「研究者評価の『見える化』を阻むもの」
藤田保健衛生大学・宮川剛教授インタビュー(6)
- インタビュー日本の研究ファンディングを考える日本語記事
- August 27, 2013
国内の脳科学研究でトップを走る宮川教授は、研究のかたわら第36回日本分子生物学会年会が主催する「日本の科学を考えるガチ議論」で今の日本の研究評価システムと、それを基にした研究費分配システムについて、まさにガチで国に問題提起をする活動をされています。(※以下、敬称略)
【湯浅】 研究費の分配の問題については、先生は評価に基づいた分配をするべきとおっしゃっていますよね。いま現行のシステムを大きく変えないでも、こういうちょっとした評価システムを導入することによってもう少ししっかり評価できる仕組みにできないものですか。
【宮川】 評価の仕組みは大きく変えたほうがいいと思います。小さいことの積み重ねで少しずつ良くしていこうというような方向性もありうるとも思いますが。
そのうちの1つは、僕が「情報管理」の総説のなかで提案しているように、メトリクス、数値指標ですね。研究のアウトプットについてのいろいろなメトリクスで数値化することです。数値化にはいろいろな方法があると思うのですけれど、メジャーなものは引用数を基にしたものだと思います。そういう数値的な指標を作って、その業績データをたとえばRead & Researchmapなんかにそれを一元的に集約してしまう。
業績メトリクスが自動的に計算されるようなシステムを作るのです。これはもう簡単にできるはずですよ、技術的には。その数値が研究費の申請書に自動的に入ってきて評価に反映されるようにするといいと思います。
【湯浅】 それが簡単にできるのに今やっていない原因って何でしょうか?
【宮川】 うーん、そういうのをやったほうがいいのではないかと言う人が少ない。文科省ではトップダウン的にはやろうとしてるんですよ。僕のそういう意見も聞いてくださって、ちゃんとやろうとしてくださっているのですが、なかなか進まないですね。
【湯浅】 実際に導入したら抵抗もあるのではないでしょうか。
【宮川】 抵抗はあるでしょうね。Read & Researchmapを運営されている方々からの情報では、抵抗されている方はやはりたくさんいらっしゃる、と聞きます。業績が可視化できてしまったら何にも研究してない、成果を出していない、というのも可視化されてしまうわけなのです。教授とかで、明らかにきちんと成果を出されている助教とかポスドクの方々より論文出してないなんて人もいるわけですよね。それが見えてしまったら困る人はたくさんいますよね。そういう方々は必然的に抵抗されることになるでしょう。
【湯浅】 そういう良い試みに抵抗する人がいるってこと自体、問題だと思うんですけど…。
【宮川】 それは問題ですよ、抵抗する人がいらっしゃることは。でも、それはどういう問題なのかって深く考えてみるとそんなに単純ではないわけです。そもそも、研究も特にやっていないくてもどこどこの大学教授、みたいに通っているわけですよね。社会的地位も良いほうですよね。世間体は良い。
【湯浅】 そうでしょうね。
【宮川】 別に研究を一生懸命しなくてもそれだけ利点がある安定した地位にある状況で、いったいどうしてそれを変えなければいけないのかと感じるのはある意味で当たり前ではないでしょうか。それはもう、抵抗するというのが人間の性質として当たり前ですよね。抵抗するのは問題っていうより、ヒューマン・ネイチャーです。
【湯浅】 ヒューマン・ネイチャー…。つまり、そのヒューマン・ネイチャーを作り出しているシステムとか枠組み自体の問題だと。
【宮川】 良いか悪いかの話を別にすると、とても自然な話です。既得権益を持っているのですから。ちゃんと仕事をしているが自分のポジションを得られない研究者たちや、納税者などはそれに対してバトルをしていかないと変わるわけがない。でも実際そういう動きはないので、このままでは変わりません。はい。