人達は、ある種の科学知識というものにお根本的な懐疑を持っている。聖書と科学の教科書の記述が矛盾していたら、聖書の方を信じるべきだと考えています。本当のところどの程度それを実践しているかはわからないですが、そういう考え方は持っていて、その人たちと石油産業の人達の利害がたまたま一致して、細かいところを見れば本当は矛盾だらけだと思うんですが、何となくそこで共和党支持という連合が成立してしまっている。こういう複数の事情が重層的に重なった結果たまたま起きている現象が今見えていて、たまたまではあるけれど、多分この先暫くは続くだろうと思います。 小山田 AAASでは大統領選挙の時に、選挙戦の途中で民主と共和両党のそれぞれの候補に科学関係で助言している人を連れてきてそれぞれの意見を聴く場を設けています。今回の選挙でもやるとは言っていたんですが、いざ会場に行ったらキャンセルされていた。そもそもそういう次元で議論していないんです。温暖化問題をどうするかというくらいなら議論があるかもしれないけど、もっと踏み込んで科学技術をどういう風に競争力に役立てるかみたいな話になると、議論にならない、争点にもならないです。アメリカの場合再生医療が議論になることはありますが、他の科学技術はあまり争点になっていません。 春日 前回私が行ったのは2007年の2月だったんですが、共和党の候補はもうマケイン氏に決まっていて、民主党側はクリントンかオバマかという2人の対決にほぼ絞られている時期でした。その時は共和党は呼ばれず、クリントン側は夫、ビル・クリントンの時の科学技術担当の政策アドバイザーだった人、オバマの方はシカゴでずっとマイノリティ向けの科学教育をやっているNGOの若い活動家でドクター・モンベルという人が対談をしていたんですが、暫く議論が続いたところで司会役の女性ジャーナリストから、『あなた方は多分、ブッシュ政権の科学政策を念頭に幹細胞や気候変動の話をされていると思いますが、マケインの政策は読まれましたか? マケインは幹細胞研究賛成、気候変動対策も推進すると言ってますよ』と突っ込みが入ったんです。共和党でも割とメインストリームにいる人は本当は幹細胞研究も、気候変動研究も熱心なんですが、それを言ってしまうと選挙に勝てない。マケインはもう落ちることはないでしょうが、こういう良識ある人がどんどん減って、若い人では全部ティーパーティや福音派の支持を受けて気候変動なんて嘘だと言う人達しか通って来ない、そういう状況はありますね。 質問者D 2点お願いします。1つは、再生エネルギーや気候変動に関する予算が減るということで、科学者もそこと他の分野の温度差のようなものはありますか? もう1つは軍事予算が上がるということで国防省の予算も当然に増えているんでしょうか? 春日 少なくとも会場にいた時の雰囲気としては、軍事を含めて産業応用に直結するような予算はもしかしたらトランプ政権で増えるかもしれないという話はありました。AAASの大会は2月で、まだ予算案は出ていないときだったので皆憶測で話をしていたんですが、減るところも増えるところもあるだろうねという感じで。ブッシュ政権の時も実際、軍事予算と産業応用性の高い予算が少し増えていて、気候変動や基礎研究の部分の予算は減ったので、今回もそういう感じになるかもしれないという話は出ていました。ただそれで分断されては困るので、AAASとしては一致して基礎研究や環境問題、地球全体の貧困、感染症、そういう問題が重要だということを言い続けましょうという話も皆さん割と仰っていました。 実は統計的に見ると、オバマ政権でも研究費が大きく増えたわけではなくて、寧ろ減った分野もあるんですが、それでもオバマが人気があるのは科学に対して理解があって、こういうところが重要だよねというコミュニケーションをきちんと科学者としてくれたという感覚を皆が持っていて、そういうところも全部含めた評価なので、全く関心のなさそうなトランプにお前にだけは金をつけてやると言われてもあまり喜べないんじゃないかなと、会場の雰囲気としてはそういう感じでした。 小山田 1975年以降の連邦政府の研究開発費のデータを見ると、各年のおよそ半分から60%がDoD(Department of Defense、国防総省)の予算になっています。半分以上もあるのかと思われるかもしれないですが、そのうちの大部分は兵器システムのプロトタイプを作ったり実装したりというような兵器開発費で、研究費として大学等に回るのはほんの僅かです。大学の方から見ると連邦政府からのお金がかなり大きくて、特にその内訳を見るとHealth
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ポスト真実がやってきた! トランプ時代にどう変わる? アメリカの政治と科学(5)

Science Talks LIVE、2016年度最終回となる今回のテーマは、今年1月の誕生以来極度の保守主義やアンチサイエンスで何かと話題に上るアメリカ・トランプ政権。戦後初めて誕生した『科学に興味がない大統領』とも言われるトランプ氏の下でアメリカの科学政策はどう変わるのか。日本や世界の科学の動向に、どんな影響が出てくる可能性があるのか。文化人類学者、科学社会学・科学技術史学者の春日匠(かすが・しょう)氏をゲストに、トランプ政権への懸念と対処についてAAAS(アメリカ科学振興協会)の年次大会で交わされた議論について詳しくご報告いただきました。 フロアディスカッション その1 小山田 時間も押してきましたので、フロアを交えたディスカッションに移らせていただきたいと思います。AAASの年次大会自体は政策だけ議論しているわけではなくて、例えばゲノム編集技術やAIのような新しい技術も色々議論しようみたいなセッションもあったりする幅広いものなのですが、それとは別に、こういう予算案が出された後を受けて、アメリカの科学技術政策の議論をする『ポリシーフォーラム』という会合が毎年春に持たれています。そちらに参加された方もいらっしゃるので、後で少し話題提起を頂きたいと思いますが、まずは春日さんへのご質問を伺います。 質問者A 2つあるのですが、1つは聞き逃したことで、サンダースと話したら論点がシフトしたっていうお話のところがよく分かりませんでした。経済的自由とか効率重視と、財政支出ですか、要するに格差の問題はサンダースとトランプで貧困層へのアピールは共通していると理解しているんですが。シフトしたというのはどういうことなんでしょうか。 春日 トランプとサンダースの言っていることは基本的には、格差を解消しようということで一致はしていました。ただ、サンダースは元々環境問題の運動家と近い人なので、再生エネルギーにもっと投資をしようとか、分散型でやりましょうという側面が強いです。それに対してトランプは石油パイプラインを造るとか、巨大工業団地を造る、外国から自動車工場を誘致する、新幹線を日本から持ってくるというような、昔ながらの巨大プロジェクトで労働者に仕事を作るという基本的な政策になっているんですね。オバマ前大統領やクリントン元大統領はベンチャーの経営者などの自由競争で経済は良くなって、人々の生活もそれに引っ張られるものだと考えているので、公共事業に大きな税金を掛けて所得を移転して…というのはあまりやりたがらないタイプです。 質問者A 小さな政府から大きな政府になったようにも取れて、アメリカの昔ながらの感じにシフトしたようにも思えますが。 春日 そうですね、今回そこが分からないところで、トランプ自身も分かっていないと思います。 小山田 補足すると、連邦政府の予算は大きく分けると、義務的経費と裁量的経費の2種類があります。義務的経費というのは社会保障費のような、大きな政府に繋がる費目を含みます。人件費や、毎年出ていく国債の償却費も義務的経費です。裁量的経費はその時々の方針である程度自由に決められるもので、今回の大統領予算案も基本的にはこの裁量的経費に関するものです。義務的経費に手をつけようと思えば法律を変えなければいけなかったり、色々手続きが必要なので、大統領が変わったからと言って簡単に変えられるものでもありません。トランプが産業界に支出する、防衛費も増やすとなった時に何処を削ることになるのか、義務的経費まで変えて本当に大きい政府にするのか、他を削って全体としては小さい政府を目指すのか。共和党本来の考え方は小さい政府なんでしょうが、どうなるのかまだ読めないですね。 春日 トランプには4種類の支持者がいるんですね。産業界と福音派、政府は小さければ小さいほど良いと言っているリバタリアンと、今回新しく共和党支持にシフトした工業労働者です。彼らすべてに共通するのが、福祉予算は削るべきだという考えです。例えば工業労働者は、福祉予算は全部マイノリティや働けない人に行くものだと思っていて、それをプロジェクト経費に回して仕事を作ってくれれば自分たちは体は動くんだから働ける、稼げるようになると考えている。今は仕事がないから稼げないんだ、と。色々なメディアや報道を見ると、そう解釈しているようです。福祉予算をとにかく減らしたい人は共和党支持で、そこから先、浮いたお金をどうするのか、大プロジェクトを打つのか打たないのかというのはトランプも、支持者も分かっていないような気がします。 小山田 インフラは増やそうという話ですね。 春日 増やすとは言っています。 質問者B 私自身も研究者で、AAASのメンバーでもありますが、AAASって国民のための組織ではないですよね。科学者のための組織であって、科学者の権益をいかに増やすかという組織だと思っているんですが、会場に行かれた時にはどんな印象でしたでしょうか? 春日 基本的にはおっしゃる通りだと思います。ただ、最終的な目的は科学者、科学研究者の自由のため、科学が社会に受け入れられるようにしようということでは確かにあるんですが、そうなるためにはもっと倫理的にならなければいけない、色々なルールを作ってそれを守らなければいけない、説明責任も果たさなければいけないとか、科学の研究が社会の各層に満遍なく還元されるように心を配らなければいけない、そういう感覚は恐らく共有されています。1969年にベトナム戦争に協力する科学者が多すぎるというので学生たちがAAASの年次大会をジャックして麻痺させたことがあったんですが、それをきっかけに開かれた会議で、倫理的に正しい科学者というのはどういうものなのかというレポートが出されました。そういう検討が繰り返されて、今回の大会でも最新の事情を反映して科学者の倫理的な在り方を問い直すようなワークショップが複数ありました。最終的には当然自分たちの利益のためではあるんですが、その為には最低限守らなければならないルールがあるよねというところで社会とすり合わせをするための組織という側面が強いと思います。
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ポスト真実がやってきた! トランプ時代にどう変わる? アメリカの科学と政治(4)3

Science Talks LIVE、2016年度最終回となる今回のテーマは、今年1月の誕生以来極度の保守主義やアンチサイエンスで何かと話題に上るアメリカ・トランプ政権。戦後初めて誕生した『科学に興味がない大統領』とも言われるトランプ氏の下でアメリカの科学政策はどう変わるのか。日本や世界の科学の動向に、どんな影響が出てくる可能性があるのか。文化人類学者、科学社会学・科学技術史学者の春日匠(かすが・しょう)氏をゲストに、トランプ政権への懸念と対処についてAAAS(アメリカ科学振興協会)の年次大会で交わされた議論について詳しくご報告いただきました。 アンチ・トランプで科学者結束。細かな論議には温度差も 小山田 ありがとうございました。すいません、巻いちゃって。その分の確認を含めて伺うんですが、今回、トランプ政権になって初めてのAAASの年次大会だったわけですが、実際に現場に行かれて、雰囲気や向こうの人達の感触は率直に言ってどのような感じでしたか? 春日 改めてオバマ前大統領は、科学者にすごく人気があるんですね。ホルドレンさん、補佐官も非常に人気があって、廊下で次のワークショップを待っているような時にも若い研究者が話しかけてにこやかに談笑している姿も見ましたし、もちろんそれだけではなくて、政策的にも科学技術を重視していた。100%、100点というわけではないとは思うんですが、未来志向の政策で、環境問題についてもアメリカは消極的だというイメージを一新させてパリ協定でもいち早く議会を説得した。そういうこともあって非常に人気のある大統領の後に、科学者から見ると恐らく史上最低の大統領が来たということで皆怒っているし危機感を感じています。ただ一方で皆トランプに目が行き過ぎているところもあるようで、本当はAAASに来るような科学者の中でも意見の対立があってそこはきちんと議論しなければならないのですが、今回はほとんど議論できていませんでした。 ある科学技術政策のワークショップで会場から出た質問で、科学技術の発達が重要だとは認めた上で、『AI等が進歩していくと結局、普通の労働者はどんどん仕事を失ってコンピューターに置き換えられていくことになると考えると、ベーシックインカムや資本主義を根本から捉えなおすような議論も必要ではないか』という意見がありました。ただ、壇上の偉い人、学長や学部長レベルの反応は、大学はそういうことをするところではなくて、科学教育をきちんとすれば海外に流出してしまった製造業を取り戻せるとかそういう恩恵があるんだから、良い教育をきちんとすることが第一でそういう議論は後回しだ、と。若い人達の中にはドクターまでは行ったものの借金が数百万、1000万オーバーというような人もたくさんいるわけで、そういう人ともう既に地位を固めたシニアの研究者との温度差は本当はかなりあります。若い人には長期的展望があまり見えないと思っている人も多いので、本当はもっとしっかり議論しなければならないと思うんですが、今回はチラチラとずれが見えるくらいであまり議論にはなりませんでしたね。 小山田 さっき見せていただいた、ホルドレンが出たセッションですが、あそこの議論の報告は私も読みまして、ホルドレンはまずはもう少し、地に足をつけて研究しようと言っている。ただ会場の反応としては、エンゲージメントというかポリシーに対するコンタクトが必要だという人もいれば、アクションが重要だという人も、どちらでもないという人もいたという風に聞いたのですがいかがでしょうか。 春日 憂慮する科学者同盟は、科学の進歩に元々やや距離を置いている、懐疑派の代表のようなNGOです。私が最初にセッション会場に入った時はホルドレンが来るというのも知らず、憂慮する科学者同盟のイベントだけという心づもりで行ったので、もっと批判的な話が出るかなと思っていたら意外とそうでもなかった、という中途半端な印象になっているんですが、仰る通りアクションが重要だという人はいました。ただ割と抑えていたなというか、他の機会ではもう少し激しいことを言う人なんじゃないかなという雰囲気はありました。 小山田 Stand Up for Scienceについてもちょっと補足しますと、あれはAAAS自体が直接開催したわけではなく、AAASの年次大会に合わせる形で、別の団体が主催しています。…主催者は憂慮する科学者同盟だったでしょうか? 春日 主催者は2日目に全体講演したオレスケスが主宰している気候問題に対するNGOと、ナオミ・クライン(Naomi Klein)というカナダの有名な社会運動家がいて、『ブランドなんか、いらない(No
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ポスト真実がやってきた! トランプ時代にどう変わる? アメリカの科学と政治(3)

Science Talks LIVE、2016年度最終回となる今回のテーマは、今年1月の誕生以来極度の保守主義やアンチサイエンスで何かと話題に上るアメリカ・トランプ政権。戦後初めて誕生した『科学に興味がない大統領』とも言われるトランプ氏の下でアメリカの科学政策はどう変わるのか。日本や世界の科学の動向に、どんな影響が出てくる可能性があるのか。文化人類学者、科学社会学・科学技術史学者の春日匠(かすが・しょう)氏をゲストに、トランプ政権への懸念と対処についてAAAS(アメリカ科学振興協会)の年次大会で交わされた議論について詳しくご報告いただきました。 2017年2月、AAAS年次大会出席報告 春日 AAASについて、手短にご説明しておきます。AAASはアメリカの科学者たちが分野を問わず合同して、社会に科学を広めていくことを目的にする非営利のNPOです。世界で最も権威のある3種類の科学雑誌の1つ“Science”の出版元として知られていますが、他にも色々面白い試みをやっていまして、その1つに政策フェローシップというものがあります。これは何かというと、ドクターを取った科学者が議員のオフィスや各種の政策機関にAAASの経費で送り込まれて、そこで政策立案の手伝いをします。科学者の側は自分たちの知識がどういう風に社会の役に立つのかを学ぶチャンスになりますし、議員や政府機関からすると科学的な証拠、エビデンスを自分たちの政策に反映させることができる。1973年に始まって、科学者の社会的影響力を非常に高めている制度です。 日本でも福島第1原子力発電所の事故の時、ちょうどアメリカの原子力規制委員会の委員長だったヤツコさん(Dr. Gregory B. Jaczko)という人が有名になりました。彼も元々物理学で博士号を取得した後に、議員のオフィスにフェローシップに行って、こっちの方が面白いからと政治の世界に入った人です。政治の世界に行く人と、1年の任期を終えて戻ってきて科学研究に従事する人、民間に行く人と綺麗に3つに分かれるようで、この分散を期待してやっているようです。 今回行って分かったんですが、こういうプログラムが実は今世界中に広がっています。AAASが宣伝をして、他の国でもやるよういと言っているというのもあるんですが、他の国でもやっぱり政策には科学技術が大事だよねということで受け入れられて、ASEANやイギリスでも行われています。日本でも2007年、2008年ごろからやりたいという話は出ているんですが、あまり巧くは行っていない。政策、立案のプロセスがちょっと特殊で、議員オフィスに博士号を持った人が行っても結局コピー取りだけで終わってしまうというようなことになるのでなかなか展開していかないということがあります。 AAASではこの世界中で行われるようになったフェローシップのプログラムのネットワークのようなものを作ろうとしていて、そのレポート(https://www.aaas.org/GlobalSciencePolicy)がネットに出ているので、もし英語の分かる方は見ていただくと良いかと思います。 こういう活動が何故世界中に広がったかという事なんですが、このレポートの中で強調されているのは、今、持続的開発目標という国連の開発目標がありますが、貧困をなくす、女性の権利というような色々な目標が掲げられていて、どの目標も科学がないと達成できないので、科学者がどうコミットするかを真剣に考えなければならないという風潮が世界的に広まっているということです。持続的開発目標が策定された時にも、世界の科学者団体の上部団体のようなところが国連のレポートを読んで、科学的に見て合理的でない部分、問題がある部分を指摘して国連に返しています。こういうことが今世界的に行われているんですが、日本ではなかなかやれていないということがあって、それが大きな問題かなと思っています。 今回のAAASで他にどんな議論があったかを紹介していきます。 まずこの方が会長ですね、今年から会長になったバーバラ・シャール(Dr. Barbara
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ポスト真実がやってきた! トランプ時代にどう変わる? アメリカの科学と政治(2)

Science Talks LIVE、2016年度最終回となる今回のテーマは、今年1月の誕生以来極度の保守主義やアンチサイエンスで何かと話題に上るアメリカ・トランプ政権。戦後初めて誕生した『科学に興味がない大統領』とも言われるトランプ氏の下でアメリカの科学政策はどう変わるのか。日本や世界の科学の動向に、どんな影響が出てくる可能性があるのか。文化人類学者、科学社会学・科学技術史学者の春日匠(かすが・しょう)氏をゲストに、トランプ政権への懸念と対処についてAAAS(アメリカ科学振興協会)の年次大会で交わされた議論について詳しくご報告いただきました。
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ポスト真実がやってきた! トランプ時代にどう変わる? アメリカの科学と政治(1)

Science Talks LIVE、2016年度最終回となる今回のテーマは、今年1月の誕生以来極度の保守主義やアンチサイエンスで何かと話題に上るアメリカ・トランプ政権。戦後初めて誕生した『科学に興味がない大統領』とも言われるトランプ氏の下でアメリカの科学政策はどう変わるのか。日本や世界の科学の動向に、どんな影響が出てくる可能性があるのか。文化人類学者、科学社会学・科学技術史学者の春日匠(かすが・しょう)氏をゲストに、トランプ政権への懸念と対処についてAAAS(アメリカ科学振興協会)の年次大会で交わされた議論について詳しくご報告いただきました。
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開催報告:ポスト真実がやって来た! トランプ時代にどう変わる? アメリカの科学と政治

日本のサイエンスをもっと元気に、面白くするための先駆的な活動をされているゲストをお招きしてお送りするScience Talks LIVE。 5回目にして2016年度最終回となる今回のテーマは、今年1月の誕生以来極度の保守主義やアンチサイエンスで何かと話題に上るアメリカ・トランプ政権。戦後初めて誕生した『科学に興味がない大統領』とも言われるトランプ氏の下でアメリカの科学政策はどう変わるのか。日本や世界の科学の動向に、どんな影響が出てくる可能性があるのか。文化人類学者、科学社会学・科学技術史学者の春日匠(かすが・しょう)氏をゲストに、トランプ政権への懸念と対処についてAAAS(アメリカ科学振興協会)の年次大会で交わされた議論について詳しくご報告いただきました。
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「科学館を新しい公共の場に。市民対話を促す仕掛けをつくろう」、というお話。〜未来研究トーク2017の記録(1)〜

みる・きく・わかる、はなす場所としての科学館 江東区青海(お台場)にある『日本科学未来館』。2001年7月の開館以来今年で17年、見学者、研究者など年間およそ100万人が来館し、今年秋には世界各地域の科学館ネットワークとステークホルダーが一堂に会する『世界科学館サミット(SCWS)』を主催するなど、サイエンスコミュニケーションのハブとして日本国内のみならず世界からも注目される存在に成長してきました。
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研究関係のデータの読み方について(河野太郎議員への公開討論記事4)

サイエンストークスでは、科学技術予算について研究コミュニティに疑問を投げかけている河野太郎議員への公開討論記事を募集中。掲載第4弾の投稿者は、鈴鹿医療科学大学長(元三重大学長)・豊田長康(とよだ・ながやす)氏。皆さまからのさらなる記事へのコメント、異論・反論、別の角度からの投稿をお待ちしています。
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河野太郎議員に提案する、日本の研究環境を大幅に改善するたった2つの方法(河野太郎議員への公開討論記事3)

なぜ、研究費の総額が増えている(よう)であるのに、多くの研究者は疲弊し研究実績の総量は減っていっているのか?この問題意識を河野議員を始めとする行政に関わる方々に持っていただくことが大切だと思います。そして、実はその答えは、(少なくとも研究者にとっては)既にかなり明らかなことであって、既に議論されつくしていることであるともいえます。その答えに基いて対策を考え、国の科学技術政策を動かしていただくことが大事だと思います。ここでは、この問題に対する答えと、2つの具体案を提案させていただきます。
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職員数増加の妥当性はその背景を考慮して解釈すべき(河野太郎議員への公開討論記事2)

河野太郎氏から、平成16年から平成28年にかけて国立大学の職員数が2万4千人近く増加しているとの指摘がなされた。私は、この数値を解釈するにあたって以下の三点の背景を考慮する必要があると考えている。それはすなわち、(1)法人化以前の国家公務員定数削減、(2)法人化以後の業務拡大、(3)常勤/非常勤・職種の内訳、である。
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科学政策の議論は、データに基づいた科学的アプローチで行うべき(河野太郎議員への公開討論記事1)

予算の綱引きに関する議論において最も改善が望まれる点は、1)データの取り扱いを適切に行うことと、2)データを用いて自説を強化するのではなく、データに基づいて議論するという姿勢である。
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衆議院議員、河野太郎氏への公開討論記事を募集します

先日から衆議院議員、河野太郎氏が研究コミュニティに向けて「研究者の皆様へ」というタイトルでブログを使った意見募集を開始しました。テーマは研究費。端的に説明すると河野氏が提起しているのは「研究者や大学は基礎研究費が削られてるなんて口々に言っているが、実際のデータをみるとむしろ政府の基礎研究費は横ばいか増えているじゃないか。どういうことなんだ?」という疑問。このテーマに関心のある多くの皆さんが河野氏の連投ポストをフォローしているか、実際に意見や情報をご本人に提供しているかもしれません。
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