【オピニオン】大学統廃合はどこまで進むか?防衛関連研究支援への各党の見解は?(湯浅誠/サイエンストークス副委員長)
- 日本語記事科学技術政策アンケート
- July 8, 2016
参院選2016 に向けた科学技術政策についての政党アンケートの結果がまとまりました(まとめ記事はこちらから)。各政党からの回答について関心の高いトピックを、サイエンストークス委員がピックアップして解説・コメントします。
最初の記事はサイエンストークス副委員長、湯浅誠氏(カクタス・コミュニケーションズ株式会社代表取締役)から。
※本記事に記載された内容は、あくまで投稿者個人による意見であり、サイエンストークス一団体としての意見を反映しているものではありません。また、特定の党への加担、批判をするものではなく、あくまで科学技術政策の面からの回答への批評であることを事前にお断りしておきます。
【参院選2016】科学技術政策についての政党アンケート、結果を公開≫
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湯浅誠(ゆあさ・まこと)
カクタス・コミュニケーションズ株式会社 代表取締役
サイエンスを元気で面白くしたい個人が集まるサイエンストークスに立ち上げから関わる。学術出版社・ジャーナル、大学・研究機関、研究者に向けたコミュニケーションサポートを展開するカクタス・コミュニケーションズ代表。
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今回は参院選を前に、サイエンストークスでは初となる各政党への科学技術政策に関するアンケート調査を実施しました。今まで個人で対応されていたサイエンス・サポート・アソシエーションの榎木英介委員の熱意とコミットに脱帽致します。実際に政党に調査を依頼するとわかるのですが、質問設定から調整が続き、ようやく調査票が出来たら大慌てで各政党にアンケートを依頼し、短い期日でリマインドしながらご回答いただくという強行スケジュールでした。更に回答も手書きでいただいたり、PDFでいただいたりで、まとめるのも大変な作業でした。
また各政党も参院選を直前に控え、我々のアンケートばかりに対応している所ではないでしょうが、民進党、日本のこころを大切にする党、おおさか維新の会、公明党、日本共産党、自由民主党から回答をいただきました。実際は12政党に依頼をしましたが、主要政党からはご回答いただけたと思います。回答いただけなかった政党におかれても諸々事情があると思いますが、「組織力がある」政党である事も政権を獲得するのに必要な要素だと感じました。ご回答いただいた6政党の皆様、ご協力ありがとうございました。
合計で7問作成しましたが、私にとって関心が強いのは設問5の「大学のあり方について」と設問6の「大学における安全保障・防衛関連研究について」の2点です。各政党からの回答は別途ご用意していますので、バイアスのない比較をご覧になりたい方はこちらをクリックしてください。また他のサイエンストークス委員方々もご自身が関心をお持ちの設問を中心的に記事として取り上げていきますので、そちらもあわせてご覧ください。
少子化で勝ち負けが分かれる市場原理。大学の統廃合はどこまで進む?
まず設問5の「大学のあり方について」の各政党からの回答を見ていきたいと思います。
この質問は少子化に歯止めがかからない今の日本で今後大学はどの様に改革を進めていくべきかを問う内容です。選択肢には、「将来的な統廃合も含めた改革をすべき」といった、若干ラディカルなものも含まれていました。まずは最初に各政党が選ばれた選択肢を見てみましょう。
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「将来的な統廃合も含めた改革をすべき」
自民党、大阪維新の会、日本のこころを大切にする党
「現在の数は維持すべきだが、運営面での改革が必要」
日本共産党
「現状のままでよい」
なし
「その他」
民進党、公明党
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次に各政党のコメントです。
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自民党「法科大学院等、社会の要請に応える形での統廃合は必要だと考えている」
大阪維新の会「我が党は、憲法改正による大学を含めた教育無償化を掲げている。納税者の理解を得るためには、大学間の一層の切磋琢磨と大学経営の効率化が必要である」
日本共産党「18歳⼈⼝が減少するから⼤学の規模を縮⼩するという議論は、あまりにも短絡的です。他の先 進諸国と⽐べて⽇本は、⼤学進学率が低く、社会⼈学⽣も留学⽣も極めて少ないのが現状です。年齢や出⾝を問わず、誰もが⼤学で学ぶことができる環境の整備こそが求められています。 社会の知的基盤である⼤学が「学問の府」にふさわしいやり⽅で改⾰することは、⽇本社会の発 展のためにも⽋かせません。いま必要なことは、政府主導の⼤学の再編・縮⼩ではなく、⼤学の⾃主的な改⾰の努⼒であり、そのためには、国公私⽴をこえて、⼤学⾃らが⼤学のあり⽅を議論する場をつくることと、私⽴⼤学も含めた財政⽀援の充実だと考えます」
民進党「学生数が減少する中で安定した経営基盤を確保することは必要だが、丁寧に議論していくべき」
公明党「18歳人口は平成33年ごろから減少することが予測されており、大学を取り巻く環境は厳しくなる中で、どの大学も危機管理を持って経営に取り組み、自主改革等を進めることが、まずは重要と考えます。国立大学については、現在、平成28年度からの第3期中期目標期間における自主改革を進めているところであり、私立大学についても、「私立大学等の振興に関する討論会議」において経営基盤の強化など総合的な議論が始まりました。いずれにしても、ていねいに議論を進め、今後のより良い方策を検討していくべきと考えます」
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全体としては、現状のままでよいと考えている政党は皆無です。また現政権の自民党は「社会の要請に応える形での統廃合は必要」と回答しています。具体例として法科大学院を明記していますが、今後は国立大学同士の統廃合も提案されていくのではないかと想像します。各大学への自己改革が求められており、10年後には今では考えられない事が起きていてもおかしくないですね。どう考えても「少子化」=「お客様減少」ですから、これは市場の原理で勝ち組と負け組が出てしまいます。改革に踏み切りたくても踏み切れない大学も当然出てきますので、これは致し方ない事かと思います。
そんな中、日本共産党は財政支援の充実を図るべきだと述べています。今回のアンケートへの回答を見ても、共産党は一貫して財源の充実を唱えており、もし共産党が政権を担ったら今の国家予算のバランスはどの様に変わってくるのかと考えてしまいました。しかし実際限りある資源をどこにどう使うかは、たくさんの利害関係者がいるなかで切り離せない課題ですので、いずれにせよ改革は必要になると思います。
政党のイデオロギーによって意見大きく分かれた防衛関連研究についての議論
次は大学における安全保障・防衛関連研究について取り上げたいと思います。こちらはなかなかのホットトピックです。昨年度防衛省において大学や企業を対象とした研究支援制度を開始しましたが、平和主義を掲げる日本ではとりわけ学術業界からは大きな懸念がだされています。この研究を推進すべきかどうか、各政党の回答を見たいと思います。
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「推進すべきである」
自民党、日本のこころを大切にする党
「推進すべきでない」
民進党、日本共産党
「その他」
大阪維新の会、公明党
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この回答は各政党のイデオロギーと通じる所があり、わかりやすい回答になりました。まずは推進派のコメントをご覧ください。
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自民党「我が国の技術力は、経済力や防衛力の基盤であり、技術革新が急速に進展する中、わが国が技術的優位を確保し、わが国国民の生命・財産・領土・領海・領空を守り抜くためには、デュアルユース技術を含めて強化を図っていく必要がある。そのため、大学において安全保障・防衛関連にも活用可能な研究が実施されるのであれば、これに制限を加えるべきではなく、推進すべきと考える」
日本のこころを大切にする党「防衛と民間のデュアルユースの技術が多く、大学が防衛分野を排除しては先端開発では先頭に立てない。世界一の二足歩行の開発者がDARPA(米軍)主催のコンテストに参加するために、東京大学をスピンアウトせざるを得ず(SHAFT社)、グーグルに買収されてしまった事は反省すべき点である」
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どちらかといえば、軍事と捉えるよりもデュアルユースでその溝を埋めるために活用すべきではないかという、効率を重んじるコメントに思えます。SHAFT社がDARPAに参加するために東京大学をスピンアウトしたかどうかについては私は存じていませんが、米国では国防総省からの軍事予算からかなりの研究資金が流れてきている事実を見て、日本でも同様の動きをすべきではと思う政党もいるのではないでしょうか。
一方で反対派は。
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民進党「軍事と学問が一体化した戦前の反省を踏まえる事が必要。学術研究に軍事機密の規制がかけられ、本来自由であるべき学術研究のありかたが変わってしまう懸念が大きい」
日本共産党「防衛省の「安全保障技術研究推進制度」は、⼤学を軍事研究の下請け機関へと変質させ、「学問の⾃由」を蹂躙する、極めて危険な制度です。⼤学は、基盤的経費が最近10年間で⼤幅に削減され、研究者が⾃由に使える研究費が底をつくような危機的事態に追い込まれています。軍事研究のために研究者のほおを札束でたたくようなやり⽅に、「研究者版経済的徴兵制」という批判もでています。 ⽇本学術会議は、科学者が侵略戦争に協⼒した戦前への反省の上に、1950年と67年の2度にわたり「戦争を⽬的とする研究には従わない」声明を採択しました。この声明こそ、多くの⼤学が軍事研究を拒否する⼟台となっています。最近も広島⼤や新潟⼤、琉球⼤などが、「学問は平和のため」として防衛省の研究助成に応募しないことを確認しています。⽇本の科学者は、こうした⽴場を堅持すべきです。防衛省は、デュアルユース(⺠⽣にも軍事にも利⽤可能な)技術だから⺠⽣分野でも活⽤されることを強調しています。しかし、スポンサーとして研究成果を活⽤するのは防衛省であり、その⽬的が軍事であることは明瞭です。実際、防衛省が研究助成で公募する20のテーマは、いずれも兵器開発に直結する研究です。例えば、「⽔中移動の抵抗軽減」や「⾳響・可視光以外の⼿ 法による⽔中通信」は、潜⽔艦の性能を⾼度化することに使われるものです。 科学は平和と⼈類福祉に貢献することを使命とし、そのために「学問の⾃由」が保障されるべきだというのが、戦後の学術界の原点であり、⽇本国憲法の精神です。 ⼤学を軍事研究の下請けに変質させ、「学問の⾃由」を踏みにじる安倍政権の暴⾛に、国⺠の良識でストップをかけるべきだと考えます」
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共産党はかなり強い論調で反対をしています。民進党と共有している「学問の自由を奪う」点が今後軍事研究費を受けいれるか否かの大きな争点となりそうです。機密情報に関わるので、様々な規制がかかるのではないかと懸念している方もたくさんいます。ただ今でも既に規制がかかって行っている研究もあるのではないかと思ってしまいます。例えば製薬企業との共同研究など、外に出せないデータや自由に出来ない研究ってないのであろうか?と思いました。
私個人の見解では、学問の自由よりも「軍事予算」で研究を行う事へのアレルギーが強いのではないかと思います。意図していない研究成果が軍事に利用される事は歴史からも明確ですので、そこに関わる事が研究者として正しい事なのかどうかについては、議論を尽くす必要がありそうです。その意味でも今後の自民党政策には注目していく事が大切だと思います。
最後に
全政党のコメントを比較すると膨大になるので、全コメントはこちらのまとめをご覧ください。
有権者である研究者の皆さんにとり、各政党の科学技術政策は重要な意味を持っています。是非今回の集計結果をご覧になり、自分が国家運営をお願いしたいと思う政党に投票してください。
※本記事は私湯浅の個人的見解に基づくもので、なんら特定の政党を加担、批判するものではございません。
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