「研究をやらなくても問題のない日本の大学」

藤田保健衛生大学・宮川剛教授インタビュー(2)

「研究をやらなくても問題のない日本の大学」
今回のScience Talks-ニッポンの研究力を考えるシンポジウム、第1回大会「未来のために今研究費をどう使うか」、登壇者インタビューでトップバッターを切るのは、藤田保健衛生大学総合医科学研究所システム医科学研究部門、宮川剛教授です。
国内の脳科学研究でトップを走る宮川教授は、研究のかたわら第36回日本分子生物学会年会が主催する「日本の科学を考えるガチ議論」で今の日本の研究評価システムと、それを基にした研究費分配システムについて、まさにガチで国に問題提起をする活動をされています。


【湯浅】
アメリカと日本の大きな違いってどういったところでした?

【宮川】 大きな違いを1つ挙げるとすれば、アメリカでは「研究を行う」ということが大学・研究機関のまっとうな仕事として認識されていることです。資本主義的な枠組みの中で、研究がきちんとした仕事になっています。研究者が取得する研究費(直接経費)の50〜100%くらいが、間接経費として大学・研究機関の一種の収入となりますので。

ところが日本の中では、研究というのは仕事い うよりもどうも「趣味の領域」で。大学の先生が趣味として行なっていて、その趣味にお金を出してあげているんだと、そんな感じなのですね。日本では間接経費の割合も30%と小さく、用途も限られていて、かつ年度をこえた繰越しが極めて行いにくい。ですので大学の経営にとって、研究者が研究費を取得してきてもそれ程ありがたくはない。大学にとってはむしろ面倒な仕事が増えるだけ。そこがやはりかなり大きな違いではないでしょうか。

アメリカでは研究者は研究を仕事として、生業(なりわい)としてやっていて、それは研究者だけの個人的な問題ではなく、「研究費を取得してくる」ことが大学や研究機関の存続とか成り立ちに必須になっています。間接経費が経営を支える重要な収入源になっていますので。そこがもう明らかに違いますね。向こう(アメリカ)はもう真剣です。仕事ですので。

【湯浅】 それは日本の国全体として、そういう感じがするのですか? 研究者は趣味でやっているのだから、こっちはそれを助けてあげるんだっていう雰囲気があるような。

【宮川】 そういう感じはありますよね。でも雰囲気的なもの、文化的なものだけではなくて、仕組みそのものがそうなってしまっているわけです。システムがそうなんですよね。

【湯浅】 システムですか。

【宮川】 別に研究をやっても、それで収入が増えるわけではないですよね、日本の研究者は。大学・研究機関も、それで収入が増えるわけではない。だから、日本では研究はある意味で「仕事」ではないのです。正直言って。

【湯浅】 確かにそうですよね。普通仕事はやればやっただけ見返りがくるものですからね。

【宮川】 はい。ですので、研究は一応やるだけという姿勢になってしまう。仕事の内容には一応書いてあるのかもしれないですけれども、一旦大学のパーマネント職を得てしまいさえすれば、やらなくて全く問題ないですので。

【湯浅】 やらなくても全然オッケー…ですか。

【宮川】 大学の研究者というのは、いったん教授などの終身雇用職についてしまいますと、研究を行わなくても全く問題ないわけなのです。

【湯浅】 ええ!

【宮川】 ぜんぜん問題なしです。

【湯浅】 ほんとですか(苦笑)

【宮川】 大学に授業の時など以外はほとんど来なくても大丈夫な場合もあります。大学の人文系の学部にはあまり大学に来ない先生が普通にいらっしゃいますしね。教授になったあとには、査読付きの論文をほとんど出していないような先生もいらっしゃいます。

【湯浅】 それはシステムが研究成果を出しただけ何かがよくなるシステムになってないからですか?

【宮川】 そういうことだと思います。

【湯浅】 極端な話、がんばっている人もそうでない人も、教授であれば、みなおなじような報酬を出していて、国からもなんとなく研究は趣味でやっているんだろうって思われているところがあると。

【宮川】 はい、そういうことだと思います。

【湯浅】 教授職が成果性でない安定職である、一方で、ポスドクの方が安定した職につくことができない、それでみなさんすごく困っているっていう現実もあるわけですよね。

【宮川】 まさに、そういうことかと思います。

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