「独立系研究者」ってなんだ?!(7)
- Science Talks LIVEイベント報告日本語記事
- November 8, 2017
Science Talks LIVE、第1回のトークゲストは独立系研究者の小松正氏。大学の研究者でもなく、理系企業の研究開発ポストでもない、研究機関と直接個人契約を結んで研究に参画する「独立系」という第3の働き方とは? 独立の経緯から実際の研究の進め方、成果まで詳しくお話を伺いました。
フロアディスカッション その2
質問者D 例えば小松さんだったらデータマイニングや形態測定のような特定の技術を使って独立していらっしゃるわけですが、世界の独立系の研究者の方々はそれぞれ特定の技術を持ってオリジナルなことをされているという理解で良いんでしょうか。それともこういう分野の技術を、皆持っているというような状況なんでしょうか。
小松 それは私以外の、海外の独立系研究者についてでしょうか。
質問者D そうです。
小松 すみません、私も海外の他のIndependent Scientist、Independent Researcherの方がどんな仕事のスタイルなのかはにわかに分からないんですが、恐らく日本と比べると欧米の方が、個人で主体的に仕事をしていらっしゃる方々が、研究者に限らず多くいらっしゃるので、多分日本より多様なんじゃないかと思います。色々なスタイルの方がいらっしゃると思いますが、私も興味があるのでちょっと調べたいと思います、ありがとうございます。
小山田 補足します。私も海外の方と幾つかお付き合いがありますが、アメリカの例で言うと、名刺に技術コンサルタント、テクノロジーコンサルタントみたいな肩書を持っている方がいらして、実際に何をやっているのかと訊いてみたことがあります。やっぱり企業と契約を結んで、そこはコンサルタントなのでコンサルティングをしているという話で、元々研究者だった人がそうなることもあるそうです。契約の仕方も面白くて、国の機関にも肩書を持っていたりして、これこれのプロジェクトのチームのメンバーですというような感じで、自分の技術コンサルタントの名刺の他に2枚3枚と名刺を持っていたりします。1週間のうち2日は国の研究所の職員として働いていて、守秘義務も当然あって、詳しい話はできないけれども、凖国家公務員的な立場、待遇を受けている。残り3日は独立で、例えばA社でコンサルティングをしているというように、契約の仕方も法律も凄く多様なんです。
小松 欧米だと常勤とか副業禁止みたいな発想があまりないので、逆に独立系研究者が目立たない可能性はあります。日本で独立系の研究者が目立つのは、常勤の働き方が中心で副業はあまり一般的ではなく、働き方の多様性が乏しいからかもしれません。周囲の状況が根本的に違う感じがします。
小山田 今、日本の大学でもクロスアポイントメント(大学や研究機関、企業の壁にとらわれず、複数の組織で研究ができる制度)が言われていますが、基本的にはA大学とB大学の間、A大学とC研究機関の間というように、公的なところ同士でのクロスアポイントメントが多くて民間との間ではまだ少数です。勿論もっと幅広く、独立系研究者を含めることもできるし、先ほど女性の話も出ましたが、例えば育児で一旦職を離れても、もう少しお子さんの手がかからなくなったら週3日くらい研究所に行くというような、そういうことが本当はもっと進んでいいと思います。
小松 例えば看護師さんとかが典型だと思いますが、一度結婚して子育てのために退職しても、手に職があればまた復帰しやすいとかよくありますよね。高度な専門職、高度な技術を持っている人は潜在的にそういう働き方もしやすいはずです。
私が自分の事務所の名前を小松研究事務所に決めた時にも、自分の働いているスタイルは何なんだろうと色々考えた時に、例えば弁護士や税理士、公認会計士のような文系の資格を持っている方々は、自分の専門知識で個人事務所を開かれているわけですよね。研究者には確かに少ないスタイルですが、やろうとしていることは実は似ていると気がついて、それで小松研究事務所という名前にしたんです。潜在的にはそういう文系の、士業の人と同じような働き方が可能だろう、と。女性にとっても働きやすいと思いますし、男性にとっても今後、ライフスタイルの多様性という意味で、こういう形も広まって行くような気がしています。
小山田 そうですね、他にご質問はありますか。
質問者E ありがとうございました。ご自宅なり事務所なり拠点があるかと思いますが、それ以外にどのような場所でご研究されているんでしょうか?
小松 自宅と外出がだいたい半々くらいですね。デスクワークであれば、今の時代ネットも全部つながりますから、基本的に自分の自宅兼事務所で完結します。実験や調査のデータ収集には機材が必要なので、しかるべき場所に出向いて行います。クライアントとの打ち合わせも、私の事務所よりは先方のオフィスで行うことが多いです。
質問者E ありがとうございます。もう1つ、質問ではなく感想なんですが、今日この会に参加させていただくにあたって、士業というキーワードが1つあったと思うんです。弁護士先生のような、それと同じような働き方をご紹介できるんじゃないかと。私もいつもそういう意識で実はいて、博士というのは『士』であって士業だと思っているんです。士業のカテゴリに博士を入れていただければ、「ポスドクだけどぷらぷらしている人」というようなイメージがなくなって博士の評価がワンランク上がるんじゃないかと思うので、そうなるようにこの先うまく世間が変わると良いと思います。
小松 日本のポスドク問題のややこしい点は、正社員雇用、正社員が正しい働き方だという価値観と根本的に折り合いが悪いからなんですよ。30歳くらいでドクターをとって、民間企業への就職は簡単ではないし、周囲からも色々言われるというときに、独立開業という選択肢があれば、状況が一気に改善される可能性はありますよね。個人でもやっていけるというのであれば、会社に入る必要はないわけですから。会社に入らないと、自分個人で研究するのは難しいという人に対しては、今日の私の説明が答えになるんですよ。大企業のプロジェクトには社員でなくても、業務委託を受けて契約社員として参加できますよ、という。
質問者E 法律事務所でも、弁護士の先生ごとに法律のいろんな専門分野があって、大きい事務所なら全体を網羅しているかもしれませんが、個人では民事の人、刑事の人と色々あると思うので、研究者でも物理の人、生物の人というように色々出て来ると面白いですね。
小松 専門分野の違いだけではなくて、ライフスタイルの違いもあっていいんです。弁護士資格を持っているからといって、皆が弁護士事務所を開業するわけではなく、会社の法務担当のように会社員の立場で働く人もいますよね。何度生まれ変わってもやっぱり会社員の方が向いているという人も世の中にはいるじゃないですか。何もそういう人に無理をしていただく必要はないわけで、会社員をやっていただけばいいんです。でもそうではないというタイプの人にとっては、選択肢が多様になることは大事だと思います。
質問者E ありがとうございました。
質問者F 大変興味深いお話をありがとうございました。最初の方のお話で、大学の問題点に気づいたり、見聞きされたというお話がありましたが具体的にはどういうことがあったんでしょうか。
小松 私の専門分野に関係が深い話としては、私が大学に入学したのが1985年、大学院は主に90年代なんですが、生態学や進化生物学の分野にいわゆる数学的な手法が導入されて、研究のやり方が仮説検証型に変わったのが70年代くらいなんですね。90年代にもなると、若手の人ではそれが当たり前なんですよ。ところが、そういう動きが始まったばかりだった70年代に20代、30代の大学院生だった人の中には、うまく導入できなかった、ついていけなかった人もいた。その人たちが、年代的にちょうど教授になっていたりして、肩書と権限と、新しい手法に対する理解の度合いが逆転するということになったわけです。そうすると世代間の対立が起きます。新しい世代は新しい手法を導入して、海外にもどんどん論文を出していく。それに対して昔ながらの人は、伝統的な方法は大事だみたいな、先輩ぶったことを表向き言ってきます。そういう世代対立が私の専門分野ではかつてあったらしく、その余波のようなものが、自分の上の世代あたりで時々見えていました。
どの学問分野でも、大きく変化するときはそういうことがあるんです。新しいアプローチがいち早く導入できるか、時間がかかるか。いずれは変化するんですが、日本の場合は大学の講座制などのシステムの影響もあって、そのときの上の立場の方々の考え方によってははなはだしく時間がかかる場合もあるというあたりが、大学の1つの構造的な問題だという気がしました。
あとは、大学の先生も学生も要は研究者なんですが、大学って研究者以外の、事務方の人がいますよね。私がいたのは法人化前の国立大学だったんですが、当時の国立大学は名実ともにお役所で、研究者よりむしろお役人の方々のルールの方が、場合によっては影響力があったような場面を少なからず目の当たりにすることがありました。研究者中心的なスタイルとはちょっと違うんだなという、その辺りも私の好みとはちょっと調和しがたいところがあると考えた。もう1つ、教員の人事システムも、今は大分よくなっていますが、当時そこにも問題があって少し気にかかりました。特定の研究者としてという話ではなく、一般論ということでご理解ください。お願いします。