「高インパクトファクター雑誌至上主義が日本の論文数低下の諸悪の根源」
藤田保健衛生大学・宮川剛教授インタビュー(13)完
- 日本語記事インタビュー日本の研究ファンディングを考える
- September 3, 2013
【宮川】 日本の研究論文数が減っていますよね。あの大きな原因に一つはScience、Nature至上主義です。
【湯浅】 それって、研究者のみなさんがリジェクトされるとわかっててScience、Natureにばかりに論文を出すからですか?
【宮川】 Science、Natureを始めとする高インパクトファクター雑誌に論文を出さないと研究費も取れないし、人事でもダメですからね。みんなとにかくScience、Natureに出したいのです。逆に、出しさえすればすべてが薔薇色です。
【湯浅】 そうですか。
【宮川】 出さない人は負け組に入ってしまう。
【湯浅】 なるほど。
【宮川】 そうすると、ScienceかNatureに投稿するために他の雑誌に出さないですよね? データを発表しないでいっぱい溜めて、それでドカンと出すことを目指すわけです。だから論文数が減るのです!おそらく日本ではScience、Natureなどの高インパクトファクター雑誌掲載への評価が偏りすぎです。
【湯浅】 うーん、そうかもしれないですね。
【宮川】 研究費って、大きいのから小さいのから、種目がたくさんありますよね。なのにWinner-Take-All(ウィナー・テイク・オール)の仕組みなのです。ほとんど全部の種目でScience、Natureなど高インパクトファクター雑誌掲載が重視されます。
基礎研究も応用研究も、小さい研究費も大きい研究費も関係なく全部そうですから。国家プロジェクトから基礎研究の基盤研究費みたいのまで全部、Science、Natureに出した人がすべて総取りですからね。
【湯浅】 それはみなさんそこに血眼になるのは当然ですよね。
【宮川】 Science、Natureあるいはその姉妹紙、あとCell。評価が確実なのはそれぐらいでしょう。
【湯浅】 確かに。Natureはうちも時々広告を出したりしますけど、最近のNature Publishing Indexを見ると、やっぱりNatureの掲載数はいまだに日本が中国より上です。だからNature だけ見ると、日本はまだまだイケるぞって書かれているのですが…。
【宮川】 それはこのような仕組みがあるので、日本の研究者の多くは必死だからでしょうね。Winner-Take-Allな仕組みが背景にあるでしょう。
【湯浅】 仕組みがあるわけですね。なるほど。スッキリしました。日本の論文総数全体で見ると下がってるいるのだけど、Nature掲載論文数が増えてるのはどういうことなのだろうって思っていたところです。つまりNature、Scienceに国内評価が偏ってるがゆえに出てきた結果だと!
【宮川】 評価基準が改良されれば高インパクトファクター雑誌至上主義もなくなっていくでしょう。
【湯浅】 実際、海外だとH-indexを評価に使うのって当然じゃないですか。日本ではどうして使ってないんでしょうか?
【宮川】 単に遅れてるだけだと思います。もしそこらあたりの評価基準をとりいれていけば、研究者の間でも、地に足のついた論文を地道に出していったほうがいいのでは、という認識になっていくでしょう。
【湯浅】 そうですよね。
【宮川】 高インパクトファクター雑誌至上主義が世の中の、特に日本の科学研究の進歩を遅らせているのだと思います。
【湯浅】 じゃあ先生は絶対Science、Natureには論文を投稿されないのですか?
【宮川】 いや、もちろん、僕もScience、Natureに論文を出したくて仕方がありません。研究費が必要ですので。ですので、自信のある成果は、必ずScience、Natureから投稿していきますけどね(笑)
【湯浅】 ですよね!
【宮川】 Natureとかの査読もやりますしね。去年と今年で4回やりました。
【湯浅】 本音はそこは嫌だけど、やっぱ結局この国の仕組みを考えるとNatureに出さざるを得ないということですよね。
【宮川】 どっちも本音です。この仕組みがある以上、そこに出さないと負け組みですから、投稿するわけです。ですので、高インパクトファクター雑誌至上主義が悪玉だ!というのも本音だし、でもそういう雑誌に論文を出したい!というのも本音なのです。両方本音なんですよね。
【湯浅】 なるほどー。面白いですね。Natureの方が今話を聞いてたらどういう心境でしょうね。
【宮川】 Natureは意外にそういう事実をフェアにリポートします。Natureのニュースで「ジャーナル・インパクトファクターを評価からはずすべきだ」という声明みたいなのを出してますよ。
【湯浅】 そうですよね、やられていましたね。
【宮川】 きちんと自分たちの問題を取り上げて報道されてますし。実はNatureはフェアなのです。
【湯浅】 イギリスらしいところがありますよね。
【宮川】 彼らはちゃんと事実も報道するし。オープンアクセスの流れもしっかり推進している。つまり悪いのはNatureや高インパクトファクター雑誌そのものではなくて、高インパクトファクター雑誌至上主義、日本の評価システムが悪いのです。
【湯浅】 使っているほうが悪いと。
【宮川】 そう。Natureは本当は悪くないのです。
【湯浅】 先生の登壇時間、20分で足りないかもしれないですね…。
【宮川】 全然足りない(笑)いや、僕の提案を実現してくれたら、正直これだけで日本の研究力は相当上がるのではないでしょうか。
未来の研究評価システムはこういう風に良くなっていくのだという議論がなされる。そうすれば、もっと地に足の着いた研究をしないといけないな、と思ってくださる研究者がたくさん増えてくるはずです。Nature、Scienceだけ狙って一発当てるというのもいいかもいしれないですけど、もっと地に足のついた論文を地道にしっかり出していきましょう、と。
そうやって出した論文の成果をきちんと世界に向けてひとりひとりの研究者が広報を行っていく。世界の人たちに向かって、自分の論文に記されていることが、いかに有用な情報なのかということを、きちんと説明していく必要がありますね。日本の中でだけやっていたのではだめでしょう。海外の学会にどんどん出て行って発表していかないと。
【湯浅】 うんうん。
【宮川】 今の研究は、日本の中だけでやっていれば済みます。評価者が日本人なので、高インパクトファクター雑誌に論文を出して、日本の中の人と仲良くなっておいたら研究費がちゃんときます。
ところが、僕が提案している客観的指標を導入すると、論文の引用数が増えないと研究費を取りにくくなるわけですよね。そうしたら海外の人にアピールして、自分の研究がいかに素晴らしいかをわかってもらわないといけない。日本の中だけで発表してたのでは、引用数は全然増えないでしょうから。そうやって海外の学会に参加するようになれば、同時に外からも最新の重要な情報を得て帰ってくることができます。
【湯浅】 なるほど。
【宮川】 そういう地道な研究活動、本来、科学者がやるべき活動が多くなされるようになります。今日本には学会が多すぎますね。これもまさにこの仕組みの問題が背景にあると思います。
研究業績の具体的な数値指標がまったく評価に反映されないような世界で、何が違いを生み出すかと言うと、評価者といかにコネクションを作るかです。だから、日本の中で内向きの学会活動、委員会活動が中心になってきてしまいます。
【湯浅】 うーん。
【宮川】 そうすると学会がぶわーっと増えてくる。で、学会活動でまた雑用が多くて、研究活動がにぶる。これは本末転倒ですよね。学会活動で研究時間がなくなる。
【湯浅】 そうですよね、学会は本来研究をみんなで高めるための会なのに。
【宮川】 そう。学会活動で研究時間がなくなることで、日本の研究力を弱めているのです。これもまた、評価基準が変わることで解決していく問題だと思います。
【湯浅】 先生今日はほんとにお話を伺って面白かったです。この勢いでシンポジウムもよろしくお願いいたします!