【衆院選2017】科学技術政策アンケート 制作者コメント
- Science Talks LIVEイベント報告日本語記事
- October 19, 2017
2017年衆議院総選挙に向けた、科学技術政策に関する各政党宛て公開アンケートの結果がまとまりました(まとめ記事はこちらから)
各政党からの回答について、アンケートの設問制作に関わったSSA、日本の科学を考えるガチ議論、サイエンストークスのメンバーがコメント、解説します。
※本記事に記載された内容は、あくまで投稿者個人による意見であり、サイエンストークス一団体としての意見を反映しているものではありません。また、特定の党への加担、批判をするものではなく、あくまで科学技術政策の面からの回答への批評であることを事前にお断りいたします。
【衆院選2017】科学技術政策アンケート 各政党の回答を公開≫
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田中智之(Satoshi Tanaka)
岡山大学大学院医歯薬学総合研究科
生体応答制御学分野 教授
マスト細胞を中心とした炎症応答のメカニズムを研究。「日本の科学を考えるガチ議論」スタッフ。研究公正に関するwebサイト「誠実な生命科学研究のために」を運営している。[/aside]
[voice icon=”https://sciencetalks.org/wp-content/uploads/2017/10/tanaka_sq.jpg” name=”田中” type=”l”]アンケートの設問の立案に関わったところを中心にコメントいたします。
科学技術予算の増額については、与党を含め全ての回答が肯定的です。国会では議論の余地がなさそうなのですが、一方でこれまでの予算の推移は国外と比較して控えめです。政党の回答と現実との相違からは、財務省という重要なプレイヤーの影響が浮かび上がります。自民は官邸主導を強調しており、成果が予想しやすいものを重視するという方針は維持されそうです。科学研究に関わる人材育成についても、いくぶん積極性に欠けるという印象を受けます。与党の回答では卓越研究員制度への期待が伺えますが、これは多くの研究者の実感からは乖離しているかも知れません。基礎研究の振興こそが将来のイノベーションにつながるという、研究者に近い意見を表明しているのは共産です。
大学改革における職能教育重視の流れですが、見直すという意見は共産のみです。与党は従来通り、「各国立大学が強み・特色を活かし、自ら改善・発展する仕組み」という文言を繰り返しています。財政的に何かを主体的に構想するだけのゆとりがないことや、既に教員の人員削減にまで踏み込んでいることといった国立大学の窮状は十分に共有されていないように思います。国大協は、国立大学の現状を伝える努力をする必要があると思います。
研究不正問題について第三者機関の設置に賛同しているのは、維新、共産、立憲民主の三党であり、共産は競争的な研究環境の見直しという、より踏み込んだ回答をしています。一方で、与党は、倫理教育やガイドラインの整備を通じて既に対応を強化しているという認識で、機関設置には無回答でした。こちらは、文科省というフィルターが一枚入った形で情報収集している与党と、直接情報を得ている野党との違いが反映しているのではないかと思います。
聡明な官僚といえども変化の大きな環境では結果として失敗することがあります。しかしながら、一旦策定された方針はなかなか撤回されず、傷口を広げることがあります。近年の国立大学改革や科学技術政策はそうした事例のひとつではないでしょうか。ノーベル賞受賞者が基礎科学の振興をいくら訴えてもそれが政策につながらないことは、研究者と官僚との間の断絶を物語るものです。一般の市民が政策に意見を反映させる機会のひとつは選挙ですが、こうした公開アンケートが継続していて、また政党のみなさまが回答を寄せられていると言うことは大変素晴らしいことです。
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宮川剛(Tsuyoshi Miyakawa)
藤田保健衛生大学 総合医科学研究所
システム医科学研究部門 教授
遺伝子改変マウスの表現型解析を通じて、遺伝子・脳・行動の関係と精神疾患の発症メカニズムを研究。研究者の視点から研究環境の向上にかかわるさまざまなシステム改善への提言を積極的に発言。サイエンストークス委員を務める。[/aside]
[voice icon=”https://sciencetalks.org/wp-content/uploads/2016/08/miyakawa-150×150.jpg” name=”宮川” type=”r”]
どの党からの(与党も含めて)ご回答も方向性は概ね一致しており、極めてリーズナブルな結果を得ることができた、という印象を受けました。
たとえば、自民党はさすがに政権を担われているだけあって、選択肢の選択にはかなり慎重な姿勢を見せられていますが、「自民党の方針としては、科学技術イノベーションを支える人材力を徹底的に強化します。」という言葉がもし本当であれば、たいへん素晴らしいことですし、(科学技術関連の人づくりを中心的な柱の一つとして追加することが)「「人生100年時代の制度設計特命委員会」での検討課題のひとつになる可能性があります。」とか、「科学技術イノベーション活性化小委員会は、「研究開発力強化法」の改正に向け、国の資金配分機関が行う公募型研究開発の基金化について検討する見通です。この中で、基金対象の拡大を含めた研究費の制度改革について検討していきたいと考えています。」などともおっしゃっており、「その他」の欄に記載の文言は概してとても前向きです。
科学技術政策を各党からのご回答にあるような方向性で進めていただければ、様々なことが改善に向かう可能性が高いでしょう。問題は、実際にそのように進めていただけるかどうかですね。各政党のこのような選挙前の方針を、今後、研究者コミュニティや科学技術が日本を支えると信じている人たちが、後押しして実際に実現していただくことが大事なのではないかと思います。
メジャーな党で唯一ご回答をいただいていないのは、希望の党ですね。科学技術に関して見識のある議員さんも参加されているはずですが、結党直後で準備が整っていないのかもという榎木先生ご指摘の可能性の他に、(これまでの報道から推測しますと)党からの情報発信が代表のトップダウン的管理になっており、フレキシブルな情報発信をしにくい状態になっているという可能性があるのかもしれません。立憲民主党からは、同様な状況でもきちんとしたご回答をいただくことができたわけですが、このあたりの違いは党首の方針が影響しているのかもしれません。
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湯浅誠(Makoto Yuasa)
カクタス・コミュニケーションズ株式会社
代表取締役
サイエンスを元気で面白くしたい個人が集まるサイエンストークスに立ち上げから関わる。学術出版社・ジャーナル、大学・研究機関、研究者に向けたコミュニケーションサポートを展開するカクタス・コミュニケーションズ代表。[/aside]
[voice icon=”https://sciencetalks.org/wp-content/uploads/2016/05/IMG_5972-150×150.jpg” name=”湯浅” type=”l”]
既に榎木さんをはじめとして、皆さんが各政党からの回答を比較されているので、私は少し違う角度から意見を述べたいと思います。
いわゆる選挙の際に各政党が発表するマニュフェストはそれぞれが時代に応じて必要だと思う事や、やりたいと考えている事なので、科学技術政策云々の前に、是非こちらをご覧になり、政策の基礎を確認してみてください。特に今回の選挙では右だ、左だ、真ん中だとか言われていますが、真向から意見が全てぶつかっているのは自民党と共産党(本アンケート調査でも同様の結果です)ですが、実の所本当に意見が違うのか、パフォーマンスなのかは各有権者が見極める必要があると思います。マスコミを通じるとバイアスがかかるので、今回アンケート調査のように一次情報を見ていくことが今まで以上に求められています。
それを踏まえて我々が依頼した調査結果をご覧ください。一通り読まれると何となく政党の考え方がわかると思います。自民党は現政権で国家運営を担っているので、当然今行っている事の延長を行うと回答されます。逆に自民党と考えが全く異なる共産党は基本反対または全く違うコメントをされています。それはさながら自民党の回答を見てからコメントを用意された感じですが、実際は共産党さんから先に回答をいただいています(笑)
今まであまり取り上げられてこなかった幸福実現党は国防に積極的で今回も1-cで明確に回答されています。続く1-dでも国防に近い分野を重要課題をされています。日本維新の会は前回行ったアンケート調査の時と比べ、だいぶ研究者依りの政策を打ち出されている印象を受けました。これは何が原因なのか?考えが変わったのか?1年3か月前の調査ですが、皆さんには是非こちらも参考にしていただければと思います。
毎回(恐らく今後も)ぶれないのが共産党です。有権者はどの政党が自分の思想と一番近いかを考え、自分で決める時間を作る事が、テレビのコメンテーターに頼るより、重要です。ただ理想と現実はいつも違うので、「この政党は本当に現実を理解した上で言っているのか?」「もし政権を担ったらしっかり政策実現できるのか?」「その発言は有権者を喜ばせるためだけではないか?」を考える必要があります。国家予算はあり得ないほど酷い状況で、どれほどカットしようが社会保障費は増えていくので(これは今の国勢調査を見ると明らか)、科学技術予算の増額と謳っても現実的にはかなり厳しいと思います。なので限りある資源をどう有効的に使うか、またどこかに重点的に予算をつければ、どこかが泣くのは明らかなので、根本的な問題を解決するために、どれほど痛みの伴う決断を下せるか。その過程でアイディアが骨抜きにされないか。各政党の全体的なマニュフェストから、科学技術政策をどう捉えているか、プライオリティ、そしてこの分野に長けている政治家はいるか?などを考えてみてください。
我々のアンケート調査もあと数回経験したら、実際に各政党からいただいた回答が実際に実施されたか、またはしそうかもしっかり皆さんに伝え、評価もできると思います。しばらく先になってしまいますが、今後も是非watchしてください。
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