「社会の役に立つ研究者」になる方法ってなんだ?(4)

「社会の役に立つ研究者」になる方法ってなんだ?(4)

Science Talks LIVE、第2回のトークゲストは国立情報学研究所の宇野毅明氏。すぐに産業化の見込めない分野の研究者は社会の役には立てないのか? 科学と企業、社会が互いに手を携えて、新しいもの、価値のあるものを作って行くことができたら、それこそが「社会の役に立った」ことになるのでは? 研究者が社会で生きていく為に必要な考え方や資質を、ご自身のエピソードを交えてお話いただきました。

研究者、婚活を手伝う!? その2

宇野 先ず、ワンパターンの行動の人なんですが、ワンパターンって人間が見ればわかるんですよね。でもそれを機械で自動的に知るのは難しい。どうやって分かるようにしようかなと思ったんですが、人間の目で見てワンパターンな行動をしている人って、同じようなパターンで動いている人が他にも何人かいるんじゃないかと思ったんです。ワンパターンでもその人しかしていないようなワンパターンだったら、それはその人のオリジナリティなのでそれはそれでいいと思います。ここで解析したいのは、同じようなことをしている人が何人かいて、グループみたいなものができている状態です。イベントが複数あって、これとこれとこれに参加しましたよ、という印をつけると、この人とこの人の参加パターンは似ていますねとか、この人には似ている人がいませんねというようなことが見えて来るんじゃないかなと考えました。
グループ分けしてみると、実際そういう人がたくさんいたんですね。5000人くらいのデータを解析したんですけど、100人、200人くらいが同じような行動のグループに入っていた。5000人の中には当然、ちらっと入会しただけでこれは無理だとやめちゃった人も入っていますし、成功して退会した人もいるので、100人、200人というのはうまく行っていない人の中では結構なボリュームです。そういう意味では、やっぱりセンターの人達が思っていたように、こういう人達は確かにいるし、この人はタコツボにはまっているんじゃないかというのをある程度自動的に検出できるということも分かって、いざとなったら直接電話を掛けて「あなたちょっとやめた方がいいですよ」と提案することもできるというところまで来ました。今までと違う種類のイベントに参加したり、自分の住んでる地域じゃないところに行ったりしてみなさいよと教えてあげれば、その方たちの状況も変わって行くかもしれません。
年収や年齢で検索してもうまく行かないという話の方なんですが、だいたい婚活ってプロフィールを見て検索する、それしか手がないんですよね。会員さんのプロフィールを全部見ることもできないので検索して絞って行くんですけど、それもそんなに深い絞り込みができるわけでもない。話が面白い人が良いです、と言ったって誰が話が面白いかなんてわからないですし、自分と気が合う人が良いですと言ってもそんな検索は出来ないですし、仕方がないです。そうなると年齢とか年収とか、そういうので検索するしかないです。これより下とか、上とか言っていると何となく絞られてきます。理想を高く持つと大変で、年収がこれ以上で、年齢がこれ以下で、みたいな条件を重ねていくと、1つめの条件で半分、次でまた半分といういうように候補が減って、最終的にはものすごく希少な人を狙う感じになってうまく行かない。希望の条件のうち1つか2つ満たさない物もあるんだけどなんかこの人好きだな、という人を狙えるといいんですけど、検索だとなかなかそういう条件では探しにくいですよね。
そう考えると人間って、プロフィールに書いてあるような言葉の情報よりも、実際にどう行動しているか、どういう人間性なのかという方がやっぱり重要な訳です。でも検索では、言葉は見られても行動は見られない。だからなかなかこれという人を見つけられない。街コンみたいな会場でお互いにどういう行動をしているのかを見ることができれば、もうちょっと良い人を見つけやすくなる可能性があります。実際Amazonや楽天では、行動のデータを使ってその人に合う商品をお勧めしています。婚活サイトの中で行動しているデータって何かと考えると、閲覧履歴しかないです。誰のページを見て、どういう検索をして、どういう人をお気に入りに入れたか。そのくらいしかありません。色々考えてみると、検索の仕方は多分皆よく似ていますし、条件設定できる項目も多くないので、ここには人間性はあまり出ません。使えそうなのは、誰をお気に入りに入れたか、誰に申し込んだか、この辺りだと。これをベースにして、自分に合いそうな人を見つけられる機能を作ろうと考えました。
自分に合いそうな人ってどういう人かなと考えると、計算を使って評価するのはやっぱり難しいんですよね。何かで得点をつけて、上から順番に並べるみたいなことは相当難しいと思います。でも、この人とこの人は似ている、という評価はできる。もう少し違う言葉で言うと、自分には何歳くらいの人が結婚相手として向いているのかを知ることは難しいけれど、こういう人が好きだな、と思った人が1人いたら、その人と似ている人を探し出すことは出来るんです。
似ている人を探す方法なんですが、誰をお気に入りに入れましたとか、誰にお申込みしましたとか、そこが似ている人達は多分、好みが似ている訳なので人間性も似ているんじゃないかと、そういう仮説を立てています。自分とAさんが同じような人をお気に入りにしていたとして、BさんがAさんにお申し込みをしているんだとしたら、自分とAさんは人間性が近いので、Bさんは自分のことも気に入ってくれる確率が高い。自分のまだ知らないCさんをAさんが好きなんだとしたら、将来的にCさんも自分のお気に入りに入ってくる確率が高い。この時にBさんやCさんとの出会いの機会が作れれば、自分も相手も気に入る可能性が高くなるんじゃないか。そう思って、推薦の機能を作ってみました。

「お気に入りに基づいた推薦機能」
クリックで全体を表示します *宇野先生のお話を元に、事務局で作成したイラストです。

全部の情報を出してしまうとプライバシー上よくないので、個人が分からない状態でお薦めの方を1人表示するという形にしました。この機能は愛媛の支援センターのシステムに実装されていて、今でもちゃんと動いています。結果はどうなったかというと、お見合いを申し込んだ時受けて貰える確率がそれまでは13%だったんですが、この機能を使った人だけに限ると29%にまで上がったそうです。これはかなりの上昇で、例えばオンラインショッピングサイトでクリックして買う確率が1%から2%に上がったら大騒ぎです。売り上げが2倍になる、1兆円がいきなり2兆円になるということなので、相当な感じなんですね。
よく考えれば当たり前で、興味や好みが似ている人からお申し込みが来たら、そりゃあ受けたくなりますよね。それが人間というものだと思います。それから検索で辿り着いてきた人からのお申し込みというのに、皆だんだん飽きてきているんじゃないかなと。また同じような人、あまり好みじゃない人から申し込みが来たよ、という状況のところで、今までとは全く違う、でも何となく人間性としてこの人合うかも、と思うような人から来たら受けてみようという気になる可能性が高くなる。
こういうお薦めシステムができると、ユーザーの方からシステムに対して、お薦めの傾向を変えさせることもできるんですね。例えば今、お薦めされたり会ったりする人が何かちょっと好みと違う感じだな、もう少し違う人と会いたいなと思ったら、お気に入りの中身を全部入れ替えてしまえばいいんです。スポーツ好きの人と付き合ってみたいと思ったら、スポーツ好きの人をたくさんお気に入りに入れてみる。そうするとお薦めに挙がってくるのもスポーツ好きの人になりますし、向こうにも自分が推薦されるようになります。
婚活のやり方の幅自体も広がる気がしていて、例えばGoogle検索でも、元々の機能は単語を含むページを表示するだけの単純なものなんですが、使う人の方は検索語の組み合わせを工夫して、色々なことをするようになっている訳ですよね。今日の天気を調べてみたり、辞書みたいに使ってみたり、翻訳してみたり。ああいう感じで、こういうサイトでも、行動が反映されるようになれば色々と面白い使い方が出て来るんじゃないかと思います。
まとめなんですが、役に立つ研究というのは、成果を狙わずに質を最高にする感じを狙って、見る、考える、発想することをベースにしていきましょう。その時大事になるのは、やっぱり研究者としての資質です。知識や技術ではなくて、理解力や伝達力のような、研究者としての本質的な能力を高めるのが重要なんじゃないかと思います。婚活の話はこういう感覚で取り組んだもので、本当に全然論文にもなっていませんし、自分が理解したことで、こうやるといいんじゃないですかということをやっただけなんですが、それでもうまいところを突けば、これくらいいい感じの成果がある意味簡単に得られます。こういうこともあるんだよ、ということで紹介させていただきました。
ちょっと長くなりましたが、私のお話は以上で終わらせていただきます。ありがとうございました。

次記事を読む≫

このテーマの記事一覧

  1. 論文をたくさん書ける研究者=社会の役に立つ研究者?
  2. 目の前の課題を解ける研究者=社会の役に立つ研究者?
  3. 研究者、婚活を手伝う!? その1
  4. 研究者、婚活を手伝う!? その2
  5. フロアディスカッション:研究者に社会が求める資質って何? その1
  6. フロアディスカッション:研究者に社会が求める資質って何? その2
  7. フロアディスカッション:研究者に社会が求める資質って何? その3
  8. フロアディスカッション:研究者に社会が求める資質って何? その4

Related post

チベットの研究を通して見えてきたもの

チベットの研究を通して見えてきたもの

自分自身のしたいことを貫いて進んできた井内先生だからこそ見える世界、今後、チベットの研究をより多くの方に知っていただく活動にもたくさん力を入れていくそうです。これまで歴史の研究について、そして、チベットのことあまり知らないという人にもぜひとも見ていただきたい内容です。
チベット史の空白を明らかにしたい 日本のチベット研究者

チベット史の空白を明らかにしたい 日本のチベット研究者

0世紀から13世紀頃までのチベットでは、サンスクリット語からチベット語に膨大な数の経典が翻訳され、様々なチベット独自の宗派が成立したことから「チベットのルネッサンス」と呼ばれますが、この時代について書かれている同時代史料がほとんどありません。この「チベット史の空白」を明らかにしようと、日々研究されている京都大学白眉センター特定准教授の井内真帆先生にお話を伺っていきます。
自由な環境を追い求め『閃』が切り開いた研究人生

自由な環境を追い求め『閃』が切り開いた研究人生

後編では、黒田先生がどうして研究者になったのか?どのような思いを持ち、日々研究されているのか?などの研究への愛について語ってもらっています。自由な研究環境を追い求め、自由な発想をされる黒田先生だからこそ、生まれる発見がそこにはありました。

Leave a Reply

Your email address will not be published. Required fields are marked *