インパクト・ケーススタディ

インパクト・ケーススタディ

ケーススタディ1:低中所得国におけるメンタルヘルスケアへのアクセスの改善-London School of Hygiene and Tropical Medicine

研究の概要

低中所得国においては、健康状態に関連した全障害のうち20%以上が、メンタルヘルスの問題によって引き起こされている。2000年から2012年に実施した本研究では、次の3点の達成を目指した。

  1. 低中所得国におけるメンタルヘルス問題の負担を示すこと。これは、メンタル疾患に係る負担と費用対効果の高い処置に関する体系立った調査、インド全土を対象とした自殺調査、うつ病とその他の慢性疾患との連関を調べた60か国を対象とする人口ベースの調査の実施に拠った。3点目については、メンタルヘルス問題と母子保健および慢性疾患の病状との連関を調べ、不利益、社会からの疎外、メンタルヘルス問題の間のサイクルを調査したものである。
  2. インドのようなリソースの乏しい状況でも、ヘルスケアの専門家ではない働き手による効果的な処置が実施可能であると示すこと。
  3. メンタルヘルス研究の資源と成果が不足しており、それらに係る流通が不公正だと示すこと。

インパクトの概要

本研究は、メンタルヘルスケアに関するいくつかの分野に対して重要なインパクトをもたらした。

  1. 政策立案-2008年、WHOはメンタル疾患対策事業を拡大するためのアクションプランを立ち上げ、これはWHOによる2013年の包括的メンタルヘルスアクションプランの採択へとつながった。また2011年には、インド保健省が同国初となるメンタルヘルス政策を起草するための組織体を発足させ、国内のメンタルヘルス対策拡大を提言した。
  2. 連携団体-2008年、世界中のメンタル疾患の患者向け処置の改善を目指し、「Movement for Global Mental Health 」が設立された。
  3. 資源増加-Grand Challenges Canada やアメリカ国立衛生研究所といった組織が、メンタルヘルスの課題に対応するため、イノベーションや研究者と政治家との協力関係構築のために1500万米ドルの拠出を掲げている。
  4. アジェンダ-世界精神保健連盟のような国際機関が、自身のグローバル・アジェンダ を研究のエビデンスに基づいたものとしている。
  5. 教育-デューク大やハーバード大など、いくつかの国際的な一流大学が、グローバルなメンタルヘルスに係るティーチング・プログラムを設けている。

Resource: https://impact.ref.ac.uk/casestudies/CaseStudy.aspx?Id=41456

ケーススタディ2 動物保護:倫理と政治-University of Leicester

研究の概要

動物の利用および取扱いは、食べ物や服、その他の原材料としての提供についてのみならず、医学研究やスポーツ、娯楽などの分野に係るものに関しても世間の議論を呼び、継続的な利用か完全な利用禁止かに分かれて、両者が強烈な主張を声高に行なっている。

Robert Garner教授が1995年から行っている研究は、動物倫理をめぐる議論において取られた立場の違いが、動物の取扱いに対してどのように影響するのかを突き止めようとしてきた。教授は、科学的な取り組みとしての動物福祉と倫理としての動物福祉とを明確に区別している。また、動物保護主義あるいは新福祉主義と呼ばれる、倫理的配慮と政策としての実現可能性を両立させる戦略的立場の提唱者でもある。これは、内容如何にかかわらず動物の特定用途での利用は倫理的に違法であり廃止すべきだ、との主張に対抗することを目指すもので、代わりに教授は、利用に際して動物が苦しまず、結果として食用に供され、科学実験の対象として使えるようなアプローチを推奨する。

インパクトの概要

Robert Garner教授の研究をきっかけにして、政治的な議論と意思決定に大きく弾みがつき、イギリスのサーカスでの野生動物の利用や捕鯨など、動物福祉に係る重点分野に変化をもたらす議論の調整が進んだ。教授の主張はイギリスの環境・食糧・農村地域省を動かし、サーカスの野生動物に対する福祉の確保を目指す厳格な新免許制度が導入されることになった。また国際捕鯨委員会は、教授の研究成果を考慮に入れ、鯨類の自然環境保護のための重要規制の仕組みの設計改善を目的として、委員会の保護方針を変更した。

教授の研究成果はラジオのインタビューやポッドキャスト、新聞記事などのメディアによって広く伝わり、活動家や研究者が参加する講演や講義が世界中で行われている。

Resource: https://impact.ref.ac.uk/casestudies/CaseStudy.aspx?Id=40445

ケーススタディ3 同性愛者カップル・家族に対する公平な人権-King’s College London

研究の概要

1990年代前半までのヨーロッパ、アメリカ、カナダでは、同性同士のカップルや両親が置かれる法的状況は厳しいものだった。同性カップルとしての届出を受け付けていたのはデンマークのみで、差別的扱いはごく当然のことであった。1993年にRobert Wintemute 教授は、そのような差別についての研究への取り組みを開始した。差別は、性的指向や、異性愛者に対して認められている権利を同性愛者や同性結婚に対しては認めないとする法律を根拠としていた。
教授はそうした差別を分析するための概念的フレームワークを考案し、同性愛に対する差別に関して、人種や地域、性別に基づく差別に対するのと同列の取扱いを認める国際人権条約や憲法の制定を働きかけた。その研究成果は、現在では同性愛差別に関する重要な教科書とされている複数の論文の中で確認することができる。

インパクトの概要

Wintemute 教授の研究は法改正運動に貢献し、人権法の発展に影響を与えている。反同性愛差別に関する国際人権法廷での議論に際し、教授は自らの研究を用いた。

教授は、国際レズビアン・ゲイ協会・欧州地区とパートナーを組み、戦略訴訟というまったく新しい活動分野を共同開拓して、学術NGOの協調体勢の舵取りを行った。実際、国際レズビアン・ゲイ協会・欧州地区が行った欧州人権裁判所への訴訟参加9件に協力している。これらの案件において裁判所は、反差別原則の採用を認めることになり、世界中の法律家やNGOが国内の立法府や司法府に法整備を求める際に有用な前例となる判断が下された。また、自身の広範な研究の強固な基盤を伴ったWintemute 教授の訴訟に係る尽力は、複数の判決を導いた。それは例えば、異性同士の未婚カップルが持つのと同じ権利を同性同士の未婚カップルにも広げる、同性愛者個人および同性同士のカップルが養子を取ることを認める、異性同士のカップルのために制定されたのと同じ事実婚制度を同性同士のカップルにも広げる、といったものである。
Resource: https://impact.ref.ac.uk/casestudies/CaseStudy.aspx?Id=41247


雑誌「ScienceTalks」の「インパクト評価へ向け活気づく取り組み REF 2014から大学が得たものとは」より転載。

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