「研究者だからこそできる。現場に行かない災害支援のありかたを探ってみよう」、というお話。〜未来研究トーク2015の記録(3)〜3
- 日本語記事未来研究トーク
- April 3, 2016
クライシスと日常の狭間を考えることで、自分ができることが見えてくる。
震災や津波、火山などの自然災害や紛争などのクライシスがどこか遠くで起きた時、離れた場所にいる自分になにができるのかと自問したり、無力感にかられたりしたことがある方は多くいるでしょう。支援をしたいと思っても、家族や仕事の責任を持っている大人には現場ボランティアに参加するのは難しいことがほとんどです。第3回未来研究トーク2015のテーマは「非常時の行動力の源泉」。工夫を凝らせば、義援金を送る以外の方法で、自分の普段の興味や活動を源泉にして、自分のいるこの場所からできる支援があるかもしれません。
話題提供者にマップコンシェルジュ株式会社、世界防災減災ハッカソンRace for Resilience 代表であり青山学院大学地球社会共生学部・教授、古橋大地さんをお招きし、オープンストリートマップというご自身の活動をベースに地理空間情報を利用した防災・減災の取り組みを紹介していただきました。議論のファシリテーターはカディンチェ株式会社、代表取締役社長、青木崇行さん。青木さん自身もネパールの震災において独自の支援活動を展開されています。
日常と非常時は地続き。このワークショップでは、古橋さんと青木さんの実践を参考に参加者一人一人が自分の足元からできる災害対応や支援の方法を考えました。
[aside type=”warning”] そもそも未来研究トークって?
「未来研究トーク」は2011年に科学技術振興機構(JST)の研究開発戦略センターが実施した情報技術分野の俯瞰プロジェクトに集まった学術界や産業界の若手で構成された「未来研究開発検討委員会」のメンバーを核にして、「俯瞰力と問題設定力の鍛錬」を目的に掲げて、定期的に行われている勉強会です。
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…というと、ちょっと堅く聞こえるかもしれませんが、取材した印象は「あたまを柔らかくしなやかにするための自己鍛錬道場」といった感じ。様々な分野で活躍する熱い思いをもった未来研究トークの若手メンバーが、本業を終えた後のアフターファイブに集まり、オーガナイザーが仕込むあらゆる種類のテーマに熱いディスカッションを交わしています。
研究者だからできる、居場所を問わない災害支援のシステム作り
オープニングトークは青木さん。青木さんはカディンチェ株式会社の代表取締役をされながら、学生時代の途上国での活動や東日本大震災での他者の取り組みを観察した経験を生かし、ネパールの震災直後に震災復興支援活動を立ち上げられました。ご自身の活動の経緯を紹介しながら青木さんが投げかけるのは「災害やクライシス支援って、現場に行くことが全てじゃないんじゃないの?」という問いです。
「支援に行けない=何もできない」わけではない。研究者だからこそ、手足を使って現場で支援する以外の方法で、遠方からでも支援のためのネットワークやシステムを構築することが可能なのではないか?そんな問いかけでスタートし、青木さんから古橋さんへとバトンが渡ります。
ドローンは世の中をHappyにできるのか?
話題提供者の古橋さんは青山学院大学地球社会共生学部・教授。空間情報全般とドローン、そしてGoogle Earthなどを主に専門として活動されています。「地球社会共生学部」はグローバル人材を育てることを目的とした学部で、途上国の地図がないような環境でビジネスができる人材を育てることを目指しているとのこと。
災害時に役に立つドローン。ドローンというと軍事利用されていたり、昨今のドローン事件のメディア報道のされ方からネガティブな印象を持たれがちになっていますが、人間が入れない地域にドローンを飛ばして航空撮影して状況を調べたり、物を運んだりと、人の役に立つ技術であることは間違いありません。古橋さんの活動であるクライシスマッピングとは、ドローンを使ってクライシス地域の状況を把握し、上空から撮影した映像や画像を元に被害地域の情報を提供するサービスです。地球観測衛星やドローン技術を使ったクライシスマップ作成や災害支援の試みは、 Humanitarian OpenStreetMap Teamや、2010年のハイチ地震、西アフリカのエボラマッピングなど、様々な状況で行われています。
古橋さんはご自身の研究活動を生かしてCrisis Mappers Japanを設立しました。その動機となったのは2011年の東日本大震災での支援活動。災害はいつ起きてもおかしくないものの、支援する側がいつでも動けるかというと様々な社会的コミットメントを抱え、自分自身のリソースが避けないことがほとんど。そんな限られた状況でも、ご自身の専門であるドローン技術と地理空間情報技術を使えば、現地に入れなくてもそのシステムを提供することができるのです。
課題:仕事以外で、自分はこれをやっていると言えるものを持っていますか?それは災害時にどう役立てられますか?
未来研究トーク主催者の嶋田さんが参加者に投げかける課題は2つです。
課題1:お給料をもらうための仕事以外で、自分はこれをやっている、と言えるもの、いわゆる『課外活動』をあなたは持っていますか?なぜそれをやっているのですか?
課題2: それを災害が起きた時にどんな風に役立てられますか?日常生活でそれをすぐに活用できるようにするにはどうしておけばいいでしょうか?
趣味やサークル活動など、誰に頼まれなくても、お金をもらえるわけではなくても、自分で進んでやっている活動を持っているでしょうか?そして、その活動は災害やクライシス状況でいざという時の活動の源泉になりうるでしょうか?ワーカホリックで仕事と家の往復しかしていない、という人には少し耳の痛い質問かもしれません。参加者は2つのグループに分かれて、自分の日常に立ち返って仕事外の活動で災害時に活かせるものがあるかどうかを考えます。
地域と人と紐付いたネットワーク・信頼・つながり
参加者が日頃行っている仕事以外の課外活動、いろいろなものが上がりました。同じマンションに住むお父さんたちのジョギングサークル、ヨガ、サイクリングサークル、美術館・博物館巡り、モバイルアプリ製作、イングレス、などなど。普段何気なく、好きだからやっている活動を災害時に活かすというテーマに移ると、最初は「どう繋げたらいいのか?」を悩みながらも、少しずつ共通点が見えてきました。それは、仕事と関係ない課外活動は、身近な地域の人と密接に紐付いた「ネットワーク・信頼・つながり」の土壌になるということ。趣味を通じて、直接知っている身近な地域の人たちとのつながりが自然と生まれてくる、それを災害対策に活かせないか?というのがグループディスカッションの争点になりました。
出たのはこんな意見。
「災害時に普段のネットワークを使うためには、自分がネットワークのどこにいて、どう使うかの判断が即座にできないとだめ。事前に整理できている必要がある。」
「大切なのは実装力。例えば災害マップを作るなどの活動は、非常時じゃなくても運用していることが大切。たとえばクラウドファンドを普段から使っているなどの生活様式が、何かが起きた時にすぐ使えることにつながると思う。」
などなど。情報を精査する能力、つながりを持っていることと、人と一緒に活動する経験。それを普段から災害やクライシス状況でどう使おうか、どう使えるかを考えながら活きることが重要だという認識ができました。
まとめ
本日のファシリテーターである青木さんが今日の議論とこれからの課題についてまとめます。