「『ニッポンの研究力』を真に上げるためのアイディア 」
熊本大学学長・谷口功氏インタビュー(7)
- 日本語記事インタビュー日本の研究ファンディングを考える
- September 19, 2013
【湯浅】 今回ご登壇いただくシンポジウムのテーマは、「ニッポンの研究力を考える~未来のために今、研究費をどう使うか」です。研究費をどう使うか、とあえてあいまいな表現にしているのは、「使う」主体が、国家の研究費を払う財務省でもあり、その決まった費用を配分する文部省でもあり、費用を受ける大学、研究室、そして個人の研究者でもあるからです。
この研究費を取り巻く環境を改善するために、これから国が、大学が、または研究者一人ひとりができる改善提案やアイディアがあればお聞かせいただきたいのですが。
【谷口】 まずは、基盤的な研究費と競争的な資金との割合の再検討が必要です。どちらか一辺倒ではだめで、基盤的な研究費として、然るべき研究成果を出している研究者には、光熱費、図書経費等の研究ユーテイリテイー経費とは別に、少なくとも生命系や理工系、それに人文社会系のいわゆる実験系の教員には、年間300万程度が支給出来るようにすることだと思います。
【湯浅】 つまり先ほどおっしゃっていた「最低限の生活費」としての研究費を、年間300万ということですね。実に具体的なご提案ですね。
【谷口】 そうです。その上で、競争的資金を、課題を絞って公募し選定する。課題の大きさによって、経費の多寡は決定されるでしょうから、競争的な資金は大きなお金をもらう者があって問題ないと思います。
【湯浅】 今回の登壇者の宮川先生は、この競争的資金については評価システムを変えて1年を超えて持ち越し可能に変えなければだめだと主張しておられますが、評価についてはいかがですか?
【谷口】 もちろん経費に見合った成果を短期的な視点と長期的な視点で評価して、研究支援を行うことが必要です。支援期間は、3年、5年、10年のもの等、研究費ともあせて多様に設定するのが良いと思います。但し、5年ものは中間で、10年もの少なくとも3年毎に評価することは必要です。
【湯浅】 基盤的な研究費、競争的資金の支給はいわば種まき的な研究費の分配方法ですが、たとえば先日発表された研究大学選抜やiPS細胞研究、エネルギーや医療、安全にかかわる研究など、国からどかんと大きな研究費をつけるケースはどうでしょう?
【谷口】 国家的な差し迫った研究については、研究テーマ毎に研究者を公募して、一時的に大学等から国の研究機関等に集めて一定機関研究に専念する制度を導入するのが良いと思います。この場合、研究成果を毎年きちんと評価し、結果を公表することが必要です。
【湯浅】 なるほど。大学や研究機関単位で研究費をつけるのではなく公募で、ですか。新しいですね。共同研究機関を設けて人材を集めるというアイディアは、別の登壇者の中部大学 飯吉総長も同様のことを言っておられました。
【谷口】 研究予算に関して言えば、民間の研究経費を除いて、例えば、我が国のGDPの0.5%、大型基礎研究を含めて総額2兆5,000億円を大学等の「基礎」研究機関と呼ばれる研究機関にあてるようにするべきです。研究の選択と集中においては、基盤的な研究費は手当てした上で、推進する。研究者の評価は、いくつかの指標を明確にして評価結果を公表する。理系の評価は比較的簡単です。
「基礎研究」においては、その目指すところ、つまりなぜその研究が必要か、その想定するゴールは何かと、その研究ができれば何が変わるのかといった研究の重要性を明確に社会に説明することと、年度毎の進捗状況を公開することが必要です。
【湯浅】 かなり具体的なアイディアをお持ちで、非常にクリアでわかりやすいです。