「社会の役に立つ研究者」になる方法ってなんだ?(3)

「社会の役に立つ研究者」になる方法ってなんだ?(3)

Science Talks LIVE、第2回のトークゲストは国立情報学研究所の宇野毅明氏。すぐに産業化の見込めない分野の研究者は社会の役には立てないのか? 科学と企業、社会が互いに手を携えて、新しいもの、価値のあるものを作って行くことができたら、それこそが「社会の役に立った」ことになるのでは? 研究者が社会で生きていく為に必要な考え方や資質を、ご自身のエピソードを交えてお話いただきました。

研究者、婚活を手伝う!? その1

宇野 というわけで、そういう感覚で取り組んだ、婚活に関するデータ解析の話がありますので、ご紹介させていただきます。婚活、最近流行りですよね。あちこちの会社や自治体が取り組んでいます。サイトを運営するところもあれば、お見合いサービスも、街コンのようなイベントを開催するところもあります。その中で、共同研究というほどでもないんですが、愛媛県の結婚支援センターと一緒に仕事をしたときの話です。
このセンターはデータを2つ持っていまして、それを解析して何か良いことをやりたいという話でした。1つは街コンとか、イベントを色々やっていて、それに誰がどう参加したかみたいな行動データ。それからもう1つは、お見合いのマッチングサイトがあって、どういう人にお申し込みをして断られたか、成功したかのデータがあります。これを解析してうまい具合に、結婚がスムーズに進むようなことができないかなという相談を受けました。
婚活のサイトってある意味、失敗の山なんですよね。成功した人はそこからいなくなってしまうので、成功した人の行動様式は分からないんです。ショッピングサイトなら、たくさん買い物をして、どんどんお金を使ってくれる人っていい人ですよね。婚活サイトって逆で、どんどん出て行って欲しいんです。なので、普通とやることが逆になる。データから見るとしたら、なかなかうまく行かない人ってどういう人なんだろうっていう事ならわかるだろうと思って、そこを見ていくことにしました。結婚支援センターの方々にも、うまく行かない人ってどういう人ですかとインタビューしてみたんですけど、「そうですね、何となく行動がワンパターンの人が居るんです。世界が狭くて、同じようなところばっかり出て、多分同じような人に会っている。もっと他のところに行けばいい人がいるかもしれないのに」そう言われたので、よしよし、そこをやりましょうと。特定のイベントだけ参加している人がいる、ワンパターンの行動だけしている人が結構いるんだったら、その人たちに効果的にアプローチすればいいんですよねということを考えました。
このえひめ結婚センターというところは、元々は法人会なんですね。法人化するために何か社会活動をしなければいけなかったらしくて、その一環で結婚支援サービスをやっています。そのサービスにも面白いことを色々と導入していて、それでどんどん盛り上がって元気になっているというようなところです。最初にやったのは、活動というか業務が全部紙ベースだったのでまずIT化しましょうと。ここの社長さんは結構いい人で、県に掛け合って、ここでちゃんとしたシステムを入れてIT化すれば、1年間はこれだけ余計にお金が掛かりますけど、その後は予算を減らせますから、減らしてもいいですから、今システム化してください。こんな紙ベースで無駄な仕事ばかりしていても人は幸せになりませんみたいな話をして、ちゃんとIT化したんです。これが結構珍しいらしくて、どこでも紙でやっているのをIT化したことで、データがどんどんたまり出したんです。お陰で全国に先駆けてデータ解析ができるようになったわけです。
もう1つ面白いのが、お見合いを申し込んで、いいですよ、会ってみましょうという話になると、ボランティアのおばちゃんが1人つくんですね。メールで相談を受けていて、なんかこっちに気がないみたいなんですけど、みたいな話をすると、いや大丈夫ですよと答えるおばちゃんがいて、どうもそれがうまく行っているらしいんです。こういう、なんかちょっと斜め上から入ってくるような、そういうアイディアを持っていらっしゃる方が結構いるという、これが面白いところです。
元々何でこんな話が僕のところに来たかというと、やっぱり愛媛県の組織なので、愛媛大学に最初にお話が行くわけです。愛媛大の情報系に河村先生という方がいらして、そこに話が行ったんですが、僕はデータ解析は無理だと。データ解析だったら宇野ができるだろうということで、僕のところに話が回ってきた。僕が狙っていたわけでもないし、向こうも僕のことは知らなかったんです。本当に偶然の出会いです。

最初話が来た時は、基本的にAmazonと同じだろうと思っていたんですね。コミュニケーションもやっている、データ解析も顧客分析もやっている。そこら辺のことをやれば大体何とかなるだろうと思ったんです。婚活の話は流行っているし、こういうところなら人間のどろどろしたものもデータに入っていそうで楽しいですよね。だからこれは楽しいだろうと思って、仕事を受けることにしました。論文を書く気は最初から全くありませんでした。研究自体も、そんなにがりがりと新しいものを作る気は全くなくて、向こうの話を聴いて、向こうに何か良いことを伝えて、何か良いものができればいいなくらいの感じで思っていました。
結婚センターの方は最初は、こんな風にやった人がうまく行く、という分析がしたいと言っていたんです。これはこれで、やればそれなりに学術的な何かが分かるかもしれないんですが、やっぱり正直つまらなそうなんです。婚活のデータは失敗の山なので、基本的には失敗したことしか入っていないはずです。だから、こういうプロファイルを持っている人はうまく行きやすいというのを統計的に導き出しても、学歴が良いとか、顔が可愛いとか年収が良いとか、どうせそんなことしか出て来ないし、やってもつまらないと思ったんです。これは却下と。それでインタビューをして、出てきたのがそのワンパターンになっている人がいるという話と、年収や年齢から入る人ってなかなかうまく行かないんだよねという話、この2つが出てきたので、これをデータで調べることにしたというのが研究の流れです。

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このテーマの記事一覧

  1. 論文をたくさん書ける研究者=社会の役に立つ研究者?
  2. 目の前の課題を解ける研究者=社会の役に立つ研究者?
  3. 研究者、婚活を手伝う!? その1
  4. 研究者、婚活を手伝う!? その2
  5. フロアディスカッション:研究者に社会が求める資質って何? その1
  6. フロアディスカッション:研究者に社会が求める資質って何? その2
  7. フロアディスカッション:研究者に社会が求める資質って何? その3
  8. フロアディスカッション:研究者に社会が求める資質って何? その4

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