「“数値がすべて”ではなく、数値「も」評価に入れるべき」

藤田保健衛生大学・宮川剛教授インタビュー(10)

「“数値がすべて”ではなく、数値「も」評価に入れるべき」
今回のScience Talks-ニッポンの研究力を考えるシンポジウム、第1回大会「未来のために今研究費をどう使うか」、登壇者インタビューでトップバッターを切るのは、藤田保健衛生大学総合医科学研究所システム医科学研究部門、宮川剛教授です。
国内の脳科学研究でトップを走る宮川教授は、研究のかたわら第36回日本分子生物学会年会が主催する「日本の科学を考えるガチ議論」で今の日本の研究評価システムと、それを基にした研究費分配システムについて、まさにガチで国に問題提起をする活動をされています。(※以下、敬称略)


【湯浅】
 過去の業績による研究者評価に基づいて、研究費の配分を決めるべきということですね。過去の業績って、つまり過去にその研究者の研究がどれぐらい注目を浴びたかとか?

【宮川】 いろいろ指標がありますよね。このスライドに説明してあります。ここに挙げられた指標のデータをにらみつつ、業績リスト、メトリクス・レポートを参考にしながら3~6名の評価者が評価して、研究者をカテゴリーに振り分ける。これは、実際やってみるとかなり真剣な評価になります。研究者自身にプレゼンもやってもらったほうがいいでしょう。

【湯浅】 評価者も、その研究者の研究にあまりに近い分野の人ではないほうがいいですよね。

【宮川】 そう。Conflict of interestがない人がいいですね。あと、ハイランクな研究者カテゴリーでの評価には外国人も入れたほうがいいのかもしれないですね。

【湯浅】 そうなると、英語で申請書を書く必要が出てきますよね。

【宮川】 それはまた別の問題ですけれど、僕は研究関係の書類はもう全部英語にしたほうがいいと思いますね。そのほうが効率的です。

【湯浅】 確かに、ここまで各研究者の研究力をデータで「見える化」すれば、ちゃんと研究のできる人に研究費が届く仕組みになるかもしれないですね。確実に全体の研究力が上がるし、論文数も論文の質も自然と上がるかもしれません。

【宮川】 絶対あがります。もう間違いないですよ。これ、おそらく比較的簡単にできるんです。今の科研費の仕組みをうまく使って改革すればそれほど難しくないはず。S、A、B、C、ってカテゴリーがもうすでにあるわけですし。評価の方法だってそんなに大幅に変える必要はありません。

単にメトリクスを参考資料として自動添付するだけでいい。これはIT技術があればできます。なぜなかなかこの改革が進まないのです。

【湯浅】 この科研費のポリシーに関して、変更するかどうかきめるのは文科省ですよね。

【宮川】文科省ですね。

【湯浅】 先生のこの提言は今回のシンポジウムに同じくご登壇いただく文科省の菱山審議官にぜひ聞いて欲しいところですよね?

【宮川】 ぜひ。こういうデータによる客観的な評価、ってことを話すと結構反発があります。研究が数値で測れるか、と。そういうことをおっしゃる方が必ずいるのですが、結局数値データはあくまでも参考資料にすぎません。数値は数値であって、数値以上のものでもなければ以下でもないです。

【湯浅】 数値を持ってして、人が判断をするっていうのが最終的なところですよね。

【宮川】 数値データはただの参考資料。あくまでも総合判断は評価者がするのですよ。ただし、こういう客観的なデータもちゃんと加味してくれないと困る、というわけです。数値データを無視されても困ります。自分の弟子だから、弟子の弟子だから、弟子の友達だからとか、そういう主観的な理由で高い評価点をつけたりすることがありますよね。

この人は自分の言うことを聞くとか聞かないとか。日本だと、僕みたいに自分の意見言っているときっと研究費が当たらなくなるんですよ。意見を言う人を嫌う傾向にありますので、日本人は。

【湯浅】 (笑)

【宮川】 研究費に反映されてしまうのですよね。必ず反映されるだろうし、少なくともみんな反映されると思っていますので、誰も意見を言わないという世界です。

【湯浅】 ほんとにそんなことが反映されるのですか?

【宮川】 されると思いますね。「そんなこと言ってたら研究費当たらなくなりますよ」という具合に、僕が多くの人にご助言いただいているという事実があります。でも、そういう現実はやっぱりあってはいけないでしょう。そこで、数値指標が評価の基準に入っていれば、あんまり派手に主観を反映させることはできません。ある程度はできるでしょうけど、それは「ある程度」でしかない、ということになるはずなのです。

しかも、この方式ですと研究費ゼロという状況にはほぼならない。6名ぐらい評価者がいれば良心的な人も入っているはずで、仮に悪い人がいてもマジョリティにはならない。だから評価基準に数値指標を導入することで、むしろ自然と評価の際にいろんな意見が出るようになって、すべてが良くなるでしょう。芋づる式に。

【湯浅】 なるほど。

【宮川】 今はごく少数の偉い高名な先生方が研究費を決めてますから、公に意見なんか言おうものなら研究費が当たらなくなるし、人事でも不利になる。それが事実かどうかはともかく、少なくとも多くの人はそう思っているというのは事実です。研究そのものの実績よりも高名な先生方と仲良くなるほうが、日本のアカデミアでは人事でも研究費取得でも一番の近道だろう、と多くの人は思っている。

【湯浅】  コネの世界なのですね。

【宮川】 コネクションが極めて重要な世界です。僕の提案では「数値指標がすべてにポリシーを変えるのではなくて、「数値指標も」参考資料として判断基準に入れていただきたい、というそれだけなのです。そうすれば、研究実績を数値的にきちんと出している人は、あんまりひどいことにならないようになるはずです。

【湯浅】  そうですよね。

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