「独立系研究者」ってなんだ?!(2)

「独立系研究者」ってなんだ?!(2)

Science Talks LIVE、第1回のトークゲストは独立系研究者の小松正氏。大学の研究者でもなく、理系企業の研究開発ポストでもない、研究機関と直接個人契約を結んで研究に参画する「独立系」という第3の働き方とは? 独立の経緯から実際の研究の進め方、成果まで詳しくお話を伺いました。

必要なものは“人脈”、魅力は自由度の高さ

小松 学部からポスドクまでの研究対象は生物学の中でも昆虫で、特にアブラムシの仲間でした。分類から生態、形態まで、色々なことをやりました。
東京に来てからは、行動判別センサーや、生き物の体につけるデータロガー(計測器)を開発したり、べき乗則という数学的な法則があるんですけど、それを使って会議やSNS上のコミュニケーションを評価する方法を考えたり、政治学の先生と政治学の先生と共同で、選挙ポスターの候補者の顔を生物形態測定の技術を使って分析して、候補者の笑顔の度合いが有権者の投票行動に影響を与えることを検証したり、色々な予測式を使って、気象などの環境因子を例えば喘息の予防に役立てられないか、下水の温度を予測することが出来ないか検討したりと、色々なことをやりました。この辺りはご要望があれば、後で詳しくしゃべります。助成金の類をなるべく取得するようにということで、経営者の方々と相談しながらやってきました。
どんな風にして仕事を取ってくるかですが、基本的には個人的な人脈の延長や口コミでオファーを頂くことがほとんどです。独立して12年目になって、全く知らない方から、いきなり連絡を頂いたということも、この2、3年で少しずつ出てきましたが、今も大抵個人的な知り合いと、その延長ということです。自分の会社に頼れる人がいないから、ちょっと相談に乗って欲しい、よくわからないことがあるから相談したい、そういう感じです。そもそも良く分かることだったら、相談する必要もないですよね。このプロジェクトはここが分からなくて、これはこういう専門分野のことだから、この大学のこの先生に連絡しよう……という判断ができる状況なら私に相談する必要はない。あまりよく分からないけど何となく生き物に関係ありそうだとか、ややこしいデータの分析が必要そうだというときに、取りあえず私に質問しようと、そういう発想でご連絡いただく場合が多いです。
一方私の方としては、そういうオファーが来た時にどんなことを意識するかというと、私の専門分野である生物学とかデータ解析が、相談されてきた方が経営者の方なら利害、大学研究者の方なら学術的な興味とちゃんと関係がありますよということを理解していただく必要がありますから、やりとりしながら相手の方のお仕事の内容や興味関心について情報収集して、そこと関係づけながら説明展開していくようにしています。一見すると関係がないように見える事柄も、実は関係あるんだよと相手にうまく伝えるようにしているということですね。
働き方、収入については、独立していても助成金や科研費の申請は大丈夫なものなんですかと時々質問されるんですが、私の場合は客員や非常勤という形で大学とも関わりがあるので、その関係で研究者番号は持っていて、一通りの助成金には応募できています。形式的な肩書はどうなっているかというと、小松研究事務所の名前のままプロジェクトに参加することや、公の記録に研究事務所の名前が出ることもないわけではないですが、特に大型のプロジェクトでは複数の役所や企業が参加するので、参加企業の1スタッフとしての肩書を一時的に貰える場合も多いです。

独立することのメリットは、自由度が高いというのが一番なのかなと思っています。私の他にどういう人がいるかというと、以前これもあるシンクタンクの研究に関わった時に仕事として調べたんですが、例えば数学の森田真生さんという方は、講演や執筆で生計を立てながら、研究機関には所属せずに研究活動をされています。数学と聞いた時には学習塾をイメージしていたんですが、そうではなくて大人向けの、社会人を相手に学術的に興味深い内容を説明することで、人が集まるらしいんです。それから私と同じく北大出身の生物の方で、クマムシの研究をされている堀川大樹さん。大学のポジションを持ちつつ、講演・執筆、メールマガジン、クマムシをモデルにしたキャラクターグッズの販売などを通して、研究資金はほとんど自分で稼いでいる。
独立系研究者に対する社会的な関心も、最近は増してきているような気が私はしています。少し古くて9年前になりますが、JMA(日本能率協会)が発行している『JMAマネジメントレビュー』という経営関連の専門誌があるんですが、そこのインタビュー記事で『研究を請け負います』という、独立系研究者としての仕事の在り方をお話しさせていただきました。このときのインタビュアの方は元々知り合いの方だったのでそのご縁で機会を頂けたのかもしれないですが、その後13年の秋には、政策研究大学院大学で毎年行っているSmipsという、知的財産マネジメントの研究会があるんですが、そこの「研究現場の知財」に関する分科会で独立系研究者の生き方というテーマで話をさせていただきました。広く一般に対して、多くの人の前で自分の仕事について話をさせていただいたのはこれが最初です。
その後ほどなく「リサーチア」という、丸(幸弘)さんの会社、リバネスさんがWEBで公開されている雑誌のような媒体で、対談記事として話をさせていただきました(https://lne.st/2014/02/26/10329/)。大学の講義としても、最近は科学技術コミュニケーションが大学のカリキュラムになっている場合があって、出身の北大にも10年ほど前に、CoSTEPという科学技術コミュニケーションの認定コースができました。そのカリキュラムで「多様な立場の理解」という項目があって、立場の1つとして独立系研究者の私にも声がかかって、北大で一度講義をさせていただきました。つい最近、今年(2016年)の7月には、マイナビニュースで科研費の特集が組まれた時に記事の1つとして私のインタビューも載せていただきました。マイナビニュースなので研究とそんなに関係のない人も目の当たりにするものになります。
最後になりますが、独立系研究者が何故生まれたのか、今後どうなるのかというところを考えてみますと、研究関係者の方は大体皆さん実感しておられると思いますが、今の日本は学術研究の公的リソース、つまり資金や資源はかなり頭打ちになっていて、簡単には増えないだろうというのが共通認識としてありますよね。一方、社会全体では雇用形態が変わってきて、多様化したり非常勤化したりしています。オンラインツールの普及で個人でもできることが増えてきていますし、オープンサイエンスも広がってきて色々なものがオープンになっている。
研究する立場で言うと、さまざまな学問分野間の関連が深まっていて、生物学の私でも、例えば数学や情報科学、社会科学と繋がりやすくなったと実感しています。私の仕事のやり方では、私自身の興味関心や専門分野と、オファーのあった既存プロジェクトをどのように関連付けていくかが大事なんですが、それが昔よりやりやすくなっているという実感です。学会の方にも変化があって、ニコニコ学会βのようなちょっとユニークなものができたり、研究資金獲得のための学術系のクラウドファンディングが生まれたり、色々な方が色々なことをやってくれるようになっています。そんな次第で、今後独立系研究者というのは現実的な選択肢の1つになり得るのではないかというのが私の予想です。おおざっぱではありますが、独立系研究者とは何なのかという話は一旦ここで止めさせていただきます、ありがとうございました。

次記事を読む≫

このテーマの記事一覧

  1. 研究相談からアドバイザー契約へ、「独立系」へ至る道
  2. 必要なものは“人脈”、魅力は自由度の高さ
  3. クロストーク その1:依頼から成果発表まで、企業と研究者の相利共生
  4. クロストーク その2:独立系研究者に向く人、向かない人
  5. クロストーク その3:一見関係ないテーマ、でも…? テーマと自分の興味を“繋ぐ”
  6. フロアディスカッション その1
  7. フロアディスカッション その2
  8. フロアディスカッション その3(終)

Related post

未知の物質 ダークマターを宇宙ではなく身の回りで見つけたい

未知の物質 ダークマターを宇宙ではなく身の回りで見つけたい

この広大な宇宙は多くの謎に包まれています。その未知の存在の1つが『ダークマター』であり、銀河の回転速度を観測した結果などから、その存在のみが証明されています。安逹先生は宇宙でもなく、身近な場所で、そして、加速器すら使わずにダークマターを見ようとしているのです。いったいどのようにしてダークマターを見つけるのでしょうか。ぜひ、その驚くべき手法とアイデアを動画で確認してみてください。
チベットの研究を通して見えてきたもの

チベットの研究を通して見えてきたもの

自分自身のしたいことを貫いて進んできた井内先生だからこそ見える世界、今後、チベットの研究をより多くの方に知っていただく活動にもたくさん力を入れていくそうです。これまで歴史の研究について、そして、チベットのことあまり知らないという人にもぜひとも見ていただきたい内容です。
チベット史の空白を明らかにしたい 日本のチベット研究者

チベット史の空白を明らかにしたい 日本のチベット研究者

0世紀から13世紀頃までのチベットでは、サンスクリット語からチベット語に膨大な数の経典が翻訳され、様々なチベット独自の宗派が成立したことから「チベットのルネッサンス」と呼ばれますが、この時代について書かれている同時代史料がほとんどありません。この「チベット史の空白」を明らかにしようと、日々研究されている京都大学白眉センター特定准教授の井内真帆先生にお話を伺っていきます。

Leave a Reply

Your email address will not be published. Required fields are marked *