「ウィン・ウィン関係を作る、研究費の効率的な使い方」
藤田保健衛生大学・宮川剛教授インタビュー(4)
- インタビュー日本の研究ファンディングを考える日本語記事
- August 16, 2013
今回のScience Talks-ニッポンの研究力を考えるシンポジウム、第1回大会「未来のために今研究費をどう使うか」、登壇者インタビューでトップバッターを切るのは、藤田保健衛生大学総合医科学研究所システム医科学研究部門、宮川剛教授です。
国内の脳科学研究でトップを走る宮川教授は、研究のかたわら第36回日本分子生物学会年会が主催する「日本の科学を考えるガチ議論」で今の日本の研究評価システムと、それを基にした研究費分配システムについて、まさにガチで国に問題提起をする活動をされています。(※以下、敬称略)
【湯浅】研究費の最適化という話では、たとえば同じ大学に2つ類似する研究を行っている研究室があったときに、同じような機材を共同購入して共有したりといった、そういう種類の最適化っていうのもあるのかなと思うのですが、先生の研究室で実際に行われているそういった試みってありますか?
【宮川】はい。私たちはオールジャパンのコア・ラボラトリーっていうのを運営しています。マウスの行動解析施設を作って広く利用希望者を募り、利用を希望する人で条件を満たす人にはほぼ確実に研究施設を開放して、共同研究を受け付けています。
今までに100以上の研究室と、この10年間共同研究をしてきました。たぶん脳科学の中では日本では1、2番ぐらいの共同研究の量です。それは、明らかに研究費の効率的な使用法なのです。
【湯浅】それはすごいですね。
【宮川】それまでは、研究施設や設備は各研究室で自前で揃えていて、素人が上手ではない使い方で、誤った解釈をして使っていたわけなんです。私たちはきちんとプロトコルをプロフェッショナルなものに揃えて、そういう高い水準のものを皆さんにやっていっていただくということを行っています。
【湯浅】解析施設を解放することで、先生の研究室が得るメリットはなんですか?
【宮川】メリットですが、いろんなマウスが研究室にやってきますが、そうすると要は大量のデータを取ることができます。一種のビッグデータみたいなものになります。共同研究で色々な行動のテストをやりますよね、記憶・学習、社会的行動、そして感情、情動など。
それを網羅的に型にはめると大量のデータが取れることになります。大量のデータが取れるとそれはもうひとつの大きな資産になります。まとめて解析できますので。現在では、すでに約10テラ、20テラ分のデータになっていると思います。
【湯浅】そのデータって共同研究する上で、たとえば先生と私がっていう場合だと、両方でそのデータを共有できるんですよね。
【宮川】そうですね、共有できます。私たちは支援的共同研究という位置付けで行なっていますので、解析をされていかれる方々が自分たちの論文にそのデータを使うのが基本ではありますが。
【湯浅】つまり、先生のところの施設を使わせてもらうという感じですね。
【宮川】そうです、我々が支援するということです。だけど、マスとしてのデータ解析はさせていただきます。その系統のことはそちらでやっていただいて、マスの何千匹という解析はうちの研究室がさせていただきますという条件です。相互にメリットがあって、ウィン・ウィンの関係になります。
【湯浅】そうですよねえ。
【宮川】これはとても効率的です。私たちの研究室がいくら日本の税金をセービングしたかわからないぐらいですよ。かなりの額をセービングしていますよ、本当に。
【湯浅】そうでしょうね。ほかの大学でも研究室で同じようなことをやられている所ってあるんですかね。
【宮川】同じような設備を持っているところはあります。1セットにつき5千万から1億近くかかりますけど、あるところにはお金があるので導入するのですが、ほとんど使われてなかったというお話を聞いたことがあります。
【湯浅】それって…かなり無駄ですよね。
【宮川】はい。1つ1つの機器がどのぐらい利用されているかといえば、コストパフォーマンスは何十倍、何百倍のレベルで違ったりするわけです。