「研究計画ではなく、研究者の実績を元に評価する」
藤田保健衛生大学・宮川剛教授インタビュー(9)
- 日本語記事インタビュー日本の研究ファンディングを考える
- August 29, 2013
【宮川】 こういう深刻な問題をだれも指摘しないっていうのもおかしいな話ですよ。
【湯浅】 ほかにも同じように苦労されている全国の研究者のみなさんがいるわけじゃないですか。実際みなさんはどう思ってらっしゃるんでしょうか?
【宮川】 「そういうもんだろうな」という感じなんじゃないですかね。
【湯浅】 先生みたいに声を大にして問題を叫ばれている方って結構いますか?
【宮川】 僕みたいに積極的に発言していない方々でも、この問題提起には賛成の方が多いですよ。アンケートを取っていますので、それは確かです。
【湯浅】 分子生物学会のガチ議論で?
【宮川】 ええ、ガチ議論のほうと、あとは包括脳ネットワークでもアンケートを取っています。この一件に関しては、改善の提案に関して大半の人が賛成すると思います。あまりにもおかしいですから。ただ多くのみなさんは、制度は変えられるわけないという諦めの念を持ってしまわれている。
【湯浅】 確かに制度の部分に噛み付く人はそんなにいないですよね。駆け出しの研究者の人とかでは特に。
【宮川】 いないですね。そもそも疲弊していますからね。このような議論しているような暇があったら申請書でも書いてますっていうのが本音です。みんなのための活動をしても自分の利益にはならないですから。こういった活動をしても暖簾に腕押し、のようなことになることが予想されますので。申請書だったら書けば当たるかもしれないので、普通はそちらにやっぱり時間を割きますよね。
【湯浅】 そりゃ、制度改革運動などしている時間はないのが普通ですよね。
【宮川】 ないです。そこで僕の提案としては、研究費を決める上で、研究者のカテゴリー分けをする。今、基盤A、基盤B、基盤C、基盤S、特別、などの科研費カテゴリーがありますが、そうではなくて研究者をカテゴリー分けすればいいのではないでしょうか。
そもそも大学の研究者というのは研究を行うのが仕事なので、研究者を研究実績別にカテゴリーに振り分ける。いわば研究実績によるグループ分けです。このカテゴリーは過去の研究実績や研究内容を中心に設定するべき、というのが僕の意見です。
【湯浅】 なるほど。
【宮川】 基礎研究については、研究費の申請書という概念自体が意味が薄いという考え方が背景にあります。ほとんどの研究では何年も先のことまでわからないです。わかるタイプの研究ももちろんあります。先ほど例に挙げた、ゲノム・シークエンスを10万人やるみたいな研究は、結果が予想できますし、予定も立てられる。
その種の研究はそれはそれで重要であり、綿密な計画を立てることに意味があります。でも本当の意味の基礎研究の多くは予定などは立てられないことが多いです。3ヶ月ぐらい先まではかろうじて立てられますので、その3ヶ月ぐらい先の予定を立てて、まずは実験を一通り行います。その実験から新しいデータが得られます。
【湯浅】 はい。
【宮川】 新しいデータが出たら、その新しいデータを見て今度はそれを前提に最適の研究計画をそこでまた考え直します。データが斬新であったり、予想外のものが得られれば、グイグイ計画が変わってくるわけです。
【湯浅】 それはそうですよね。研究をやる前に問いの答えがわかっていたら、研究そのものをやる意義がないですものね。
【宮川】 本当の研究は、答えは普通わからないものです。3年後先、5年後先のことなんて絶対わかりません。わかってしまうような研究は、本当の意味の研究ではないですよ。
【湯浅】 ええ。なるほど。
【宮川】 ですので、科研費の評価基準は、いかにすばらしい未来の研究計画を立てているかではなくて、過去の実績をもとにするのが一番であると。実際、アメリカとかでは行われていますよね。ハワード・ヒューズ・メディカルインスティテュートというのがあって、そこにはハワード・ヒューズ・インベスティゲーターという人たちがいて、彼らが評価した研究者に、大量の研究費を配るわけです。
ものすごいフレキシブルに使えるお金を、その「人」にあずけるわけです。何に使うかとかは細かく決めなくてよくて。これは、まさに過去の研究実績や研究の内容を基に研究費を出している例です。
研究計画はある程度あってもいいのだけれども、研究というのは本当に何がどうなるかわからない。その計画を実現できるかどうかの判断なんて、自分自身にも、ましてや他人にできるわけがありません。
【湯浅】 確かに。
【宮川】 でも過去の実績を基にすればそれなりにその人の研究能力は推定できます。おそらくは、過去の業績が、未来の業績の最も精度の高いプレディクターなのです。