オープンアクセス夜話(第1話)~オープン化で生まれてきた、研究者のコスト意識~

オープンアクセス夜話(第1話)~オープン化で生まれてきた、研究者のコスト意識~

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先日動画を掲載しました、研究者 VS. 学術情報流通のプロによるオープンアクセス談義。Science in Japanガチ議論サイトに掲載された、藤田保健衛生大学教授、宮川剛先生の「紙ジャーナルは悪!オープンアクセスを義務化せよ!」という新しくも過激な提言と、それを受けたNISTEP上席研究官、林和弘氏のクロストークに、読者のみなさんから異論反論を数々いただきました。

動画に掲載されているのは2時間半のエンドレストークのごく一部でしたので、この連載では宮川VS.林の熱いエンドレストークを毎日1本掲載していきながら、サイエンストークス読者の皆さんから頂いた賛否両論もあますところなくご紹介していきます。
第1話は、研究者の論文掲載のコスト意識の話。宮川教授のOA化推進提言を受けて、研究者の間にはじめて(ようやく)「論文の出版にはお金がかかる」という意識が芽生えたのだ、それ自体がOA化によって生まれた新しい動きである、と林氏は分析します。
[aside type=”boader”] <ここでオープンアクセス(OA)超ランボー解説!>
学術ジャーナル出版社は伝統的には購読費モデルを取っていました。普通の雑誌や本と同じように、大学図書館や研究者などの読者が払う購読料で出版費用を支えていて、論文の執筆者である研究者には掲載費用がかからなかったわけですが、オープンアクセス・モデルでは読者はタダで論文を読める代わりに、論文を出版したい著者が出版社に掲載料を払うという新しいビジネスモデルが取られています。多くの大学では主要なジャーナルを購読していますので、すごーくざっくり乱暴に説明すると、研究者から見れば伝統的には論文は「読むのは有料らしい(けど図書館が負担)、出すのはタダ」だったのが、OA誌の出現で「読むのはタダ、出すのは有料(研究費から出費)」という選択肢が加わったわけです。[/aside]
購読料アップで費用負担がのしかかりジャーナル購読数を削る大学図書館が増えたことで、研究者自身が読みたい論文の購入費用を負担したり、OA化で研究者自身が出版費用を負担しなければいけない時代になったことで、出版コスト意識が生まれてきたわけですが、宮川教授は「だからこそ今OAを義務化すべきだ」と主張します。そのこころは?
クロストークのはじまり、はじまり。
※聞き手:湯浅 誠
 
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林和弘/Kazuhiro Hayashi
科学技術・学術政策研究所(NISTEP)
科学技術動向研究センター 上席研究官
<プロフィール>
1995年頃より学術論文誌の電子化に関わり、科学研究から転身して電子ジャーナルの開発および事業を確立、日本の中ではいちはやくオープン アクセスにも対応した。現在は政策科学研究活動に従事し、日本学術会議の特任連携会員、科学技術・学術審議会下の委員等を 兼任。電子ジャーナルや科学技術・学術情報流通の将来を念頭においた調査研究や先導的活動を行う。Science Talksの活動を立ち上げからサポート。
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宮川剛 / Tsuyoshi Miyakawa
藤田保健衛生大学

総合医科学研究所 システム医科学研究部門 教授
<プロフィール>
遺伝子改変マウスの表現型解析を通じて、遺伝子・脳・行動の関係と精神疾患の発症メカニズムを研究。研究者の視点から研究環境の向上にかかわるさまざまなシステム改善への提言を積極的に発言。サイエンストークス委員を務める。ジャーナルのオープンアクセス推進を研究者の立場から提言。
 

第1話 オープン化で生まれてきた、研究者のコスト意識

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湯浅 宮川先生のご提案では、OA化を推進するポイントとして、まずはコスト面を挙げられていますね。
宮川 はい。紙媒体の学術ジャーナルはたくさん出版すればするほどコストがかさみますよね。そのぶんのコストを購読費で回収しなければならない。電子媒体が前提のオープンアクセスだと、初期コストとして論文をPDFにしてウェブサイトにホストにするところまでには費用がかかりますけど、一旦そこまでやったらあとは何部出ようとコストは変わらないわけですよね?
湯浅 確かにコスト面で言えば電子媒体のほうが圧倒的に安いですよね。
宮川 ええ。でね、ここがかなり肝心なんですが研究者の立場からすれば、自分の論文が掲載されたジャーナルの部数をなるべく多く売って「一部あたりいくら」で儲けて、それを自分の収入にするというようなモチベーションはあんまりないんですよね。
湯浅 確かに研究者の方々が「俺の論文載ってるからあのジャーナルの何号を買ってくれ」って宣伝することはまずないですよね。小説家みたいに印税で儲けるタイプのビジネスではないですからね。
宮川 ないんですよ。じゃあ研究者が論文を出版するモチベーションって何かといえば、自分の研究を世に出して、それをできるだけ広く沢山の人に広めたい。そのモチベーションを最適化しようと思ったら、一回論文を世に出したら、それをタダで配った方が広まりますよね。
湯浅 そうですよね。
宮川 そこが購読モデルの紙ジャーナルとオープンアクセスの大きな違いです。出版社からすれば紙媒体のジャーナルを中心に商売していると、電子化してもペイウォール(PayWall)、つまりお金を払って論文のPDF版がダウンロードできるシステムを設けないと、紙媒体のほうのジャーナルが売れなくなっちゃうから無料配布できない。紙のジャーナルが元にあることで、電子媒体のオープンアクセス化がいっこうに進まない諸悪の根源になっちゃってるんです。
湯浅 諸悪の根源を断ち切るために、紙ジャーナルは廃止するべきと。
宮川 さらに、2つ目のポイントとして、なぜ研究者がオープンアクセスを好むかというと、電子ジャーナルでは必要なだけのページ分量の論文を出版できる。紙媒体のジャーナルだとやっぱり一度に出版できる論文のページ数が限られてくるので、たくさんの研究をやっても全部の情報を詰め込めないわけですよね。電子媒体だと入れたいだけ情報を入れられる。じゃあ紙と電子と両方あるハイブリッド・ジャーナルでいいじゃないかと言われるかもしれないですが、それだと紙媒体のほうに紙面の数をあわせないといけない。これが無駄なんだよなあ。
 まったくおっしゃるとおりです。いや、感慨深いなあ。(笑)
湯浅 感慨深い、ですか?(笑)
 研究者がコスト意識を持つようになったんだなあ、と思ったら感慨深い気持ちになっちゃいました。いままではどちらかというと、研究者っていうのは自分の論文が出版されさえすればよかったんですよ。購読費モデルを採用しているジャーナルの多くは論文の投稿料がタダですから、いい論文ができたら自分が出したいジャーナルに出せばあとはなんとかなるっていう。ビジネス的な部分は研究者が意識しなくてよかったわけです。宮川先生のような研究者の方が論文出版のコスト意識を持ってその重要性を説かれているということ、そのこと自体が非常にエポックメイキングじゃないかなと思うんですよね。
宮川 研究者の中でのコスト意識って、多分最近出てきた発想かもしれないですよね。民主党の「仕分け」とかが出てきてからの話ですよね。
 特に情報発信に対するコスト意識が生まれてきたのは、今、ようやくという感じですね。これから先は避けて通れなくなってくると思います。これまでだって、ジャーナル購読費も考えてみれば研究者のみなさんが取ってこられた研究費から集められて支払われていたんですよ。特に日本の大学は図書館が予算を持ってないところがほとんどなので、研究費の間接経費で購読料を払っているんですよね。
宮川 そう。元を正せば、今のジャーナル購読料だって研究費だったわけなんですけれども、源泉徴収の税金と同じで、知らない間に取られていて使われていたんです。オープンアクセスの時代になって出版社課金、発信者課金というものに課金がシフトしていることで、コスト意識が生まれているという、そういう時代の流れだと思うんですよね。
 コストを意識するようになってきたもう一つの理由として、図書館での購読費がすごい高騰してきて、図書館が購読できないジャーナルが増えてきて、「これも読めなくなった、これも読めなくなった」っていうのが最近どんどん増えてきて、読める論文が少なくなってきているという、それで気づきますよね。研究者もコスト意識を持ってきますよね。
宮川 そうですよね。
 機関がとってきてくれて無料で読めるジャーナルが減ってくるので、「これはコストがかかってるんだな。」というのを実感せざるを得ない。
湯浅 それは、図書館の予算が減っているのではなくて、単純にSubscription fee、購読料自体が上がってしまっているから、今までの予算ではどうにもならなくなって購読を減らしているってことでしょうか?
宮川 どうにもならなくなってる、ということもあるけど・・・。。
 両方ですよね。今、予算的に図書購読費は増やせない。一方で論文の量が増えているから出版社側としては、これだけ論文の量が増えているんだから値上げしたい、という交渉にかかるわけですよね。でもそれがもう払い切れないレベルまで来てしまっている、と。
宮川 名古屋大学ですら払いきれないって、なかなか衝撃的です。日本を代表するような大学がジャーナルの購読を縮小しなければいけないというのは。
――研究者の論文出版のモチベーションは「自分の論文が掲載されたジャーナルを売ること」ではない、「自分の論文をなるべく多くの人に広めること」である、というのが今回のキモ。確かにそうですよね。研究者は自分の論文がなるべく読まれて引用され、実用化されることで本来は社会的インパクトを勝ち取って利益を得るわけですから。購読費モデルのジャーナルでは、冊数を多く売りたい出版社と論文をタダでもいいから広めたい研究者の目的は相反していますが、オープンアクセスであれば、研究者の立場から言えば「オレが出版費用出すから、とにかくたくさんの人に読ませてあげてくれよ」ということである意味両者にとってWin-Winのビジネスモデル。と、簡単に言うわけにいかなくて、すべてをOAにすることにホントに意味があるのか?という異論もあるみたいです。皆さんはどう思いますか?
トークはまだまだ続きます!
 
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<これまでのお話>
前夜 日本はジャーナルのオープンアクセス化推進を戦略とすべし!

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